第26話 タイトル考えるのって意外とメンドイな(ボソッ)
あのオーガはもうこれ以上脅威にはならない。キコとイギーが戻ったら彼女らにサクッと殺ってもらおう。
そんなことを思っていると、そのキコとイギーが戻ってきた。
彼女らはボロボロの形で細かい裂傷も数多負っていたが、大きな怪我はしていないようだ。
イギーは暴れるオーガに静かに近付くと素早く背後へと回り込み、徐に盾で殴り倒してから昏倒したオーガの咽喉元に肉厚な短剣を刺し込んで息の根を止める。ここまで僅か30秒足らず。
をぉ、スゲェ手際だな……さらばだ、傷だらけの□ーラ。
「よく生きてたね!正直ダメだと思ってた。ゴメンね、無理させて」
をぃ!キコよ……それはないだろ!
「いやぁ、やっぱパープルの魔法スゴかったよ。あれがなきゃ死んでた。あと、今回もライホーがやってくれたよ!」
モーリーが大仰に俺を称えてくれたところに、イギーが帰ってきてボソリと呟く。
「あのオーガ、両目が無かった」
「えぇっ?」
「私の矢が偶然片目を。もう片方はライホーが……」
イヨの言葉を受け、流石にキコが疑惑の視線を俺へと向ける。
「企業秘密だ……」
「うん?キギョウ……って?」
あっ、ヤベ。
「なんでもない。気にするな。俺の秘術だ。詮索するな」
「あっあぁ、分かったよ。ゴメンね」
こうして俺にとって初の緊急依頼は終わったのであった。
■■■■■
「悪かった。俺達が取り逃がしたオーガがお前達を襲ったようだ」
緊急依頼の後、俺達はギルド2階のマスタールームでAランクパーティー「ローリングスターズ」のリーダー、リグダスから謝罪を受けていた。
「いや、緊急依頼中です。気にしないでください」
普段とは違う神妙な振る舞いでキコが応じる。
事情を訊くと、どうやら彼らローリングスターズは大森林深層部での調査中、大規模なオーガの巣穴を発見して駆逐を試みたのだが、4、5体ほど取り逃がしてしまったのだそうだ。そして、そこから逃げ出したそいつらが俺達を襲ったらしい。
別に魔物を擦り付けたわけではなく、全くのところ防ぎようのない事故なのだが、AランクパーティーがCランクパーティーに下手を打ったということで、ギルドの仕来りとして仁義を切る必要があるとのことだった。キコの返答も紋切り型であるらしく、要は後々禍根を残さないための儀式でしかない――が、意外とこういった儀式は大切なのだ。
また、上位者であるローリングスターズにしても、予め仕来りとして定まっていれば頭を下げ易いというメリットもあるのだ。
俺は半世紀以上にも及ぶ人生経験からそのことを知っているが、流石のキコも若さからかその辺はまだピンときていないようだ。
「それにしてもお前らは凄いな。Cランクパーティーが6人であのレベルのオーガ4体を相手取って死者どころか大きな怪我人すら出さんとは……」
「それには俺も驚いている。結局お前ら10体以上のオーガを仕留めたんだって?しかも正規メンバーじゃない
型通りの儀式後、ローリングスターズのリーダ、リグダスの言葉にギルマスが続く。
「急遽ライホーを入れてくれたお陰でウチのメンバーの命が助かりました。ギルマスには感謝します」
「おう、そうか。ただのEランクじゃないとは思っていたが、キコに評価されるたぁ大したもんだ。んで、コイツどんな戦い方をするんだ?剣術は素人に毛が生えたレベル、魔法もおサイフ魔法なんだろ?そんなんでキコから感謝されるほど戦えるんか?」
ギルマスは遠慮会釈なしにガッツリ俺の秘密を暴こうとするが、キコの返答は釣れないものであった。
「いくらギルマスでもウチのパーティーメンバーの秘密は明かせません。だけど彼――Eランクに留めておくには惜しい人材です。早いトコDでもCでも上げてくださいよ」
「なんだお前ら?ライホーもパーティーに加えるつもりか?今回の緊急依頼でキコとイギーとパープルの3名はBランクに昇格させるから、ハイロードのBランクへの格上げは既定路線だったんだが、ライホーを加入させるとなるとBランクパーティーにはなれんぞ」
なんか勝手に俺がハイロードに加入する流れになっているが、流石にそれはない。正直今の俺ではあのレベルの戦闘についていける自信がないのだ。
ほかに俺をパーティーに誘ってくれる奴らなんていない中、これは非常に嬉しい申し出ではあったが、俺は断腸の思いで断らせてもらった。
「俺はハイロードには入らんぞ。まだ暫くソロで経験を積むつもりだ」
「なんだい、そうなのかい?アケフ……と、イヨが悲しむよ!」
「なんでそこに私も出てくるのよ、キコ!」
俺の返答にキコがボケてイヨが突っ込む――でいいんだよな?ボケ突っ込みじゃなくマジってわけじゃないよね?
