第25話 逆に考えるんだ
まぁ、そんなことはいい。
マジで俺たちの戦いはこれからなんだから。
迫る手負いのオーガに最初に立ち塞がったのは意外にもモーリーであった。
「鎚矛の方がリーチがある。先手はボクに任せて!」
うーん、パープルはツンデレで、こいつはボクっ娘……じゃないボクっ子か。二人とも男だぞ!何の需要もない!
いや、ボクっ子はホントは男が正しいのか?うん?ホントによかったんだっけ?
――イカン、イカン。くだらんこと考えてないで集中しなくては。
オーガは基本的に無手である。
ゴブリンやオークのように武器を持つことはなく、その強靭で俊敏な肉体を活かし、拳で戦う。だから俺の重力魔法は通じない。
モーリーは俺のゴブリン戦を見ていて何か察するものがあったのだろう。それとなく先手を買って出てくれた。
俺はその好意に甘え、与えられたこの機会にパープルの魔法によるダメージを分析すべく、オーガのステータス画面を開く。
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名前 傷だらけのオーガ
種族 亜人属 オーガ種
性別 女
年齢 32
魔法 なし
【基礎値】 【現在値】
体力 18 11
魔力 4 3
筋力 19 14
敏捷 14 10
知力 6 5
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合計 61 43
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ヤベェ、ヤベェ、名前ヤベェ……□ーラみたくなってる。
じゃない。基礎値がヤベェ。こんなん人間じゃねーって、あっ人間じゃなかったか?
うん?亜人属なんか?オーガって。そういやユージ□ーも人間だしな。
いや、それよりも現在値の方だ。激減してるじゃん!?スゲェな、パープルの魔法。
仕留めた1体目の後ろにいた個体にまでこんな大ダメージ与えたんか?俺も魔法無双でこんなんしたかったんだけどなぁ。
そして意外にもモーリーは善戦している。
ここまでダメージを受けたオーガが相手なら、モーリーも防御に徹すれば死なない程度には戦えるようだ。ただ、着実に攻撃は受けているし、ジリ貧であることは間違いない。
よし、ここは俺とモーリーで時間稼ぎの一手だな。キコとイギーが無事に戻ることを祈るしかない。
俺は他力本願に賭けることにした。
まぁ、阿弥陀如来なんて
俺はモーリーとオーガの間に割って入り、その剛腕を丸小盾で受ける。
まだ未熟ながらもお師匠から教わった受け流しの業を使っているので、ゴブリンとの初戦のときのようによろめいて1mも後退ることはない。オーガが相手であっても2、3歩踏鞴を踏む程度でなんとか堪えることができている。ありがとう、お師匠。
その隙にモーリーが鎚矛でチクチクと嫌がらせの攻撃をする。モーリーも俺と同じく時間稼ぎに徹することにしたようだ。
モーリーにヘイトを向けたオーガの前に俺は回り込み、モーリーを庇う。モーリーは次なるチクチク攻撃に向けて位置取りを変える。
そんな地味な防御戦に徹してから5分ほど経ったときであった。
すでに俺もモーリーも限界が近付き、かなり動きが鈍っていた。お互いに動き出しが遅れたその隙をオーガは見逃さなかった。
オーガの拳がモーリーを捉えた。辛うじて俺の盾を掠めたこともあり、生死に直結することはなかったが、吹っ飛ばされたモーリーは呻き声をあげて動くことができない。
万事休す――である。
俺だけではとてもオーガを抑え込むことはできない。
そのとき、俺の背後から放たれた矢がオーガの片目を貫いた。一瞬だけ振り向くと、すぐそこに弓を構えたイヨがいた。
あらためてオーガを見ると、奴は自分の眼球ごと矢を引き抜き――そこで食べろ!夏侯惇!
ダメだ。こんなときでもくだらないことを考えてしまう俺の悪癖は死ぬまで治らないんだろう。いや、すでに一度死んでいるんで、死んでも治らない――が正しいのか?
