第11話 ギルドの洗礼(お約束?)

 隣の窓口が騒がしい。


 そういや先客がいたな。

 その先客にヤバそうな男の冒険者が絡んでいる。どうやら隣接する食事処から態々お出ましになったらしく、木製のジョッキを持ちアルコール臭を漂わせていた。

 男は確かに身体はゴツくて力は強そうだが、腹回りは贅肉とお友達であるようで、ビール腹の中年そのものであった。


 その豚野郎が酒焼けした声で獰猛に吼える。


「おう坊主、ここはお前みたいなガキンチョが来る場所じゃないぞ!」


 俺は次に絡まれたときに備え、豚野郎のステータスを確認した。


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 名前 豚野郎

 種族 人属

 性別 男

 年齢 39

 魔法 生活魔法


    【基礎値】 【現在値】

 体力   10     8

 魔力    6     5

 筋力   11    11

 敏捷    6     6

 知力    5     3

 -------------

 合計   38    33

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 おぉ、種族がオークとかじゃなくてよかった。辛うじて人のようだ。


 ってか、名前!

 俺が勝手に決めた渾名になってんじゃねーか!

 まぁいい、これはこれで便利だ。正式な名前が分かれば上書きされるんだろうし。


 そして粋がっている割に豚野郎の能力値はそれほどではない。冒険者の成人男性の平均にも達していない……というか、加齢と肥満で低下したのかな?

 俺が正面から戦えば経験と技量の差で押し切られるだろうが、能力値では俺の方が上だ。


 俺はこのとき初めて他人のステータスを覗いたのだが、魔力消費量は然程多くはなかった。まぁこの豚野郎の能力値が低いだけなのかもしれないが。


 続けて俺は、絡まれている側のガキンチョのステータスを見る。


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 名前 ガキンチョ

 種族 人属

 性別 男

 年齢 15

 魔法 生活魔法、土魔法


    【基礎値】 【現在値】

 体力    8     7

 魔力    7     6

 筋力    9     9

 敏捷    9     9

 知力    7     7

 -------------

 合計   40    38

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 あっスゲェ。このガキンチョ。

 この歳で冒険者の成人男性の平均と同じ能力値だ。それに土魔法まで持っていやがる。


 そして俺は自分の魔力消費量を確認した。豚野郎とガキンチョの能力値の差の分だけ、若干多く魔力が多く使われているようだ。

 それでも他人のステータスを見るための魔力消費量は、重力魔法なんかと比べると断然少ない。

 これからは積極的に他人のステータスを見ることにしようか。個人情報?何それ?美味しいねぇ。



 さて、喧嘩……じゃなくて、一方的な因縁付けの方に話は戻るが、いくら能力値の合計ではガキンチョの方が優っていても、体力と筋力では豚野郎が上。


 このガキンチョはステゴロでどうやって豚野郎を退けるつもりだ?


 そう思って興味津々に見入っていると、立ち上がった直後のガキンチョの鳩尾に豚野郎の右フックが入った。完全に奇襲である。苦悶の表情を浮かべるガキンチョ。


 そこからはまさかの一方的な展開であった。

 豚野郎は止まることなくガキンチョに拳を浴びせかけ、ガキンチョは崩れ落ちることも許されずによろめきながら入口のドアの方に押し込まれていく。

 そしてガキンチョはドアに寄りかかる……が、そこはウエスタンタイプではないにしてもスイングドアである。

 ドアはそのまま外側に押し開かれ、ガキンチョはエントランス先の石段を転がり落ち、街路に蹲ったのであった。


 あぁドアが外開きなのは、こういう時のためだったのかな?


 俺はとってもくだらないことを考えていた。



■■■■■



 その後、ガキンチョは戻って来ず、ドアの前で俺にメンチを切った豚野郎は食事処で歓声をあげる仲間の元に戻って行った。


 こっわ!

 やっぱ、そこそこの歳にしておいてよかったわ。


「俺はあまりギルドの流儀には通じていないから訊きたいんだが、あーゆーのはギルドとしては関知しないものなのか?」


 俺は受付「嬢」?に訊ねた。

 それと同時に俺は彼女のステータスを見る。


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 名前 受付「嬢」?