ちなみに……パーティーランクというのは、パーティーの構成員の過半数以上が属している最上位の個人ランクによって決まり、パーティーランク指定の依頼を受けることができるなど、高ければ高いほどよいのは個人ランクと同じである。ハイロードの場合は、今回の緊急依頼でキコとイギーとパープルがBランクに昇格するようなので、6名中3名がBランクとなりパーティーとしてもBランクになるとのことだ。しかし、そこに俺が加わるとBランクメンバーが過半数を切ってしまうので、Bランクパーティーにはなれないということらしい。
まっ俺は端からパーティーに加わる気はなかったから問題ないんだけどね。
「モーリーとイヨは今回の戦果ではちょっと物足りない。が、もう少しでBだ。精進してくれ」
結局、冒険者の個人ランクがBに昇格するための条件ってのがイマイチ分からなかったのだが、まさかギルマスの独断、感覚次第……ってことはないよな?
「あとライホー、お前は半年前にEに上げたばかりなんで流石に今すぐDにはできん。だがこの調子なら早ければあと1年だ。それでも最速クラスの昇格だから、焦る必要はないぞ」
いや、別に焦ってはないんだけどな……
■■■■■
そういや、今回、モーリーから治癒魔法を掛けてもらって検証できたことがある。
それは治癒魔法によって怪我が治る仕組みについて、である。
治癒魔法について俺がこれまで想定していたパターンは二つある。
一つは怪我をする前の状態に戻すこと、つまりは時を遡及することである。そんなイメージで描写されたアニメなども観たことはあったが、現実問題として時の遡及は非常に難易度が高いと思われる。そしてこの方法の場合、おそらく筋力等の能力値は上昇しないと考えられる。
前にも述べたが、筋肉は損傷して回復するときに強くなるらしい。しかしこの方法は痛んだ筋肉が回復するのではなく、元に戻るだけだからそこで筋肉は強化されないのではないだろうか。
もう一つのパターンは回復を促進させること、つまりは時を加速させることである。これは実際には時計の針を早回しするのではなく、魔法により細胞分裂を促進して怪我の治癒を早める形になるのだろうが、この場合は実際に傷んだ筋肉が回復過程で強化されるので、筋力値は上昇すると思われる。
結果として筋力値は上昇していた。
これは後者――つまり治癒魔法は細胞分裂を促進して怪我を治している可能性が高いことを示唆している。
しかしこの場合、筋力値が上昇するのはいいのだが、細胞分裂が加速されることでテロメア短縮が生じ、細胞が老化する可能性があるのは考えものだ。
まぁ、毎日のように治癒魔法を掛けてもらうような極端なことをしなければ然程問題はないと信じたいのだが……
残念ながら「図解!パンゲア超大陸解説之書」にそこまでは記されていなかった。
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