第5話 能力値(1)

 まさかのパンゲアだった。

 いや、惑星ナンバー4の超大陸の名前ね。


 あの後、俺は魔法2つと武器防具、若干の水と携帯食、そしてそれなりの額の金銭を授かり、20歳の身体と共にこのパンゲア超大陸に転移した。


 身体が軽い。まるでゴミ……じゃねぇ、羽根のようだ!

 ハタチの身体ってこんなキレッキレだったんだ……30年振りだから忘れていたよ。


 管理者は、何歳にでも……ということだったので、もっと若くすることはできた。

 しかし独りで転移するのだから、あまり幼過ぎても周囲に舐められてしまうし、成長期は色々と厄介だ。細かいことだが防具や衣服のサイズとかもある。

 そこで俺はある程度身体が完成し、そのうえで最も若そうな年頃である20歳にしてもらった。


 さて、年齢のことはもういい。


 それよりもこの星のことだ。

 この星は自転や公転、衛星の数や大きさ、大気の成分に至るまで地球と似通っていた。


 管理者は得意気に、


「環境はナンバー13と似ているので過ごし易いと思いますよ。亜人属もいますが、基本的には人属が多いですし」


 とかなんとか言っていたが、


「地球の細かい設定を決めるのが面倒で、惑星ナンバー4をコピって作っただけなんじゃね?どうせ実験用の星なんだし。地球なんか……」


 という趣旨の質問を、婉曲な表現で丁重に訊ねたところ、ポンコツ管理者からは明確な返答はなかった。

 どうやら図星のようだ。


 そんなわけでパンゲア超大陸を擁する惑星ナンバー4は、公転周期が360日、自転周期は24時間の星だそうだ。

 公転軌道の離心率も地球と同じほぼ0だが、地軸の傾きもほぼ同じ24度であるため、厳しくも美しい四季が廻る。


 ちなみに惑星ナンバー1の公転軌道は真円だが、地軸の傾きを0度にしたため、両極地帯は極寒、赤道地帯は灼熱地獄と化してしまい、生物の生息域が極めて少なくなったため廃番にしたらしい。

 まぁ俺にとってはどうでもいいことだが……



■■■■■



 俺は今、猛烈に感動している。


 あのポンコ……いや、管理者様は、俺に2つの魔法のほかに自分や他人のステータスを見る力も授けてくれた。

 これは現地人が誰も持っていない特殊な能力ではあるが、管理者もイマイチその重要性に気付いていないようだ。俺が新たな身体の体力や筋力等を決めるにあたり、数値で可視化してくれるとやり易いと要望したら、管理者はいとも容易く叶えてくれた。

 さすがは神。強大な力を持つ割に、下々の事情には疎くていらっしゃり、とてもありがたい操り易い


 この能力は、例えば筋力であれば、体幹、手足、その他諸々の体中の筋肉量を総合的に数値化して表すものである。

 なので仮に同じ数値の人間であっても人によって筋肉の付き方は異なり、例えば上半身の方が強い人や下半身の方が強い人がいたりするらしい。

 俺の場合は、バランス型に調整してくれるとのことである。


 そしてその仕組み的に当然のことなのだが、鍛えれば数値は上昇し、サボれば下降する。一度上昇した数値は一生下がらない――なんて都合のいいことはないらしい。

 なんか俺の考えていたステータス制とはちょっと違って残念なんだが……


 それと、あくまでも現時点での筋力を数値化して表す仕組みでしかないので、レベルアップだとかの謎仕様で数値が上昇したりもしないらしい。

 ってか、レベルなんて制度は端からない。何それ?美味しいの?ってやつだ。



 それでも自分や他人のステータスが分かることには大きなアドバンテージがある。

 ある意味では魔法2つよりも価値が高いくらいだ。


 俺はそこでふと思った。


 怪我したとき数値はどうなるの?二日酔いでダルいときは?腰が痛いときは?云々とオッサンぽいことを。


 そしたら、思っただけなのに管理者は答えてくれた。


「基本数値のほかに状態異常に伴い増減した数値も分かるようにしましょうか?」と。


 マジか!それ遠慮なくいただきます。


 次に俺は、


「ところで能力値ってどうやって設定するんですか?」


 と訊ねつつ、心の中で願う。

 合計ポイントを自由に振り分ける方向で!と。


「そうですね。合計ポイントを体力、魔力、筋力、敏捷、知力の5つの項目に振り分ける方向で……」


 ですよねぇ。


 ニマニマとする俺に管理者は慌てて条件を追加した。


「ただし、極振りは禁止です!具体的な条件は後ほど」


 ちっ、気付いたか。まぁいい。次は合計ポイントの交渉だ。


 と思ったところで、管理者が言う。


「それと合計ポイントですが、冒険者登録している成人男性の平均が40くらいなので、少しおまけして45ポイントで」

「一般人や兵士、貴族や王族とかの平均はどのくらいなんですか?」

「一般人は30くらい、兵士は冒険者と同じ40くらいですね。王侯貴族は数も少なく個体差が激しいのであまり参考にはならないでしょう」


 ふむ、多少は色を付けてくれたみたいだけれど、もう一声欲しい。切りがいいところで50ポイントとか。


「でもこれって老人も含めた平均値ですよね?老化で数値は低下するんだから、20歳ならもう少しポイントもらえませんか?」


 俺がそう詰めたところ、管理者は言った。


「ほとんどの冒険者は長生きなんてできませんから、平均値にはあまり影響しませんよ」


 ……嬉しいような、嬉しくないような回答だった。

 まぁ一般人の各項目の平均値が6ポイントのところ、冒険者平均が8ポイントで俺が9ポイントならいいところか。



「では実際の振り分けはどのように?」


 そう訊ねたところ、突然目の前に半透明な画面が現れた。

 いわゆるゲーム画面でのステータス振り分けと同じようだ。


「あちらに転移してからも、ステータスを見たいと念じればその画面が現れますので」


 ノーモーション、ノースペルはありがたい……が、これは確認しておかなければならない。


「この画面は他人からも見えるのですか?」

「いいえ。その画面が見えるのは貴方だけですよ」

「では、私が他人のステータスを見るにはどうすれば?」

「それも相手を視認しながら見たいと念じれば見られます。ちなみに魔物のステータスも見られますので」


 ほうほう、相手を目視することがステータスを見る条件か……

 それはいいけど、魔物のステータスも見られるのは当然の仕様だろ!ドヤるようなことじゃないわ!


 心中でそう毒づいた俺は、早速管理者のステータスを見てみようと念じたのだが、ステータス画面はうんともすんとも言わない。


 うん?こいつのステータスが見られないぞ?もう故障したか?このポンコツめ!


「ああ、そうそう、他者のステータスを見るためには相手の力に応じた魔力を消費します。また、能力差があり過ぎる相手のステータスは見ることすらできませんよ」


 あっそ。

 この世界って妙にそこら辺がリアルなんだよねぇ。まぁゲームじゃねーんだから当然か。


 そう納得し、俺はウキウキとしてポイント配分の作業に移ったのだった。

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