第420話 マーレス王国


 マーレス海軍の見立てによれば、イグマディア帝国艦隊は少なくとも一週間はやってこない、とのことだった。


 だが裏を返せば、一週間しか猶予がないということだ。その間に俺たちは、あのイグマディア帝国軍への対抗策をとらないといけないのだ。


「ところでキャプテン・セレスティーヌ以下海賊船の乗組員皆様。よかったら、イグマディア海軍の来襲まで、我らマーレス王国に滞在なされてはどうであろうか?我々がクエスト受注をして呼んだ手前、やはりここはしっかり歓待したいところですが」

「ええ、そうね。お言葉に甘えて、マーレス王国にお邪魔しましょう」


 ベルトロン司令官の提案をセレスティーヌはあっさりと承諾する。


 というわけで、俺たちオリオン号を始めとした海賊船団は、マーレス王国に来たわけだが。


 なんというか、マーレス王国の光景は、俺が予想していたのとはかけ離れていた。 


「ルミナ。ちょっと聞きたいんだが、マーレス王国って、こんな場所だったのか?」

「はい、レイ先輩。マーレス王国といえば、誰しもがこういう場所だと思い浮かべるものですよ」

「そうなのか、レーナ?」


 ルミナの隣にいたレーナに確認する。


「そうだよー。うちも、なんか父親の仕事関係の取引とかで、家族揃って来たこともあるくらいだし」


 なるほど・・・・・・。どうやら、マーレス王国がこういう場所だというのは、この世界では常識らしい。


 マーレス王国。俺はてっきり、城塞に囲まれている鉄壁の防御を誇る島だとばかり思っていたのだが・・・・・・。


 目の前に展開する光景は、むしろそんな俺の予想とは真逆で、解放的だ。


 木製のドーム状の建物が、浅瀬に広がるように点在している。多分、これらの建物が、住居などの役割を果たしているのだろう。


 しかしこれは・・・・・・俺は疑問をベルトロン司令にぶつける。


「司令官。ちょっと質問なんですが、マーレス王国の人たちって、海洋性の――つまり魚かなにかの特質を備えていたりするんですか?なんというか、どの建物も海から半分くらい出ている感じですが」


 ベルトロン司令はじめ、マーレス海軍の人たちは、ぱっと見、半魚人はんぎょじんとかには見えないのだが。


「ん?ああ、レイ殿はマーレス王国が初めてなのだな。それならば仕方あるまい。我らの身体は“海繭コクーン”で覆われているからな」

「“海繭コクーン”・・・・・・?」


 また聞き慣れない単語が出てきたな。


「左様。ま、簡単に説明すれば、我らはその“海繭コクーン”のおかげで、海中でも自在に生活をすることができるのだ」

「へえ・・・・・・」

「とはいえ、他所からの客人たちが海中の方へと行くときは、海繭コクーンがないので、色々と潜水具の類いを着てもらうのですがな」


 そう言って司令が指さした方には、いかにも重そうな、金属の潜水服が並んでいた。


「え~、あれ着るの・・・・・・。うち、力ないから大丈夫かな」

「右に同じです・・・・・・」


 レーナとルミナを始め、メンバーたちが、不安を口にする。確かに、女の子にはちょっと厳しいかもしれないな。


「レイくん、出番だよ。あるでしょ?水中の中でも自在に呼吸できる魔法が」 


 ソフィアにせっつかれるように言われ、俺は使えそうな魔法を探す。


「ええっと・・・・・・あ、これでいいな。【無敵の適応術】」


 深海だろうと火山の中だろうと、いかなる空間でも、生存できるという魔法だ。莫大な魔力を消費するため、本来はいざという局面で使う魔法みたいだが、魔力無限の俺ならば、ずっと使っていられる。


 俺は【無敵の適応術】をパーティメンバー全員に付与して、ベルトロン司令官に向き合う。


「準備はできました」

「おう、そうか。ならばわが国マーレスを案内しよう」


 司令官に導かれるまま、俺たちグレートパーティは進む。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る