第424話 誘い


 ふわふわ。ゆらゆら。


 水の中を揺蕩たゆたいながら、俺はただぼんやりと、辺りを眺めている。


 海中といっても、そこまで深い場所ではないので、マーレス王国には太陽の光に照らされている。


 ふわふわ、ゆらゆら。流れるままに身を任せていて、まるでクラゲのようだ。いや、クラゲとてもう少し意思を持って、動いているか。


 俺は、このままどこにいくのだろうか。海流にでも乗っかり、どこか遠くまで運ばれたりして。それも悪くないか。

 


「ちょっとレイ、なにボーッとしているのよ」


 セレスティーヌの快活な声が、俺を呼び止める。それから、ガシリと腕をつかまれる感触。俺の身体は、引き留められる。セレスティーヌの端正な顔が、俺を覗き込むような形で、出現する。


「んー・・・・・・なんだよ、セレスティーヌ。今せっかくいい気持ちで、海中遊泳を楽しんでいたのに」

「遊泳じゃなくって、漂流でしょ、レイのは」


 にべもなく返すセレスティーヌ。


「いったいなにしてるよ、こんなところで」

「んー・・・・・・流されるがままに生きていた、てところかな」

「・・・・・・つまり、なにもしていない、てことでしょ」

「だな」


 別にいいじゃん。他のメンバーたちは、行きたいところがあるみたいだし。俺は特にないから、こうしてぼんやりと過ごしているのだ。


「ねえ、レイ。せっかくだから、どこか行きましょうよ。集合時刻の七時までは、まだ時間があるし」

「えー・・・・・・めんどいな」

「面倒とか言わないの」

「分かったよ。で、どこに行きたいんだ?」


 俺は彼女の望み通りの所についていこう。


「うーん・・・・・・どこにしましょうか」


 ふわふわと身体を揺らされながら、首をかしげるセレスティーヌ。


「決めてないのかよ」

「だって・・・・・・どこに行きたい、てより誰と行きたい、ていうかさ・・・・・・海賊クエスト始まってから、なにかとバタバタしていて、あんましレイとまともに会話できていなかったでしょ」


 ぽしょぽしょと、ボリューム小さめの声でそう言うセレスティーヌ。


「そうか?毎日、なにかしら喋っていると思うけれど」

「そりゃあ、確かに会話は交わしているけれど・・・・・・事務的なことばかりで、いつもみたいにどうでもいいことを、もっと喋りたいじゃない」


 セレスティーヌの表情に、どこか寂しそうな気配が漂う。そんな彼女の姿を見ていると、こっちまで寂しくなってきた。


「・・・・・・分かったよ、セレスティーヌ。じゃあ、せっかくだから、王国内を散策しようぜ」

「うん、ありがと」


 一転して、満面の笑顔でそう返すセレスティーヌだった。

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