第10話 そしてギルドへ
「まずは冒険者ギルドに行きましょう」
あの管理者はノー天気にそう言っていた。
どうやら冒険者ギルドなる組織があるようで、冒険者はそこに加入することで最底辺ながらも信用を得ることができる。
大部分の冒険者は粗野で横暴で野放図で、そして無知蒙昧である。
そんな連中を取りまとめ、依頼者との間を取り持ち、冒険者の報酬をピンハネする。昔の口入屋を彷彿とさせるが、それが冒険者ギルドの役割だ。
そのピンハネ率は驚きの4割!
いくら王国や領主への納税分も含まれるとはいえ、高利貸し真っ青の率である。
日本の戦国時代、大名への年貢納入率が4割ならば善政だとか聞いたことがあったけれど、自分が取られる立場になるととても善政とは思えんな……
それでも冒険者はギルドに登録しなければ仕事にはありつけない。
フリーの冒険者稼業は白タクと同じで衛兵の摘発対象である。ギルドを通さない形での依頼の受発注は、納税逃れとして双方が罰せられる。
緊急的にギルドを通さずに依頼を熟したときであっても、事後的にギルドに報告して手続きしなければならない。
まぁ、緊急依頼についてはよほど阿漕にやらなければ大部分は黙認状態とのことだが……
■■■■■
そんなわけで俺は今、冒険者ギルドの入口に立っている。
俺が街に入ったのは北門からのようだが、そこから街の目抜き通りを500mほど進んだ先に冒険者ギルドはある。
そこまでの間、通り沿いには冒険者向けの宿屋や武器屋、飲食店などが雑然と軒を連ね、この一帯だけで冒険者は最低限の生活ができるようになっている。非常に便利ではあるが、荒くれ者どもをこの地域に押し込めている――とも言える。
ってか、おそらくそういうことなんだろう。北門を出た先には俺がゴブリンと遭遇した大森林も広がっているんだし……
さて、冒険者ギルドはウエスタンタイプの上下が空いたスイングドアがお出迎えして……くれることはなく、3段ほどの石段を昇った先のエントランスの向こうには高さ3mはあろうかと思われる大きな入口があり、その入口全体をしっかりと塞ぐ頑丈そうな木製のドアが屹立していた。
ここパルティカ王国はパンゲア超大陸北西部の高緯度帯に位置し、夏は涼しい。一方で、西の海の沖合を流れる暖流と、常に国土を撫ぜつける偏西風の影響で、緯度の割に冬は暖かい。
とはいえ、外気がモロに入ってくるウエスタンタイプのドアは流石にお呼びではないようだ。
俺は表情を引き締めて石段を昇り、ドアの前のエントランスに立つ。
そして一呼吸置いてからドアを静かに押す……が、動かない。どうやら引くタイプ、外開きだったようだ。
そんな小ボケを挟みながらもギルド内に入った俺は周囲を見回す。
正面には受付らしきカウンター、右手には簡単な飲食を提供している食事処、左手には依頼を掲示してあるらしいボードが立っていた。
食事処には暇を持て余している冒険者が数人、木製のジョッキを煽りながらくだを巻いている。
ふむ、カウンターのおねーさんがこちらを見ているな。
5つある受付らしき窓口のうち3つは不在。混み合う時間帯ではないようなので休憩中なのだろう。
残る2つのうち1つは接客中であり、俺はもう1つの窓口を目指して歩き出す。
美人と断言するには些かの迷いが生じるものの、そこそこ整った目鼻立ちの清楚系の受付嬢(前世の妻似)が、俺に営業スマイル以上の感情を込めた笑顔を向ける。
まぁ当然だろう。
冒険者の平均よりもやや高い背丈の細マッチョ。武器や防具は一般に流通するものでは最高級品を装備した前途有望そうな若き冒険者。
そのうえ、前世の顔ベースではあるが、涼やかな目元にシャープな鼻梁、薄い唇といった容姿に整え、シワやシミは消えている。前世の2割……ゴメン嘘ついた。3割増しくらいだ。
ちなみに瞳と髪は黒から焦茶色……じゃぁカッコ悪いんで、ダークブラウンに変え、髪は緩いウェーブをかけて自然な感じで後方に流してある。
濃い系と薄い系のどちらが好みかは相手次第だが、美男美女の基準が地球と似通っていることは、あらかじめあの管理者に確認済みである。
俺は受付嬢に問いかける。
「冒険者登録をしたいのだが……」
低いながらもよく通るクールな声。塩シ尺兼人先生を彷彿とさせる。素晴らしい!イメージ通り、Oベルシュタインだ。
「畏まりました。冒険者カードを御提出ください」
頬を染めた受付嬢が答える。
よく視ると「嬢」と言うには些か
冒険者登録はそれぞれの街で行われる。
国土全域をカバーできるような謎の魔道具や、高性能の冒険者カードで情報を共有できるほど、この世界の文明は発展していない。
冒険者カードにはギルドによって魔法の刻印が施され、一応の偽造対策はなされているようだが、それ以上の機能はない。
そしてほかの街ですでに冒険者登録をしている者は、現在所有している冒険者カードを現在の街のギルドに提示することで同ランクに登録してもらうのである。
俺?俺はんなもん持ってないから、初心者登録だよ。
初心者登録には料金が必要なようだが、街への入場の際に渡された身分確認済みの札を渡せば無料になるらしい……ってか銀貨4枚分だよ。その札は。
ちなみにもともと街の住人であった者は住民証があれば銀貨2枚、スラム街の住人など諸事情で住民証がない者は銀貨5枚で登録してもらえるらしい。
そして登録後に渡される冒険者カードが今後の身分証となり、これがあれば街の出入りは無料になるのだとか。
この辺までの情報はあの管理者と商人風の男からあらかじめ入手済みだ。
冒険者のランクはAからFの6段階。
Fは初登録の初心者用ランクで、何故かFランって呼ばれている。
なんか前世の大学ランクみたいでヤダな……
通常、真面目に依頼を熟していれば半年程度でEランクに昇格するらしい。
俺は受付「嬢」?の指示に従い、初心者登録を進める。
出身地の街の名は忘れた……でいいそうだ。それでいいのか?とは思いつつも、明かせない俺にとっては都合がいい。名前はライホーで20歳。男性。使える魔法は生活魔法、空間魔法、重力魔法と告げる。
魔法は生活魔法のほかに1つ使えれば優秀、2つで特別、3つなら天才だとあの管理者は言っていた。
2つ持ちの俺に対し、彼女は困惑の表情を浮かべた。
「えーと、おサイ……ではなく空間魔法と――」
うん?お前、今、おサイフ魔法って言おうとしただろ!やっぱそういう扱いか。空間魔法って……
「重力???魔法???」
あん?この受付「嬢」?、重力魔法を知らない???
そこで俺はハタと気が付いた。
そうか、この世界には重力の概念がないのか。空間魔法なら異空間が開いて目に見えるが、重力は目には見えない。
重力魔法を使える奴もいるんだろうが、自分がどんな魔法を行使しているのか分からないんだな。効果もビミョーだったし……
俺はステータス画面で使える魔法が分かるけれど、一般人はどうやって自分の魔法を知るんだろう?
「いや、スマン。忘れてくれ。重力魔法ってのは俺の故郷では何人か使い手がいるが、俺の魔力の半分を使ってもゴブリンを若干ノロマにできる程度のショボい魔法なんだ。あまり聞き慣れないレアな魔法ではあるが、大したもんじゃない」
俺は慌てて弁解すると、虚偽登録に対するペナルティがないことを確認し、とりあえず生活魔法と空間魔法だけで登録してもらった。
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