第426話 洋服


「ねえ、ここってなんのお店かしら?」

「とりあえず、入ってみようぜ」


 公園から少し離れた距離にあった、何かの店と思しき建物に、俺たちは並んで入る。海中にあるので、このマーレスの建築物は、地上のそれのように、出入り口が一階にあるとは限らない。というか、一階から最上階、果ては屋上まで、どこでも好きなところから、入ることができる。


 で、俺たちが入った所はというと――。


「お洋服屋さんだったみたいね」

 セレスティーヌの言葉に、無言で頷く俺。


 周囲をぐるりと見回すと、あちらこちらに、マネキンがあり、衣服を身にまとって、モデルとなっている。ただし、水中なので、地上とは違い様々なポーズをとっている。


「どうする?見ていくか?」

「うん。地上で着られるようなのは少ないかもしれないけれど」

「でも、基本的にはリーティア王国で売られているのと、あまり大した違いはないんじゃないのか?俺は全然洋服とか詳しくないけれど」


 洋服、というよりおしゃれそのものに、とんと興味がないからな、俺。見た目より着やすさ重視。クエストで使用する防具の類いも、機能性とかしか見ていない。


「レイもさ、たまにはおしゃれしたらどうかしら?」


 俺の心の中の呟きを読んだようなセレスティーヌの言葉に、俺は曖昧に返す。


「うーん・・・・・・でも、そんなに興味ないし」

「いいから!さ、行くわよ」


 言葉を濁す俺の手を、強引に引っ張るセレスティーヌ。 ま、いいか。たまにはこういうのも悪くない。俺は抵抗せず、セレスティーヌに導かれるままにする。



「レイってさ、結構明るめの色の服、似合うのね。ちょっと意外・・・・・・」


 店員に薦められたのを、なんとなく着てみた俺の姿を見たセレスティーヌが、そう漏らす。


 俺が着たのは、桜色の、何やらうろこのようなもので覆われたスーツだった。


「うーむ・・・・・・そんなに似合っているか?」


 前世からこの世界まで一貫して、地味めの色合いのものしか身につけこなかった俺だ。正直、他人から見たらどんな感じなのか、今ひとつ理解できない。


「うんうん。レイって黒色系統ばっか着ているもんね。でもこうして見ると、意外にピンク系もいけるのね」


 宙に浮かぶ姿見の鏡に己の姿を映してみる。うん、やっぱりよく分からんな。


「それじゃ、次はこれでどうかな~?」


 エメラルドグリーン色の服を持ってきながら、セレスティーヌが楽しげに言う。


「おい、セレスティーヌ。お前、俺を着せ替え人形みたいにして楽しんでいないか?」

「えー、そんなことないわよー」

「絶対、楽しんでいるだろ・・・・・・」


 抗議もむなしく、俺はセレスティーヌの持ってくる衣服に袖を通し続ける。


「セレスティーヌも、あとで同じ目に遭わせてやるからな」

「いいわよー。というか、私も色々お洋服見たいし」


 まったく、何言ってもこの調子だ。彼女には叶わない。


 でも、こうしてセレスティーヌと過ごすひとときは、いつまでも続いて欲しいくらいに、尊いな。そうも思うのだった。

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