第427話 カラオケ
長いようで短い時間が過ぎて、集合予定の七時になった。
「ふう・・・・・・楽しかったわ。レイ、ありがとね」
「いや、俺こそ結構楽しんだよ。ありがとな」
俺とセレスティーヌは、連れだって泳ぎながら会話を交わす。
洋服屋に行った後、街中をうろついていたマンタのような生き物を追いかけたりしていたら、あっという間に予定の時刻になった。
「やっぱり、息抜きは必要よね。やっぱり船長になって、無意識に疲れが溜まっていたみたい」
「そんなに、船長の業務って大変なのか?いつもと変わらない気がするが」
「もうっ、レイってば・・・・・・気持ちの問題よ。レイも一度やってみれば分かるわよ。“船長”て肩書きの重みが」
「そんなものかな?一応、俺もグレートパーティのリーダーという扱いではあるけれど、あまり疲れていないような」
「いいえ。レイも、無意識に疲労とかなんとか蓄積しているはずよ。ま、そうじゃなくっても、楽しかったでしょ?」
「ああ。確かにそれは否定できないな」
集合場所の食堂が、見えてきた。
「そういえばさ。レイのいた前世では、こういう、みんなと遊ぶときって、どんなことしていたのかしら?・・・・・・あ、ごめん。話したくなかったら、話さなくていいのよ?」
セレスティーヌの遠慮がちな声が、俺に問いかける。
「そうだなあ・・・・・・カラオケとか映画館とか、カフェ行ったりしてたんじゃねえのか?」
「カフェは分かるけれど・・・・・・カラオケ?映画館?」
首をかしげるセレスティーヌに、俺は説明を始める。
「カラオケっていうのは、伴奏だけが自動で流れる機械に合わせて、みんなで歌って、ワイワイと騒ぐことだよ。で、映画館っていうのは・・・・・・物語のある映像が数時間流れて、それをみんなで劇場で鑑賞する、て感じかな」
「へえ、面白そう。特にカラオケ」
「まあ、俺は家に引きこもっていたから、カラオケとかしたことないんだけれど」
自嘲気味にそうこぼす俺に、セレスティーヌは快活な声で返してくる。
「じゃあさ、私たちと今からやればいいじゃないの」
「え?」
「レイの【創造術】があれば、そのカラオケ?とかいう機械は創れるでしょ。だから、早速創って、アルカディア荘のリビングにでも置いておけば、みんなで歌える」
「ああ、確かにそうだが・・・・・・」
「だったら、早速やりましょう!あ、でもその前に一応、パーティのみんなの意見も聞いておかないと・・・・・・さ、レイ。行くわよ。【ブースト】!」
セレスティーヌは俺の手を握り、加速魔法を発動させて、全速力で食堂を目指す。なすがままに引っ張られる俺であった。
「へえ・・・・・・カラオケ、ね。いいんじゃないかしら?」
夕食時。先程の話をセレスティーヌから聞いたソフィアが、そう言う。
「だったら、一度アルカディア荘に帰って、試してみませんか?」
「そうね。それじゃ、ご飯食べ終わったら、オリオン号にある【転移門】でアルカディア荘に帰りましょうか」
とまあ、こんな感じで俺たちはアルカディア荘に一時帰還することになった。
「こんな感じかな?」
段ボール箱くらいの大きさの、金属製の箱。俺が【創造術】で生み出したカラオケ専用マシンは、そう表現するのがぴったりの外見だった。
「うんうん。で、ここをちょっとこうして・・・・・・」
機械に強いトリスティアが内部を開けて、色々と微調整をしてくれる。
「これでいいはずだよ。音楽再生魔法が組み込まれているのね」
ということで、早速試運転開始。
「・・・・・・で、誰が歌うんだ?俺、音楽に全然詳しくないんだけれど・・・・・・」
そうなのだ。これは前世からなのだが、俺はあまり音楽を積極的に聴いてこなかった。せいぜい、耳に心地よいBGMを、流す程度。
「あ、じゃあ私から!」
一番に手をあげるセレスティーヌ。
「了解。それじゃ、このスイッチを押してだな・・・・・・」
伴奏が流れ始め、セレスティーヌがそれに合わせて歌い始める。その歌に聴き入るメンバーたち。
「中々いいものね」
「それじゃ、次はあたしが歌います」
「うちも久しぶりに歌いたくなってきたな~」
なんという曲名なのか分からないが、他のメンバーたちは盛り上がってくれているので、よしとしよう。
俺も、もうちょっとこの世界の音楽を聴かないとな。彼女たちを見ていて、つくづくそう感じる夜だった。
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