第422話 設計局


 マーレス王国海軍設計局に入った俺たちを迎えたのは、一人の女性だった。


「どうも。私がここの責任者――イーラ・ノレよ」


 赤毛が特徴的な、三十代くらいの女性だ。


「それで、何の御用かしら」

「失礼します、イーラさん。わたし、どうしても表にある潜水艦の設計者さんたちとお話したくって・・・・・・」


 トリスティアの説明に、イーラさんは軽く頷く。


「潜水艦・・・・・・ああ、そういうことね。別に構わないわよ。というか、ここの責任者は私だから、私が相手してあげるわよ」

「わあ~、ありがとうございます!」


 嬉しそうにはしゃぐトリスティア。


「ただ、表に並んでいるあれは、厳密には潜水艦ではないのよ。魔力を動力源とはしているけれど。あれは戦魚艦せんぎょかんよ」

「戦・・・・・・魚艦?」


 聞き慣れない言葉に、首をかしげる俺たち。


「ええ。まあ、基本的な機能は潜水艦と変わらないけれど・・・・・・百聞は一見にしかず、とりあえずついて来て」


 イーラさんは、俺たちを連れて、外に出る。


 案内されたのは“戦魚艦せんぎょかん”とやらが並べられている、ドックのような場所だった。


 戦魚艦は、一見したところは潜水艦のように見える。しかし、よく観察していると、その胴体にはひれのようなものがついている。


「これ、一体なんですか?」


 俺はそのひれのような物体を指さして質問する。イーラさんは、こともなげに答えてくれる。


「ああ。それはね、ひれよ」

「え?ひれ、ていうとあれですか。魚についている・・・・・・」

「そうよ」

「でもちょっと待ってください。この戦魚艦って、つまりは生物なんですか?」

「いいえ。立派な兵器よ」


 イーラさんの言うことの意味が分からず、頭を抱える俺の隣から、トリスティアの解説が聞こえてくる。


「レイくん。つまりね、基本は潜水艦なんだけれど、お魚さんの構造を一部利用しているってことなんだよ」


 えーと。つまり、サイボーグみたいなもの、てことなのか。いや、サイボーグは元が人間だから、ちょっと違うかな。


「このひれは、恐らく大怪魚・ダロスカイのものかしら?」

「ええ。よくご存じね」


 ロレッタの指摘に、イーラさんは感心する。


「はい。実は私、結構モンスターオタクなものでして・・・・・・」

「え、そうだったのか?」


 そりゃ初耳だな。


「はい。幼少の頃から現在まで、モンスター大図鑑とかを眺めるのが大好きなんです」


 へえ。だったら、これからの海賊クエストで、その知識が色々と活きてくるかもな。


「すごいなあ・・・・・・わたしも、こんな風にドラゴンとか大怪魚とかの一部を利用して、製作してみたいなあ」


 しみじみとそう言うトリスティアに、俺は軽くフォローを入れる。


「まあまあ。俺が【創造術】で、材料は出してやるからさ。今度作ればいいじゃん」


 そう言いながら、俺の心の中にふと疑問が湧く。


「あれ?でも確か【創造術】って、無生物だけだよな、生み出せるのは。うーん・・・・・・これ、やっぱり生物だよな?」

「疑問があるのなら【天界通信】でテレスさんに訊いてみれば?」

「そうだな」


 トリスティアからのアドバイスを受けて、俺は【天界通信】を発動させる。



「このたぐいの生物の構造を利用したものは、厳密には生物とは定義できないので、【創造術】でも大丈夫よ」


【天界通信】に出た女神テレスさんは、俺の説明を聞いた後、あっさりとそう返事をしてくれた。


「やった~。レイくん、これでわたしもますますロボ作りに没頭できるよ~」


 喜びのあまり、トリスティアはガシッと俺に抱きついてくる。恐ろしく柔らかな感触に、意識が飛びそうになる。


「こら、トリスティアちゃん。レイにベタベタし過ぎよ、離れなさいっ」

「えー、どうしてよー?ほら、セレスティーヌちゃんにも、ハグっ・・・・・・!」


 トリスティアは今度はセレスティーヌの方をガッシリと抱きしめる。


 そんな俺たちの様子に、テレスさんは暖かなまなざしを送る。


「あらあら・・・・・・あなたたちもすっかり仲良しさんね。それじゃ、またね」


 そう告げると、テレスさんとの【天界通信】は切れた。

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