第428話 夜


 アルカディア荘で唐突にカラオケ大会となった後、俺たちは再びマーレス王国へと戻った。


 俺の【無敵の適応術】のおかげで、難なく海中を移動することができたが、よく考えたら、本来は重たい潜水具を身につけるはずだったのだ。ということで、俺たちの泊まるところは、海面に浮かぶドーム状のホテルだった。


「せっかくだから、海中のホテルに泊まりたかったなー」


 そう言うミオにソフィアが、

「ミオちゃん。せっかくタダで泊めてもらえるんだから文句言わないの。あ、別に高い料金をミオちゃんが払ってくれるのなら、移動してもいいわよ?」

「はいはい、分かりました」


 こどもっぽく言い返すミオ。


 ということで、俺たちの長かった一日が終わる。俺は他のメンバーと別れて、自分の部屋へと向かう。


「もしもし、レイさんですか?」


 指定された部屋へと入ろうとしたとき、背後から声をかけられた。


 振り返ると、そこには小柄な少女が一人、立っていた。年の頃は、十四、五才といったところか。


 銀色の、ピタリとしたスーツのような衣服に、薄紫色のひらひらとした半透明のマントを身にまとっている。どことなく、浮世離れした雰囲気だ。


 マント同様の薄紫色の瞳が、俺をじっと見つめてくる。


「レイさん、でお間違いはないですよね?」

「あ、はい。確かにそうですが」


 彼女の確認に、頷く俺。


「良かった・・・・・・申し訳ありませんが、ちょっとご同行どうこうねがえますか?」


 有無を言わせないような雰囲気に、俺は再び黙って頷く。


「ありがとうこざいます。ではレイさん、私について来てください」


 少女はそう言うと、くるりときびすを返して、歩き始める。その後をとぼとぼとついていく俺。


 ホテルから出て、ドームとドームをつなぐ木製の橋を歩いて行く。


 辺りは、すっかり夜のとばりに包まれていた。夜空に皓々こうこうと輝く月の光が、海面を幻想的に照らしている。繰り返されるざぁぁ・・・・・・という波音が、その光景に更なる彩りを沿える。いつまでもその世界に浸っていたくなるような、そんな夜だ。


「・・・・・・着きました」


 凜とした少女の声で、俺は現実に引き戻される。


「レイさん。こちらでございます」


 少女が手で示す先にあったのは、一際大きな、海上ドームだった。


「・・・・・・ここに、入ればいいのか?」

「はい。そうです」


 うーん。なんかかなり怪しい感じだが、とりあえず行ってみるか。なに、大丈夫だろう。 俺は言われるままに、そのドームの中へと足を踏み入れるのだった。

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