 種族 人属

 性別 女

 年齢 36

 魔法 生活魔法


    【基礎値】 【現在値】

 体力    5     4

 魔力    7     7

 筋力    5     5

 敏捷    6     6

 知力    9     8

 -------------

 合計   32    30

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 ステータス画面を見るための魔力消費量は、やはり能力値の合計と比例することが確認できた……ってか、名前!


 ちなみに、ここで表示されている能力値の合計は各項目の小数点以下を切り捨てたものを足しているようだ。の3人が偶然にも小数点以下の合計値が繰り上がらなかった可能性もあるので、念のため受付「嬢」?の小数点第1位を確認したところ、やはり俺の推測で正しかったようだ。


「そうですね、あまり長引いたりギルドの備品を壊したりするようなら注意くらいはしますけど、素手同士なのであのくらいは別に。それにいくらCランクとはいえ、あんな落ち目のロートルに一方的にやられるようでは、あの子も早死にするだけですから。少し荒っぽいところはありますが、新人の選別に使うには都合がいい人なんですよ。オークリーさんは」


 ブホッ、オークみたいな豚野郎の名前はオークリーかよ!

 ってか、ロートルって……あんたと3つしか違わんのだが、それはいいのか?


「そ、そうか。ところでオークリーとやらは俺には絡んでこなかったが、俺は奴の選別には引っ掛からなかったのかな?」

「ライホーさん――でしたっけ?貴方は身体もそれなりに大きいですし武具の質もいいので、新人とはいえオークリーさんも何か危険を感じ取ったんだと思いますよ。逆にそういう危険察知に長けているからこそ、あの人はあの歳まで生き残ったんでしょうけど」


 なるほど。武具の質まで見られていたか。そういやガキンチョ君はただの布の服だったし、武器も錆が浮いた短剣だったな。


「でもホント、ライホーさんの武具はいいものですね。その革鎧も……もしやワイバーン製では?」


 受付「嬢」?は声を潜めて訊ねてくる。

 重要な情報は周囲に漏れないよう小声で慎重に訊く。流石はとうが立ったベテラン受付「嬢」?だ。


「まぁそんなところだ。少し伝手があってな(神と)。だが冒険者としては駆け出しだ。実は剣も然程振れる方ではないんだ。この街には長逗留して少し鍛えたいと思っている。ギルドでは修行できるような場所を紹介してもらえるだろうか?」

「少しお待ちいただければギルドの紹介状を準備いたしましょう。ただし銀貨1枚頂戴しますが……」

「構わない。できれば基礎から丁寧に教えてもらえるところがいい」

「畏まりました」

「あぁ、それと、信用の置ける宿屋もお願いできないかな?多少高くても構わないが、できれば部屋数は少ない方がいい」


 そう訊ねたとき、受付「嬢」?が少し逡巡したのを俺は見逃さなかった。


「どうした?何か問題でも?」

「いえ、ライホーさんの条件に見合う宿屋に心当たりはあるのですが、少し公私混同になってしまいそうで……」

「別に俺は条件さえ合えば構わないんだが」

「それでは私の末の妹がやっている宿屋はいかがでしょう?」


 ほう、末の妹がね。

 確かに公私混同ではあるが、この受付「嬢」?はそれを正直に話してくれるし、ワイバーンの革鎧のときも細やかな配慮があった。

 ある程度信用に足る人物であろう。右も左も分からない今の状況下では当たりの部類だと思う。

 俺も前世の50年にも亘る人生で、それなりに人を見る目を磨いてきたつもりだ。何よりも俺はなのだから。


「詳しく教えてもらおうか」


 俺は彼女の妹が経営している宿屋について訊いてみることにした。


「実は妹は狩人兼冒険者の夫と小さいながらも宿屋を営んでいました。ですが妹の夫は先月魔物に襲われて亡くなり、それ以来宿屋は休業しているんです。そろそろ再開しないといけないんですが、女手一つになってしまった宿屋にオークリーさんみたいな方は紹介できずに困っていました。でもライホーさんなら――と。部屋数も3つしかありませんし、いかがでしょう?」


 なるほど、確かにそれじゃオークリーみたいな奴は紹介できないわな。


「分かった。それなら一度泊まってみることにするよ。気に入れば長逗留させてもらおう。でも今は休業中じゃないのか?」

「あと少しで私の勤務時間は終わりますので、私が御一緒して妹に話してみます」

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