第35話 野営とキコとパーティー
最上階である4階層は過半の壁をぶち抜いた領主の部屋になっていた。
無論、すでに荒れ果て、朽ち果て、辛うじてそうと分かる程度にしか痕跡は留めていなかったが……
2階層と3階層?
然程語ることもないのだが、ザックリ言えば1階層と同じく金目の物は持ち去られ荒れ果てていた。そして同じく俺の魔素察知で魔物の位置を特定してはキコとアケフが始末するといったコンボで駆逐しただけだ。
当然ではあるが、ゲームのように階層が変わるたびに段々と敵が強くなっていくといった仕様ではないようだ。ただ、縄張り的なものが関係しているのか、生息する魔物の種類には一定の偏りはあった。しかし基本的には1階層と同程度の力量の魔物が跋扈しているだけであった。
他に強いて語ることがあるとすれば、1階層で覚えた違和感、それと同じものをやはり各階層の半ばを過ぎたところで感じたくらいだ。
そんなわけでサクッと最上階に到達した俺達は、そこで小休憩を取ったのち、4階層の探索を開始して、それが終わると拠点にしている1階層のホール脇の小部屋へと戻った。
「今日はこのくらいにしてここでもう1泊しよう。で、明日地下層を掃討してから、午後にでもコペルニクへ戻るわよ」
まだ陽は落ちていないが、キコは無理はしないと決めたようだ。中途半端に地下層を探索するよりも、ある程度の安全が担保されているこの拠点で身体を休めて明日に備える。安全マージンを取った妥当な判断だと思う。他のパーティーメンバーにも異論はないようだ。
方針が定まると俺達は今夜の見張りのローテーション決めに入った。
昨夜同様に斥候スキルが高いサーギルとイヨ、そしてアケフと俺は別々の組になるため、必然的に組む相手は限られてくるのだが、何故かパープルからの視線が熱い。
そんなパープルにキコから無慈悲な宣告がなされる。
「今日は昨日とは別々のチームでローテを回そう!ライホーはあたしと。他はそれぞれで決めてね」
崩れ落ちかかるパープルの姿を、イヨが疑惑の眼差しで見詰めていた。
寝不足、世界の真理の一端を識る、気の昂り……。今朝のパープルの言葉だ。
いや、違うから!俺とパープルはそんな関係じゃないから!
□□□
「昨夜はパープルと話が弾んでたみたいだけど、まさか呑ませたわけじゃないわよね?」
「いや、流石にそれはないぞ。素面で語り合っただけさ」
「それにしちゃ、あのパープルが随分と御機嫌だったわね。今晩もあんたと組みたがってたみたいだし」
それが分かっていて引き離したのかよ?まぁ俺としてもヤロウと組みたいわけではないから、それで全然構わないんだが……
「実を言うとね、ライホー。今晩あたしがあんたと組んだのは、二人だけで少し話したいことがあったからなの」
そう言うとキコは真剣な眼差しを俺に向ける。
「ライホー、あんたそろそろウチのパーティーに入らない?前に誘ったときは見事に振られたけど、あのときあんたは、暫くはパーティーに縛られず剣の腕を磨きたい――そう言っていたわよね?」
あぁ、そうだった。1年半前、あの緊急依頼の直後に俺は初めてキコからパーティーに誘われた。そして俺がパーティーに誘われたのはその一度きり。ハイロードはもとより、他のパーティーからもその後は一度も声がかかっていない。
「アケフから聞いたの。あんた、あのお師匠さんからもう剣の腕は伸びないって言われたらしいじゃない?ならもういいんじゃない?パーティーに入ってもさ」
「あのとき俺は、勝てはせずともオーガ一体程度は単独で抑えられる腕前になりたい――確かそうも言ったはずだ。そうじゃなければお前達の足手纏いになっちまう、そう思ったんだ。今の俺はキコの目から見てどうだ?」
「はぁ、あんたねぇ、あたしらはあんたを前衛にしたいわけじゃないのよ。前衛はあたしとイギーとアケフで充分。あんたは中衛よ。あんた、あの頃は苦戦してたオークを安定して狩れるようになったんでしょ?中衛としてならそれで充分よ。あたしらはそれ以上は望まないわ。それよりもあんたの気配察知の業とか、謎の魔法とかにはスゴク期待しているんだから!」
キコはそう言うと、俺に片手を差し伸べてきた。
「俺は昨夜、パープルに俺の魔法の秘密を打ち明けたんだ。今朝パープルが御機嫌だったのはそのためさ」
「じゃぁ……」
「あぁ、この依頼が終わったら俺の方からお願いしようと思っていたんだ。今回の俺の働きぶりを見た後で皆から判断してもらおう……って。けど……またキコの方から言わせてしまったな。スマン」
俺は差し伸べられたキコの手を握り返し、そう告げた。
「ライホー、歓迎するわよ」
「いいのか?皆に相談もなしで?」
「皆もとっくにそのつもりよ。あんただけよ、グチグチと要らんこと考えてたのは!」
■■■■■
翌朝、キコから俺のパーティー加入が皆に告げられた。
――漸くですね。ライホーさん。よろしくです。
――魔法組の守りは任せた。
――同じ中衛同士、今まで以上にイロイロと話さないとね!
――今ならオーガ一体くらい、ボクと二人で抑え込めるかな?
――魔法の深淵……共に極めん。
中二病チックの怖いコメントと、同じ中衛職の意味深なコメントはスルーしたが、他の連中とは朗らかに言葉を交わし、ハイロードは新たに7名体制で稼働することになった。
その後、俺達は地下層の掃討に入った。
結果して地下層は他の階層の半分程度の広さしかなく、また、徘徊する魔物もほぼ存在しなかったため、午前中のそれも早い時間帯に確認は終わってしまった。
「なんだか拍子抜けだったわね」
「だから言っただろ?この辺にゃ、つえー魔物なんていねーってさ!」
相変わらずサーギルはフラグを立てるのに必死である。まるで何かに取り憑かれているかのようだ。是非とも止めてほしいものだが……
「じゃぁ依頼としてはこれで達成でいいのかしら?」
「あぁ、ギルドとしてはこれで構わないぜ。依頼達成だ。お疲れさん」
1階層のホールに戻った後、パーティーリーダーであるキコがギルドの検分役であるサーギルに確認をするが、俺はそこに割って入る。
「スマンが少し待ってもらえるか?」
「なんだよライホー?おめぇのCランクも問題ないぜ」
「いや、そうじゃないんだ。これから皆にある提案をしたいんだが構わないか?それと、その前にサーギルには訊いておきたいことがある」
俺はパーティーメンバーの了承を得たうえで、サーギルに訊ねた。
「以前あんたは、この依頼は乱取分も含めた依頼料だ――と、そして金目の物がなくなってからは有望な冒険者の登竜門という名誉を上乗せしている――そう言っていたな」
「あぁ、そうだな」
「今でも乱取りの方は有効なのか?」
「うん?こんなガラクタ、金になんかならんだろ?」
「大事なことだ。確認しておきたい」
サーギルの目が鋭さを増す。俺の意図を察したようだ。
「あぁ、今でも乱取りは有効だぜ」
「それはこの城内の全てのモノが対象なんだよな?」
「何を見つけたかのは知らんが、そのとおりだ。そこは伯爵とギルドで交わした覚書に明記されているさ」
「ちょっとライホー、どういうこと?何を見つけたのよ?」
「あぁ、パーティーリーダを差し置いて新参者が出しゃばってスマン。実はまだ見つけてはいないんだが、その辺をこれから説明させてもらうよ――」
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