第23話 アレの日
キコは相変わらずの素早い動きと見事な剣捌きでオーガ1体を翻弄していた。順調にダメージを与えているし、このまま横槍さえ入らなければ無傷で倒せるだろう。
イギーの方も順調だ。一番大柄で強そうな個体を巧みな盾術で完全に抑え込んでいる。キコが今の相手を仕留めれば、後は二人掛かりでどうにでもなる。
パープルの魔法も相変わらず強力で、さっきの見掛け倒しの派手なのとは違って、残り1体の足止めには充分だ。
イヨの弓は普段より少し精彩を欠くけれど、パープルの補助としては完全に機能している。
油断する気はないが、オーガ3体を相手取っても全く不安がない。ホントならこれにアケフが加わるんだから、Bランクパーティーにも引けを取らないな。
……それにしても、ライホーって何者?
確かに身体は大きいし装備も上等だけれど、剣の腕は素人臭く、キコやアケフとは比較にもならない。なんなら素人に毛が生えた程度のボクより若干上――ってレベルでしかない。とてもゴブリン十数体を相手取れるような腕じゃない。
でも、ほかの連中はオーガ戦に集中していたから気付かなかっただろうけど、あのゴブリン共の異様な行動。こっちに近付いた途端、次々と棍棒を取り落としていたよな?僅かに発光していたから魔法攻撃を受けたのは間違いない。
ライホーはあの魔法でゴブリンを狩りまくっていたってわけか。オーガクラスには歯が立たなくても、武器を持たないゴブリン程度ならば確かにライホーの腕でも容易く殺れるが――
キコとパープルには止められちゃったけれど、あんな魔法はこれまで見たこともない。パープルなら魔法使いとして興味が湧くに違いないんだけれど……逆に魔法使いだからこそ魔法技術の秘匿には人一倍理解があるって感じだしなぁ。
アケフなら多分どんな魔法かも知っているんだろうけど、教えてくれる感じじゃないし……
それにしてもライホーっておサイフ魔法も持ってたよね?何気にパープルと同じ2つ持ちなんだな。軽戦士っぽい格好だけど、実は魔法の才能もあるのか?
■■■■■
その後も俺達はほかのパーティーが敬遠するオーガを中心に狩りを進めていった。
どうやら、大森林の深層部から出てきている強力な魔物は、オークとオーガがメインのようだった。
そして俺の魔素を察知する能力はやはり相当なモンのようで、魔物をいち早く発見して優位な陣形で相対することができるので、ハイロードの面々も驚いていた。
「それにしてもライホーの魔物の気配察知はスゴイね!」
「まぁな(気配ちゅーか、魔素を感じているんだけどさ……)」
「アケフも凄かったけど、ライホー、あんたは図抜けているよ」
キコが褒めちぎってくる。やはり俺の魔素察知は別格のようだ。
儂やアケフもそこそこできる方なのじゃが、お主には到底及ばんのぅ――以前、お師匠はそう言っていた。
でもキコにとってはそのアケフでも凄いらしい。俺の魔素察知って一体どんなレベルなんだろう?
「普段はアケフが索敵するのか?」
「いや。それはイヨの方が上だから。イヨの場合は気配を察知するんじゃないけどね。視覚と聴覚が凄いんだよ。今日はラクできていいね!イヨ」
そういや、朝、イヨのステータス画面見たらちょっと体調悪そうだったけど、大丈夫なのかな?
俺は改めて確認してみた。
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名前 イヨ(弓使い、美貌エルフ、多分平坦(要確認!)、体調不良?)
種族 亜人属 エルフ種
性別 女
年齢 21
魔法 生活魔法、空間魔法
(前回閲覧時)
【基礎値】 【現在値】
体力 8 6
魔力 6 5
筋力 9 8
敏捷 14 12
知力 8 7
-------------
合計 45 38
(今回閲覧時)
【基礎値】 【現在値】
体力 8 5
魔力 6 4
筋力 9 7
敏捷 14 10
知力 8 6
-------------
合計 45 32
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あぁ、更に能力値が低下してるじゃん!ちょっとヤバくないか?
「イヨ、お前さん大丈夫か?体調が悪いんじゃないのか?」
俺がマジな表情でそう訊いたところ、イヨは驚いた顔を俺に向けた。その顔は告げていた。何故分かったのか――と。
「ライホー、ちょっと」
俺をメンバーから離れたところに引っ張って行ったのはキコである。キコは声を潜めて訊く。
「あんた、何故気付いたの?ほかの男共はサッパリだってのにさ」
まさか、ステータス画面の事を話すわけにもいかない。
「いや、彼女がなんか辛そうにしていたから……それに美人だからちょいちょい目に入るしさ」
俺は目を泳がせながら下手な言い訳をした――が、やはり下手過ぎたようだ。俺を見据えるキコの目は全く納得していなかった。
「ふん、まぁいいわ。これ以上心配されてほかの男共にバレても困るから教えといてあげる。イヨは今日、オンナのコの日なの。意味分かるわよね?」
オンナのコの……あっ、あぁ――俺は黙り込むしかなかった。
「私はそんなんでもないけど、イヨは症状ひどくてね。普段は男共に気付かれないように私が日程調整しちゃうんだけど、今日は緊急依頼だからそうも言ってられなくてさ」
「おっ、おぅ、そうか……余計なコト言って悪かったな」
「いいのよ。謝ることじゃないわ。イヨの体調を気遣っててくれたってことでしょ?Eランクのくせに余裕あるじゃない。緊急依頼中だってのにさ。でも……ほかの男共に言うんじゃないわよ!」
前世で50年、今世で1年、計51年にも達した俺の人生であったが、とてもお師匠のような貫録を醸し出すことはできず、俺は25歳のオンナノコからひたすら上から目線の指導を受けていた。
「だけど――今日はあんたがいてくれて助かったわ。イヨの負担が大分軽くなったから。アリガトね」
そう言うと、キコは軽やかな足取りでメンバーの元に戻って行った。
最後はさり気なくフォローして去っていく……か。若いのに大したもんだな。
取り残された俺は、キコのパーティーリーダーとしての資質と気遣いに圧倒され、呆然と立ち尽くしていた。
とは言え、この危険地帯でいつまでも独り立ち尽くしているわけにもいかない。俺は気持ちを再起動させると皆の元に戻って行く。そんな俺にモーリーが語りかける。
「なんだったんだい?ライホー。イヨの体調が何とかって?」
チッ!モーリーめ!意外と空気読めないんだな。今は訊くなよ――と思ったところで、突然キコから無慈悲な誹謗中傷の言葉が浴びせかけられた。
「イヨが美人だから気を引きたかったんだってさ。やーねー、宿屋の女将とよろしくやってるくせにさ!」
無論、冗談めかして言っていることは分かっているが、俺は思わず抗議の声を挙げた。そんな俺にモーリーは声を出して笑い、イギーは軽く微笑み、パープルは無表情を決め込み、イヨは赤面していた。
パーティーを上手くまとめる力量が、キコにはあるようだった。
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