第2章 2年間
第16話 2年後(1)
俺が惑星ナンバー4、バルティカ王国に転移してから2年が経った。
この間、俺は冒険者ギルドの依頼を地道に熟し、つい先日、冒険者ランクをEからDへと上げた。ようやく冒険者としては一人前。冒険者一本でもなんとか食っていけるランクである。
この昇格はほぼ最速のペースではあるが、そこそこの才能を持つ22歳の若者が真面目に依頼を熟していれば、然程驚くほどの速さではないんだそうだ。
まぁそうは言っても、「そこそこの才能」と「真面目に依頼を熟す」ってのを併せ持つ若者はそれほどいないとのことなので、それなりのモンなんだろう。
正直、俺としては然程真面目に……ってわけではないのだが、なにせ前世が
初心者ランクである通称「Fラン」からEランクへは、余程のことがなければ半年程で昇格する。前世でも半年間は仮採用期間とする企業は多かったが、要は半年間よく生き延びたね――という御褒美で、Eランクからが本当の戦いである。
そこからDランクに昇格するためには依頼の達成数や達成率、そしてギルド職員からの評価によって決まる。
俺は今世よりも格段に品のある振る舞いが求められた前世での経験があるから、トゥーラを含めたギルド職員からの評判は上々だし、依頼も無自覚ではあったが真面目に熟してきた。故に最速の1年半で昇格を果たすことができたのだが、どうやらEランクからDランクへは平均すると5年近くかかるのが一般的なようだ。
これには、どれほど才能があっても最低でも18歳にならないとDランクには昇格させない――とするギルドの方針が関係している。
ほとんどの冒険者はこの世界の成人である15歳から活動を始める。そのため、ある程度の才能を有する者であっても、制度上Dランクになるまでにはどうしても3年程度はかかってしまうのだ。
その理由をトゥーラに訊ねたところ、成人しているとはいえ身体はまだ成長期であり、その間はあまり無茶な依頼はさせない、そして少年から青年へと成長する過程で形成される人格を見極めるためにはある程度の時間を要する――ということらしい。
まぁそうはいっても、あのオークリー(豚野郎)がCランクな時点でお察しではある。
結局、不要な殺人をしないだとか、過度な暴力を振るわないだとか、窃盗や強姦の常習犯ではないだとか、前世と比較すると滅茶苦茶緩い基準のようだ。
スゴイよね。アケフへのあの暴行は過度な暴力に当たらないってんだからさ……
そういやあんとき、素手同士だからとかなんとか言ってたな。トゥーラの奴。ダンビラ振り回すとアウトー!って感じなのかしら?
そうそう、そのオークリーの豚野郎は冒険者を引退した。1年と少し前に魔物との戦いで痛めた脚の関節の治りが芳しくないらしく、40歳を迎えたこともありこのまま危険を冒すよりは……ということらしい。
今はちゃっかりとギルドの解体夫の職にありつき、搬入される魔物の解体に勤しんでいる。ギルド職員としてはトゥーラの後輩ということになる。
表面上の単細胞なイメージとは異なり、意外と如才のない男だ。痩せても枯れても一応はCランク冒険者。こんな引き際を心得ているというのも、ある意味ではあの男の才能なんだろう。人格は碌でもなかったがね。
ちなみにオークリーと同じCランクになるためには、昇格試験に合格する必要があり、Bランク以上はほかにも何か条件があるようだ。そこら辺はトゥーラに追々訊いていこう。
■■■■■
冒険者として生きる以上、ランクは高い方がよい。
依頼は基本的にランクフリーで、FランであってもAランクレベルの依頼も受けられる。ただし、ギルドが定めた推奨ランク未満の場合、前金は貰えない。あくまでも成功報酬のみである。そして結果として生きるか死ぬか、あるいは成功するか失敗するかは全て自己責任となる。
しかし、失敗したら冒険者自身が野垂れ死ぬだけにとどまらず、依頼者自身にも被害が及ぶ護衛依頼などはランク指定にすることが一般的である。そのため、ランクが高ければ受けられる依頼も増えるし、ランク指定の依頼には割増料金も設定されており、その分報酬も多い。
また、例えば街の有事の際などは、ランクにかかわりなく全冒険者がギルドから強制的に動員されるので、敢えてランクを抑えるメリットも薄い。無論、そのときの任務の難易度はランクによって異なるが、病気や怪我でもなければ基本的に逃げることはできない。
そんな事をすればもうギルドから仕事を請け負うことはできないし、国中のギルドにも手配書が回されるのだ。まぁ容姿と名前を変え、またFランから始める覚悟があればそれはそれなのだが、Eランクならばまだしも、苦労してDランク以上にまで上がった冒険者が再びFランから――というのは意外と酷なことで、そこまでするくらいなら素直に動員令に従った方が得なのである。
いずれにしても、敢えて低ランクに留まる意味合いが薄い以上、冒険者は上を目指す。
俺は果たしてどこまで行けるんだろう?
このリセマラなしの一発ゲーの世界で――
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