第22話 オーガ戦(俺だけゴブリン戦)

 少し早めに街道を逸れて大森林に分け入った俺達は、腰よりも高い雑木を掻き分けて進む。

 噎せ返るような新緑の香りと黴臭い土の臭気が混じり合い、その濃密な空気で鼻がバカになりそうだ。これは嗅覚頼りの索敵を行う者には難儀であろう。


 そんな中、パーティーの先頭は俺とアタッカーのキコである。そして中団にはパープルとモーリーの魔法組、遊撃的に弓使いのイヨを配し、最後尾はタンクのイギーといった布陣である。

 キコは盾代わりにも使える幅広の両手剣、俺は片手剣で草木を薙ぎ払う。パープルは何かしらの魔核が組み込まれている杖で蜘蛛の巣を払い、モーリーは鎚矛で足元の邪魔な枝を叩き潰して退路を確保する。イヨはときに樹上から索敵しながら並走し、イギーはバックアタックに警戒しつつ最後尾を進む。



 街道に魔物が出現した辺りの大森林浅層部、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。


 分かってはいたことだが、深層部の魔物の相手はDやEランクパーティーには荷が勝ち過ぎている。

 Cランクパーティーでようやく勝負になる……ってところで、DやEの連中は複数パーティーが組んで何とか戦っている。


 そんな中、ハイロードはやはり強かった。


 彼等は既に戦端を開いていた冒険者と魔物を側面から急襲し、奇襲とはいえ危なげなくオーク2体の命を刈り取った。

 緊急依頼中は魔物の横取りは不問とされる。魔核を取り出す時間がない場合も多く、何よりも目的の達成が最優先されるからだ。逆に魔物の擦り付けといった通常であれば罰則モノの行為であっても、状況によっては許されたりもする。


 周囲を見渡すと、普段はゴブリン程度しかいない浅層部に、偶に見かける程度のオークが相当数進出しており、稀にオーガまでもがいるようだ。

 C、Dランクパーティーの連中はオークとはいい勝負を繰り広げているが、基本オーガとの勝負は避けて奴らが進むに任せている。Cの連中ならば無理をすれば狩れないこともないようだが、危険は冒さずに今は1体でも多くの魔物を狩ることに集中しているようで、森から先の街道は領兵に任せるようだ。



 俺達は奇襲後、森林を更に奥へと進み、少し開けた湿地帯でオーガ3体と対峙した。周囲には十数体のゴブリン共がまるでハイエナのように機を窺っている。

 普段はオーガに狩られる側、生態系の最下層に位置するゴブリンだが、オーガの意識が俺達に向いていることもあり、まるで共闘しているかのようだ。


「ライホー、あんたはゴブリンを狩りな!魔法組に近付けるんじゃないよ!」

「俺一人でかよ?」

「こっちはオーガ3体とガチで当たるんだ。余裕はない。狩るのは近付くヤツだけでいい!モーリーも治癒魔法を使わないときは戦うからさ!」

「りょーかい!」


 いきなりゴブリン数十体を相手取ることになった俺は嘆息しつつも、オーガよりはマシか――そう思い直した。


 オーガとは角を生やした鬼のような形相の筋骨隆々とした魔物で、皮膚は固く刃が通りにくい。力の強さはオークと同程度であるが、刃が立たず動きが素早い分だけオークよりも格段に手強い。

 実際、オークならば俺も一度だけマグレで倒したことがあるが、オーガはダメだ。今の俺では勝ち筋が全く見えてこない。身長の方も約190cmはあるイギーより更に大柄の個体が多く、この点でもオーク以上の脅威を感じる。


「パープル、火魔法は湿地に向けて使いな!森を燃やすんじゃないよ!」

「…………」


 俺への指示を出した後、キコは魔法使いのパープルにも指示する。が、パープルからの返事はない。ただの屍のようだ……じゃない、俺に指示をするな――と言わんばかりの表情をキコに向けるパープル。


 あぁ、やっぱコイツ「スカシイケメン、間違いなくイヤミ野郎あくまで個人の見解です」で間違いない。アケフはよくコイツから魔法習ってるな……


「ほかの皆はいつも通りいくよ!」


 キコはパープルにシカトされたことを気にするでもなく、ほかのメンバーに語りかける。きっといつものことなんだろう。



■■■■■



 先手はスカシイケメンであった。


 やべ、そんなことばっか考えてるとステータス画面の名前、「スカシイケメン」だけになりそうだわ。


 スカシイケメ……もとい、パープルがドヤリ顔で放った派手な火魔法はオーガに直撃して四散した。オーガは若干渋面を作ったようだったが、ほぼ無傷であった。


 ププッ、効いてないぞ。ザマァ――って、効かないとこっちも困るんだった。


 んなことを思っていた俺だったが、今の一撃で周囲のゴブリン共の腰が引けたのが分かった。どうやら今のはオーガへの攻撃だけではなく、ゴブリン共への牽制も含まれているようだ。多分、威力よりも敢えて見栄え重視にしたんだろう。なんだかんだと知力15の魔法2つ持ちだけある。頭は切れるようだ。


 その後、彼らの対オーガ戦はあまり見ていない。

 俺の方は、隙あらば魔法組に迫ろうとするゴブリン共の相手で手一杯だったからだ。


 俺は迫り来るゴブリンの棍棒をあまり目立たないように重力魔法で狙い、次々と奴らを仕留めていった。しかし、ほかの連中がオーガに集中している中、モーリーだけは俺が取り零したゴブリンの相手をしていたこともあり、俺の魔法をガン見して目を剥いていた。



□□□



「こっちは終わったよ!そっちも無事かい?ゴブリンスレイヤーの二つ名は伊達じゃないようだね!」


 若干返り血を浴びつつも無傷のキコが俺に語りかける。

 何か言いたげなモーリーを視界から外し、俺はキコに返す。


「ああ、お蔭さんでな。若干の取り零しはモーリーが仕留めてくれたし、最初の火魔法の牽制も助かったよ、パープル」

「…………」


 パープルからの返事はない。ただの屍のようだ。


「気にしないで。悪い奴じゃないんだけれど、パープルはこんな奴なんだ」


 パープルに代わり、モーリーが語りかけてくる。


「ところでライホー、君の魔法は……」


 と、モーリーが言いかけたところで、パープルがモーリーの前に立ち、止せ――と呟いた。


「だね。それがいいと思うよ。モーリー」


 キコもパープルに賛同してくれる。


 パープル……何気にイイ奴なのかもしれない。もしかしてツンデレか?男のツンデレなんてどこにも需要はないぞ!

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