第419話 マーレス王国へ


「ありがとうございます!あねさん!命の恩人、どこまでもついていきます!!」


 身長2メートル近い、ゴツいひげ面の男が甲板に三つ指をついて頭を下げる。それに伴い、彼の手下と思われる荒くれ者どもたちも、同様の姿勢をとる。


 イグマディア帝国第二艦隊を退けた後、救出した海賊船たちに連絡をとった俺たち。そしたらまあ、なんというかこういう流れになってしまった。


「助けられた恩義はぜってえ忘れません!」と、海賊船の船員たちは、このオリオン号の船長・セレスティーヌに、この通り完全に参ってしまっている。厳密には、俺たち全員で助けたわけだが。というか、俺もだいぶ貢献したんだけれどな?


 一方のセレスティーヌはというと――ちょっと困った顔をしている。なので、俺は声をかける。


「セレスティーヌ船長、どうしたんだ?」

「う~ん・・・・・・正直、こういう展開にはあまり慣れていないのよね。人から感謝されるのは嬉しいんだけれど。あねさん、なんてガラじゃないし」

「でも船長に立候補したじゃん」

「それは、船員の皆が、よく知っているパーティメンバーだからよ。レイだって、本質的には私のこと、立場が上だとか思っていないでしょ?」


 まあ、確かにそれはそうだが。


「でも、どうするのー?さすがにこの人数を載せて航行はできないわよ」


 ソフィアが、甲板にひしめく海賊船員たちをまわしながら言う。ざっと百人は下らない人数だ。


「とりあえず、一旦皆さんは、各々自分の船にお戻りくださーい。私たちオリオン号が、ここからマーレス王国まで、導いてあげます」


 ルミナが指示を出して、海賊たちを各々の船に戻す。おとなしくその指示に従う海賊たち。


「さてセレスティーヌ先輩。とりあえず、マーレス王国にまで行きましょー」

「了解。それじゃ、オリオン号発進!」


 とまあこんな感じで、俺たちは再びマーレス王国へと向かう。

 


 ポセイドン号艦長・マーレス王国海軍司令官のベルトロンは、俺たちが引き連れてきた海賊船を見て、目を丸くする。


 俺たちから一通りの説明を受けたベルトロン司令官は、


「なんと・・・・・・あのイグマディア帝国第二艦隊を退けるとは・・・・・・そなたら、いったい何者なのだ?」

 と賛嘆の念を漏らす。


「いえ、ただのしがないギルドの雇われ冒険者ですが・・・・・・」


 とりあえずそう答えておくことにしておく。俺たちグレートパーティが色々と規格外なグループであることは、まだ黙っておいた方がよかろう。


「それで、ベルトロン司令。イグマディア帝国の艦隊が、マーレス王国への領海侵犯を繰り返しているので、それを解決したいとのことでしたが・・・・・・どうでしょうか?とりあえず、一時的には退けましたが」


 セレスティーヌの問いに、司令官は深く頷く。


「うむ、そうですな。だがセレスティーヌ殿、そして海賊クエスト中の皆様方。一度や二度の撤退ぐらいでは、連中は諦めませぬ。態勢を立て直したら、必ずや再びやってくるでしょう」


 うーむ・・・・・・やはりそうか。いさぎよく撤退したのは、決して諦めたという意味ではない。むしろ捲土重来けんどじゅうらいを狙うため、戦力を温存するための、戦略的撤退なのだ。


「なーに、大丈夫ですよ司令官。わたしたちが来たからには、もう千人力ですよ。イグマディア帝国艦隊なんて、第一から第八まで殲滅しますよ」


 そう言い、胸を張るソフィア。


「お、おう・・・・・・そうか」


 ベルトロン司令官は、半信半疑といった様子で、答えるのだった。

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