第17話 2年後(2)

 俺の手持ちの金は白金貨1枚と数枚の金貨、あとは銀貨以下の小銭数枚を残すのみとなっていた。

 だが今は、ギルドの依頼を熟すだけで生活費は賄えている。

 今のところ大きな怪我や病気はしていないし、仮に暫く静養することになったとしても何とかなるだけの蓄えはある。昇格したことで更に稼ぎもよくなるだろうから、とりあえず前途は洋々――というわけではないが、然程心配するほどでもない。


 それに基本的にソロで活動している俺は、報酬を総取りできるため実入りもよい。

 まぁ、そう言えば聞こえはいいのだが、転移した頃の俺は、剣はド素人、魔法はおサイフ魔法。こんな俺をパーティーに迎えてくれる奇特な奴らがいなかっただけのことである。


 ちなみに重力魔法の件は周囲には秘匿している。

 この世界で重力は馴染みのない考え方だし、こいつは俺の切り札でもあるからだ。

 なので、お師匠やアケフ、道場の連中は勿論、トゥーラにも口止めしてある。その口止めにどれほどの効果があるのかは分からないけれど、お師匠とアケフ以外の連中は、重力魔法を敵の動きを鈍くできるだけのモノとしか捉えていないし、お師匠とアケフにすらその全てを晒しているわけではないのだ。



 そんなボッチの俺であったが、この2年間で剣の腕の方はようやく素人の域を抜け出し、剣を振るう冒険者としてはそれなりのレベルに達した。

 ゴブリンもタイマンならば魔法を使わずに安定して倒せるようになり、2体を相手取っても重力魔法2発で余裕を持って倒すことができる。


 その重力魔法には飛躍的な進展があった。


 切欠は些細なことである。

 俺が初めてゴブリンに遭遇した街道脇の大森林の入口付近には小川が流れているのだが、そこには苔生した丸太が橋代わりに架かっていた。

 当時の俺はまだ駆け出し同然で、重い背嚢を背負ってそれを渡るのが不安だったため、ちょっと魔力は勿体ないが背嚢を軽くしたのだ。


 そのとき俺はふと思った。

 背嚢だけを軽くできるってことは……敵の武器だけ重くすることもできるのかも。そしたら奴ら、急に重くなった得物を取り落とすんじゃね?って。


 ビンゴ!だった。この世界にビンゴはないけれ……以下略。


 しかも、ゴブリンの全身を対象に掛けていた魔力を棍棒だけに絞ったことで、その効果は跳ね上がっていた。奴らは突如として何倍にも重量を増した得物を簡単に取り落としたのである。

 標的が小さくなった分、狙いを付けるのは多少難しくはなったが、これも日々魔法制御を鍛える中で改善していった。


 加えて、魔法制御を鍛える中で、嬉しい誤算というか更なる進展もあった。発動する魔力量を細かく調節できるようになったのである。

 棍棒だけを狙うのに以前と同じ魔力量では正直オーバーキルだったので、魔力が勿体ないなぁとは思っていたのだ。そのため、魔力量を調節できるようになった頃からは、以前の半分以下の魔力を使用しているが、それでも充分以上の効果がある。

 さっき重力魔法2発で2体のゴブリンを――と言ったが、これも初期の頃の半分以下の魔力で放つ2発なので、実質当初の1発分にも満たない魔力消費である。


 まぁこの方法、武器を持たない魔物には通用しないので万能ってわけではないのだが……



 あと、重力魔法は鳥を仕留めるとき何気に役立つ。

 当たり前の話だが、鳥ってのはスゴイ軽いから空を飛べる。だから体重を2倍、3倍にしてやるだけでもう飛び立てない。飛行中の鳥は動きも早いし射程外であることも多いからなかなか難しいが、地上で翼を休めている鳥は重力魔法で簡単に生け捕ることができるのだ。

 なもんだから、最近はウキラの宿では鳥料理がかなり充実していると評判だ。俺は血抜きなんてできないから、すぐに縄で括ってまるで鵜匠のように生きたまま連れて帰る。あとはウキラがサクッと殺って血抜きをしてくれる。頼もしさしかない。


 ただ、飛行系の魔物の場合はそう簡単ではない。

 奴らは魔力との併用で飛んでいる場合もあるそうなのだ。まだ見たことはないけれど、ワイバーンの巨体を羽搏きだけで浮遊させることができるとは思えないので、多分そうなんだろう。

 そんなわけで飛行系の魔物は鳥ほどポコポコと殺れるわけではないが、それでも重力魔法の効果はそれなりに高い。


 転移当初、俺の全魔力の半分を使ってやっとこさゴブリン1体を仕留めたときは、この先どうしようかと思ったものだが、重力魔法も大分使える魔法に育ったものだ。



□□□



 さて、ここで普通の動物と魔物の違いについてだが――


 魔物とは、身体に纏う魔素が一定量を超え、魔核と呼ばれる固形物を体内に形成するに至った生物を指す。

 要は魔核があるのが魔物でそうじゃないのが動物であるが、この魔核があることで身体能力が向上したり、魔法が使えるようになったりするんだそうだ。

 んで、一般的には心臓付近に存在する魔核を、グロいのを我慢して取り出してはギルドに納めるのが今の俺のメインの仕事である。

 特にどの魔物の魔核が幾らだとか、そういったことはない。あくまでも魔核の質によって判断されるのだ。同じ種であっても魔物の強さには個体差があり、強い個体ほど魔核の質はいい。

 そう言えば転移直後に相対したゴブリン、スゲェ素早い気がしたが、その後戦ったゴブリンにはあんな素早い個体はいなかったから、個体差ってのは結構大きいらしい。人間だってそうなんだから当然なんだけど。


 そしてこの魔核ってやつは、庶民レベルでは使い道なんてないんだが、支配者層や上流層にとっては貴重な資源らしい。ギルドが纏めて領主に流すらしいが、使い道は知らない。


 それと、俺は魔核だけを納品しているが、討伐依頼が出ている魔物については討伐証明となる身体の部位を持ち帰ると報酬が上乗せされる。俺はグロいのはダメなんでそんなことはしないがね。

 だってゴブリンの耳チョンパとかヤだよ。魔核を穿り返すのだって吐きそうになるのをガマンしながらやっているんだからさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る