第4話 ポンコツなの?ねぇポンコツなの?

 初めて出会ったときと比較すると若干残念なポンコツ臭を纏いだした管理者であったが、俺は改めて口調を整えて訊いた。


「ところで私はこれからどうすればよいのでしょう?」

「私が管理するほかの星にでも転移していただけると……ここに居られても困りますので」


 あからさまな邪魔者扱い!


「私が転移を拒むとどうなるのでしょう?」

「困ります」


 うん?困るのは分かるけどさ……


 まぁ、邪魔者だから問答無用で抹殺――とかされないのは救いではある。

 それが管理者としての矜持からくるものなのか、それとも何かしらの制約があるためなのかまでは怖くて聞けないが。

 しかし俺としてもいつまでもこんな何もない空間に居続けても仕方がない。


 転移するにしてもなるべくいい条件にしてもらいたいな……


 でもその前に確認しなければならないことがある。


「あの――地球に戻ることは叶いませんか?」

「ちきゅ……あぁ、あの13番の。でもあそこの文明はもうすぐ滅びますよ」


 さらっと怖いこと言った。この人……じゃない、管理者。


「もうすぐって?」

「私の見込みではあと数百年ほどですかね」


 さすがは管理者。時間の感覚がパネェ。

 でもそんだけあれば、残された妻子には充分だ。


「なら、できれば地球に……」

「いや、それがその……ここで肉体を再構築して転移させることは可能なのですが、私には人々の記憶の改竄はできないので」


 なんだよ、記憶の改竄はできないのか……


「確かに死んだ人間が生き返れば大騒ぎですね」

「大騒ぎ程度で済めばいいですけど、多分国家により丁重に軟禁されて被験体として残りの人生を終えることになるんじゃないですか?」


 ひぃっ、コワイっす。


「別人として転移するにしても、住民登録制度がしっかりとしている先進的な国々は難しいですね。貴方の国――ニッポンでしたっけ?ニホンでしたっけ?あの国はそれに加えて戸籍なんて厄介な制度までありますから。どこか後進的な独裁国家みたいなところならばなんとかできますけど……」


 いや、それはお断りです!


「では、日本国内に生まれ変わることは?」


 せめてもと思い、俺は転生を希望した。


「転生はさせません!よく考えてみてくださいよ、我が子が50のオッサンの記憶持ちだったら両親が可哀想でしょ?」


 おっ、おぅ。

 突然そんなキリッ!って感じで強く言われてもなぁ。

 つーか、使えねーな、こいつ。ポンコツか?何もできねーじゃん。


 ……と思ったところで、管理者から悲し気なオーラが漂ってきた。


 ヤベッ、そういやこいつ、心読めたんだったな。

 あっ、こいつなんて呼んじゃったよ、こいつのこと。ってか、またこいつって……



■■■■■



「ですので、話を戻しますが、私が管理するほかの星に転移を。中世レベルの文明ですので住民登録とかはどうにでもなりますし」

「いや、逆に中世レベルだからこそ、50にもなったオッサンが何の後ろ盾もなく放り出されても、生きていく自信がないんですが……」


 何事もなかったかのように語り出す管理者とそれに応えるオッサン。

 さすがは、片や永きに渡ってこの世に存在し続けている謎の生命体、片や半世紀にも渡って世間の荒波に揉ま続けてきたオッサン。

 痩せても枯れても大人同士である。心中の悪口など何事もなかったかのように、お互い華麗にスルーして会話は進む。


「若返りは可能です。あと、基本言語と生活魔法は使えるようにしますので、最低限の生活は何とかなるかと」


 詳しく聞いたところ、肉体はこの空間で再構築して転移させるので、若返る年齢や容姿などは自由に設定が可能。

 ただし、体力や筋力等の能力は現地のバランスを崩さないよう、常識的な範囲にとどめたいとのことだ。


 そして送り込む予定である惑星ナンバー4の陸地は、超大陸1つと周囲を取り巻く島々だけ。地球のパンゲア状態である。

 故に言語もさほど分化しておらず、基本言語とその派生言語が5つほど。その派生言語にしてもそれほど基本言語とは変わりはないようで、基本言語ができればどこであっても概ね会話には困らないらしい。

 ほかにも辺境に住む少数民族が使う特殊言語もなくはないそうだが、ほぼ無視してよいレベルとのことだ。


 んで、生活魔法ってのは、人属と亜人属(いるらしい!)ならば、極端に魔力と知力が低い極一部の者を除き、年少期を終える頃には自然に取得する魔法なんだそうだ。


 火を熾したい、水を飲みたい、明りを灯したい。身体を清らかに保ちたい……


 そんな願望を強く持ち、実際に大人達が魔法を行使しているのを見ているうちに数年間かけて徐々に発現するんだとか。

 さすがは魔素とやらが存在する星だ。

 地球と比較してしまうと超常的な現象にも思えるが、子供達が基本的な仕組みも分からないまま大人達以上にスマホやタブレットを使いこなしているのと同じようなもんなんだろう。



「それと、あちらの社会にあまり大きな影響を与えないよう、流れの冒険者として転移してもらいますのでそのつもりで」

「冒険者?」

「そうです。危険な魔物を狩ったり、稀少植物を採取したりする、言わば何でも屋です」

「……それは危険な職業なのでは?」

「一攫千金の夢はありますが、あちらの世界の一般的な認識では、どこからともなく湧いてきて、いずこかで野垂れ死ぬゴブリンのような存在です。転移の設定としてはもってこいですね」


 なんだよ、その雑な扱い!

 こいつ、さっき「こいつ」とか「使えねー」とか思ったことを恨んでるのか?


 いや落ち着け、俺。

 また心を読まれて無理難題を吹っ掛けられないようにしなければ……


 魔法があるんだ。何とかなるはず……ってか、俺は生活魔法以外は使えるのか?

 絶対に使いたいぞ。せっかく魔法がある世界に行くんだからな。


 そんなことを思っていると、やはり何事もなかったかのように管理者が俺に語りかける。


「あと、体力等を平均程度にとどめる代わりといってはなんですが、生活魔法以外に2つまでなら魔法を使えるようにしますよ」


 やった!使えるんだ!


 だがここで飛びつくわけにはいかない。向こうでの生活が懸かっているのだから。

 魔法2つが多いのか少ないのか分からない以上、ここは冷静に大人のネゴシエイトをしなければ。キリッ!


「ちなみにあちらの世界の方々は魔法をどの程度使えるのでしょう?」

「普通の人は生活魔法だけです。ほかに1つ使えれば優秀、2つで特別、3つなら天才といったところでしょう。無論、魔法の練度は様々ですが……」


 あぁっ神さまっ


 さっきは「こいつ」なんて思ってごめんなさい。

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