第33話 違和感
慌ててサーギルの口を塞いだ俺の振る舞いは、他の連中からは怪訝な目で見られたが、それでもフラグは折っておかなくてはならない。
あんな分かりやすいフラグなんて立てられたら、それこそドラゴンでも出現しそうだ……ってか、こうした発言すらもそのままフラグになっちまうのが、このフラグという存在の厄介なところだろう。
無理矢理サーギルを黙らせた俺は、強引に話題を変える。
「んで、これからどうすんだ?キコ」
「まずは……このホールを暫定的な拠点にして、城の周囲の危険確認だね。その後は少し休憩してから1階層の魔物を討伐しよう。1階層の魔物の気配はどう?ライホー」
「ちらほらってところだ。そんなに多くはない。大きな気配も感じないな」
「おいおい、ライホー!お前、そんなことも分かるのか?」
驚いたサーギルが訊ねてくる。
「あんただって分かるんだろ?イヨに聞いたぜ」
「ライホーさんのレベルでできる人なんていませんから。ねぇ、サーギルさん」
「アケフの言うとおりだ。俺もアケフも少しはできるつもりだが、この1階層全域をカバーするなんて……お前なぁ」
呆れて徐々に声が小さくなったサーギルにモーリーが訊く。
「もうライホーには昇格試験なんて必要ないんじゃないですか?サーギルさん以上ならCランクで問題ないんじゃないかなぁ」
「ホントに感知できているなら……な。でも実際にそうなのかを確認してからでねーとよ」
「ははっ、確かに。自己申告では昇格させられませんよね」
□□□
その後、俺たちは城の周囲の探索を行うべく、キコとアケフを先頭に一団となって歩き始めた。
魔法組の護衛にはイギーが付き、イヨも遊撃として周囲の警戒を怠らない。ここまでで6人パーティーとしての彼らは完成している。何の不安もないフォーメーションである。
俺はそんな彼らの後に、サーギルは更にその後ろから続く。
「あれ?池があるね!」
先頭のキコが素っ頓狂な声をあげる。
それは石材で囲われたしっかりとした造りの池で、雨水を貯められるようになっていた。おそらく貯水槽としての機能も併せ持つのだろう。長年放置されていたため、水底には落葉などが堆積していたが、池の上部に半分迫り出した庇のせいか、あるいは風向きのせいか、その堆積度合いは少なく、未だ充分に使用に耐えるものであった。
「城壁とかと比べると随分とキレイだね」
「水に異物が混入しにくいように場所や配置を考えて造ったんだろうね。生活魔法の水だけじゃ魔力が足りないときもあっただろうから、井戸も掘れない山城では雨水だって貴重品だよ。それに使われている石材からも微量の魔素を感じるから、もしかすると特殊な加工も施してあるのかもね」
キコとモーリーが分析する。
「こっちには空堀があるよ」
「背後からの敵を防ぐためだろう。こっちは随分と土砂が流入して浅くなっているな。造った頃はもっと深く、傾斜も急だったと思うぞ」
俺も前世での山城の知識を生かして会話に加わる。
陽が中空に差し掛かる頃、俺達は城の周囲の探索を終え、付近に危険物や魔物の巣がないことを確認した。
ホールに戻った俺達は、二手に分かれて交代で30分ほど休憩をとる。
今日は日の出とともに急峻な斜面を登り、ときに魔物とも闘いながらこの古城に辿り着いたのだ。この世界では明確に昼食という概念はないが、少しは身体を休め、腹に何か入れておかないと午後からの討伐に差し障る。
俺はオーク肉のジャーキーとナッツ類をよく咀嚼して嚥下すると、生活魔法で口腔内に直接水を生み出し口を漱ぐ。この口腔内に水を生み出す手法は、皆も聞いたことがない珍しい魔法の使い方らしく、通常、生活魔法で水を飲む際は、掌に水を溜めて飲んでいるらしい。
以前俺がこのやり方をアケフに教えると、彼はパーティーメンバーにも伝えたようで、パープルとモーリーの魔法組は容易く真似をしてその利便性の高さに感心していたようだ。しかしこれは意外とコツがいるらしく、アケフとイヨは半月ほどの訓練で何とかできるようになったが、キコとイギーはもう諦めてしまっている。
このように同じ生活魔法でも、その使い方や練度は人によって様々で、比較的魔法に親和性が高い者ほど高度な使用が可能となるようだ。
■■■■■
1階層の魔物の駆逐は順調であった。
確かにサーギルが言ったとおり「つえー魔物なんていやしねーよ!」であった。
俺が魔素察知の力で次々と魔物が潜む位置を特定し、キコとアケフが吶喊して始末するといったコンボで、魔法組やイヨの出番はほとんどないまま1階層の過半を掃討してしまった。
「ライホー、あんたマジで1階層全域を気配察知できるんだな?」
「だからそうだって言っただろ。まぁサーギルが信じられなかった気持ちも分かるがな」
「ったく、どんな訓練積んだらそこまでできるようになるんだよ?もういいさ。この依頼、無事に完了すればあんたはCランクだ。おめでとさん」
「よかったですね。ライホーさん」
「あぁ、ありがとう。アケフ」
「ただ、言っとくぞ、ライホー。お前さんの剣技はせいぜいDランクだ。今回は斥候技能も込みの昇格だが、もう少し腕を上げないとこの先はキツイぜ!」
そんな会話を重ねつつちょうど1階層の半ばあたりを過ぎた部屋に入ったときであった。
「???」
何だ?この違和感は?
上手く説明はできないが、何かが引っかかる。
強大な魔素が漂うだとか、それが急速に接近してくるだとかといった直接的な脅威ではないのだが、何故だかしっくりこない。
俺はキコに断りを入れてから、アケフと共に一度部屋を出て、この部屋に入る前に潜入した隣室に戻ってみた。そこでも俺は先程は感じ得なかった違和感を新たに覚えた。
「何か感じないか?アケフ」
「いえ、特段何も……ライホーさん、何か感じるんですか?」
「いや、分からないんだ。分からないんだが、何かが引っかかる……」
俺はその場で暫く考え込んだが、何も閃かない。今回は毎度お馴染みの逆に考えても何も思いつかなかった。
しかし、これ以上あまり拘っていても仕方がない。即応が求められる危険が生じていない以上、とりあえずは後回しだ。
俺達は隣室で待つキコ達に合流すべく部屋を出た。
「すまない。具体的には説明できないんだが、何か違和感があってな」
「そういう感覚は大事だぜ。特に斥候職にはな」
サーギルはそう言ってくれたが、何もなければ無駄に皆を惑わせてしまうことになる。
「けど具体的な脅威がない以上、今は1階層の掃討を先にしましょ。でもみんな油断はしないでね。ライホーがそう言う以上、何かあるのは間違いないんだから」
キコは現実的な対応を提示しつつもしっかりと俺をフォローしてくれる。ホントこの子、若いのにオトナだなぁ。
その後、俺達は陽が暮れるまでに1階層の全エリアを制圧した。
やはりサーギルが言ったとおり、強力な魔物は存在せず、前半戦と同じく魔法組やイヨの出番はほとんどなかった。
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