第8話 vs最弱モンスター
焦ったぁ!
俺の目の前には昏倒したゴブリンが1体転がっている。
向ってきたこいつに重力魔法をぶちかましたものの、動きは若干鈍っただけであった。
俺は寸でのところで棍棒による初撃を盾で受けた。
飛び上がりつつ全体重を棍棒に乗せたゴブリンの一撃は思った以上に強烈で、真正面から受けた俺はよろめいて1mほど後退る。
痛ってぇー
盾越しでも前腕に伝わった衝撃と鈍痛。痛みと痺れで左腕は暫く使い物にならないだろう。
馬鹿正直に受けると結構なダメージだな。攻撃をいなすような盾使いを覚えないとな……
冒険者としては平均以上の能力値があるにもかかわらずゴブリン程度に苦戦するのは、やはり圧倒的に技術が足りていないのだろう。
それは盾術だけではなく、体捌き、剣の技量、その他諸々も含めて。
そこら辺はマジで鍛えないとな。能力値だけでゴリ押しできる単純世界がよかったんだが……
俺は痛みを堪えて左手をゴブリンに向け、もう一度重力魔法を発動する。
駄目だ、まだ速い。
ゴブリンの動きはまだ俺が十全に対処できる速度ではない。
仕方なく俺は追加で2発、重力魔法を浴びせかけた。
すると、ゴブリンの動きは目に見えて遅くなった。これならば俺の素人剣でも倒すことができる。
俺はスピードに任せてゴブリンの側面に回り込み、剣を横薙ぎに振るった……つもりだったが、その刃がゴブリンを切り裂くことはなかった。
柄を持つ手が汗で滑り、偶然にも刃ではなく剣の腹がゴブリンの側頭部を痛撃し、ゴブリンはその場で昏倒していた。
カコワルイ……
何処からともなくそんな声が飛んできそうだが、俺は無様ながらも無事に初戦を飾ることができたのであった。
■■■■■
ゴブリンは死んではいないようだが、意識を失っていた。
そちらに注意を払いつつも俺は自分のステータス画面を確認する。
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名前 ライホー
種族 人属
性別 男
年齢 20
魔法 生活魔法、空間魔法、重力魔法
【基礎値】 【現在値】
体力 8.0001 7.3841
魔力 10.0003 5.4479
筋力 8.0002 7.8826
敏捷 8.0000 7.8955
知力 11.0002 10.9724
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合計 45.0008 39.5825
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結果、小数点第4位まで表示してやっとのことで、本当に僅かながら基礎値が増加していることが判明した。
そして当然だが現在値は低下していた。
この程度しか増えないんじゃ、能力値を上げて無双するのとかってマジで無理ってことだよね?
あと、現在値の減は、攻撃を受けたことと魔法を使用したこと……それと疲労かな?
体力は1割まではいかないが、それでもそこそこ減っている。
魔力は重力魔法4発でほぼ半減かよ……
管理者曰く、休憩すれば体力も魔力も徐々に回復するらしいが、なかなかシビアである。
筋力と敏捷は左腕の痛みと痺れが引けば回復するのかな?
知力の低下はなんでだろう?疲労は体力だけではなく思考力をも奪うからか?
いずれにしても更なる検証が必要である。
ほかには……魔物にとどめを刺さなくても能力値は上がると。
魔物を倒して経験値を得てレベルアップ……なんてゲーム仕様じゃないんだから当然か?
いや断定はできない。倒せばもっと数値が上昇するのかもしれない。
そう思った俺はすこし顔を顰めつつも、昏倒しているゴブリンの首筋に剣を立てて頸動脈もろとも貫いた。
勢いよく血が噴き出し、地面に赤黒い地図を作っていく。
ゴブリンは何度か身体を痙攣させると、やがて動かなくなった。
これほど大きな生物を殺したのは生まれて初めてであった。まして人型である。
メンタル的な影響があるかな……とも思ったが、とりあえずそんなことはなかった。
俺はやはり、何か人として大切なものが欠落しているのかもしれんな……
そんなことを考えながらステータス画面を確認したが、能力値は上昇していなかった。
やはり魔物を倒すことが条件なのではなく、そこに至る戦いの内容によって能力値は上がる……と。
おそらく鍛錬することによっても上がると思うが、少なくともいわゆる寄生行為で仲間に強い魔物を倒してもらってレベルアップうまーな展開はないってことだ。
さて。早いところ街に入らないと危険だな。
あと一度でもゴブリンと遭遇したら魔力はカツカツになっちまう。
あっフラグだ!……と俺が思うが早いか、自己標的フラグは即座に作動し、想定通りにゴブリンは現れた。
しかし想定外だったのは、2体同時に現れたことであった。
いやいやマズイっしょ?
■■■■■
重力魔法はあと4発。うまくいっても5発か。
今の俺ではゴブリンを確実に倒すためには1体に4発は必要だ。
危険を冒して3発で1体を倒し、もっと危険を冒して2発で1体と対峙するか。
いやいや、そもそも5発撃てるとは限らない。
それに2体同時に攻撃されたら今の俺には捌けないぞ。
どうすりゃいいんだ?
先程のゴブリン1体のときもかなりの恐怖を覚えたが、それでも想定の範囲内であった。魔法を出し惜しみなく戦えば負ける相手ではないと思っていたからだ。
しかし今は違う。
安全マージン的には1体分しか残っていない魔力で、2体のゴブリンを相手取らなければならない。
詰んだ!異世界生活第1部、完!
そんな定型句の応用形が俺の脳内に浮かぶ。
俺が逡巡する中、2体のゴブリンは徐々に俺との距離を詰めてくる。
一気に来ないのは、さっき殺したゴブリンがすぐ横で倒れているため、少しは警戒しているからか?
俺は少しづつ後退りながらこの苦境を打開する策を考える。
どうやって倒す?それも2体。
いや、気絶させるだけでもいいんだ、さっきのように。別に倒さなくても……
距離は更に詰まる。もう5mもない。
うん?
俺の脳内にまたしても定型句が浮かぶ。今度は某英国紳士の科白だ。
……逆に考えるんだ。
そう、逆に考えるんだ。別に倒さなくてもいいんだ。
突如閃いた俺は、某英国紳士に感謝を捧げるように剣を高く掲げてゴブリンを威嚇した。
そしてゴブリンの動きが若干止まったその隙を突き、自分自身に重力魔法をかけた。とりあえず2発。追加でもう1発。
淡い光と共に俺の体が軽くなる。
そしてまたしても俺は定型句を叫ぶ。
「逃げるんだよォォォ!」
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