自分の眼球を食べることはなく矢ごと打ち捨てたオーガは、たった今隻眼となった目でイヨを憎悪を込めて睨みつける。
一気にイヨとの距離を詰めようとするオーガの前に、俺は思わず立ち塞がっていた。
まだ加速前であったこともあり、俺とオーガは縺れ合いながら地べたに転がった。
俺は何度か組んず解れつして足掻いてみたが、やはり地力の差は歴然である。
オーガはすぐにマウントポジションを取り、俺の両腕を押さえつける。イヨに射られた眼球があったはずの眼窩から血が滴り落ち、俺の頬を濡らす。奴は臭い口を開き雄叫びをあげる。
こいつ雌だったよなぁ。こんな女に組み敷かれて俺は二度目の人生を終えるのか?
糞ポンコツ神め!もっとチート寄越しておけばこんなことには……
イヨも必死で弓を射ているが、俺に当てないよう気を使っていることもあり、あんな奇跡は二度と起こらない。そしてイヨの弓では牽制程度はできても、オーガに致命傷を与えることはできないのだ。
最早オーガはイヨには目も呉れず、俺に止めを刺そうと牙を剥く。おそらく俺の両腕を押さえたまま、首を噛み千切ろうとしているんだろう。
イヨの弓がもう一方の目を射抜けば俺達の勝ちなんだが――そう都合よくはいかないわな。
あの目さえなければ……
こいつを重力魔法全開で軽くしたところで、押し退けられるほど軽くなるとは限らないし、全魔力を使い果たしてしまえばその先できることはない。
こんな危機は転移直後のあの2体のゴブリン戦以来だ。
あのときは某英国紳士の科白が俺を救った。
……逆に考えるんだ。
――
――――
――――――ダメだ!何も思いつかねー!
――――――――うん???やっぱ逆でいいんだ!!!オーガを軽くするんじゃない。重くするんだ!
俺は即座に魔力を鼻先に集めると重力魔法を発動し、オーガに向けて放った。ただし、奴の隻眼に向けて――
□□□
あっぶねー、マジで死ぬかと思った!
俺の横では両目を失って混乱の極みにあるオーガが怒り狂って腕を振り回している。
あのとき俺は奴の隻眼を極限まで重くした。
するとその眼球は重さに耐えきれず周囲の筋繊維や神経などを引き千切り、眼窩からずり落ちてきた。
ガボッ――
ゲホッ、ゲホッ――
両目を失ったオーガは俺の上から離れ、両目を押さえてのた打ち回っている。
そして俺は――奴の目がそのまま俺の口腔にハマり、窒息死しそうになっていた。まさかの俺の方が夏侯惇状態であった。
イヨがハイムリック法で助けてくれなかったら俺は死んでいた。なんせ鉄球以上にまで重くなった目なので、簡単には取りだせなかったのだ。それにしてもこっちの世界にもハイムリック法があったとは吃驚である。
こうしてとりあえずの安全を確保した俺とイヨは、暴れ回るオーガに悟られぬようモーリーの元へと向かった。
どうやら彼は無事なようだ。オーガにやられたダメージも和らいだようで、自身に治癒魔法をかけられる程度にまで回復していた。
「ライホー、やはり君は興味深いね」
チッ、また厄介なヤツに厄介なところを見られたな……
「――まさか敵の目を食べる魔法があるなんてね!」
んなわきゃねーだろ!――そう突っ込んだ俺に、モーリーはニヤリと笑って続けた。
「ボクはもう君を詮索する気はないよ。なにせボク達は命を預け合ったパーティーメンバーなんだからね」
そのモーリーの言を受け、俺もニヤリと笑い返した。
「もう!二人してなにバカなコトしてるのよ?ほらオーガに気付かれるわよ」
そんなイヨの言葉に我に返ったモーリーと俺は、イヨと共に急いでパープルの元へと向かった。
その途中、前を進むイヨが意を決したように振り返る。
どうした?――と訊いた俺に、イヨは小さな声で囁いた。
「アリガト、ライホー。私を庇ってくれて。カッコ悪かったけど、カッコ良かったよ」
なんじゃい?それ?
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