第106話 VSスキュラーケン

 サクサクと下位モンスターをなぎ倒していき、割とあっさりとスキュラーケンのいる第五層最奥部にまでたどり着いた。


「これが・・・・・・スキュラーケン・・・・・・」

 ミオは目の前に出現したクラゲ型モンスターの威容に、圧倒されていた。かくいう俺も同様だが。


 スキュラーケンは、体長十五メートルはあろうかという巨体だった。一言で形容するならば、バカデカいオレンジ色のクラゲ。


 スキュラーケンは、半透明の触手をうごめかす。


 バチバチ、と電光が爆ぜる。どうやらこいつは光属性のモンスターらしい。


「ミオ、ルミナを頼むぞ」

「りょーかい」

 ミオは太刀を構え、抜け目ない視線をスキュラーケンに向ける。


 俺は第一波の攻撃に移る。


 手にした魔聖大剣ディアボロスが、俺の魔力に反応して、脈打つように紫色に輝く。充分な魔力が充填されたことを確認した俺は大剣を大きく振りかぶる。


「【真奥義・黒闇竜の息吹】!」

 まるで闇そのものがガス状になったようなどす黒い炎が、前方に一気に広がる。橙色に光るスキュラーケンを、闇の炎は包み込む。


「ギオオオォォォッ!!」

 空気をつんざくような金切り声が、耳朶を震わせる。ヤ、ヤバいなこの声は・・・・・・。


「【耳栓】!」


 自分だけでなく、ミオとルミナにも魔法を駆けて防音対策をする。これ、最近結構使うな・・・・・・。


 ビカァァァァンッ!!!


 黒い炎の海を切り裂くように、光のビームが俺たちに放たれてきた。


「うわっと、【闇の守護壁】!」

 とっさに闇属性防御魔法を展開して、ビームを防ぐ。心配になり、ミオとルミナの方を見る。良かった、ふたりとも大丈夫だ。


 二人の無事を確認すると、スキュラーケンめがけて一目散に駆ける。


「このクラゲ野郎・・・・・・!喰らえ【暗閃斬】!!」

 大剣ディアボロスで、闇属性の雷を盛大に散らしながら、スキュラーケンに斬りかかる。奴はひょいと身をかわす。攻撃は本体へは届かなかったが、触手を数本断ち切ることには成功した。


 だが、スキュラーケンはそんなことでは怯まない。奴は続いて全方位にレーザービームをぶっ放す。場違いなほど美しい七色の光が、あらゆる方面を焼き尽くす。


「くっ・・・・・・!」


【闇の防御壁】は、未だに健在で俺たちを守ってくれる。


 スキュラーケンの攻撃が止む。その隙を突いて、俺は【瞬間移動】で奴との間合いを一気に詰め、渾身の一撃をたたき込む。


「【終焉の暗神斬】」


 禍々しい闇のオーラを放出しながら、魔聖大剣ディアボロスが、スキュラーケンのオレンジに発光する巨体に切り込む。


 ――だが、空振った。渾身の一撃は、何もない中空をむなしく舞う。


 一瞬の間に、俺は事態を理解する。【蜃気楼術】――ありもしない己の幻影を敵に見せる魔法。くそ、流石強力モンスターだけあるな。じゃあ、本体はどこに――?


「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

「ひゃあぁぁぁぁぁっ!?」


 背後からミオとルミナの悲鳴が聞こえた。しまった――!


 振り返ると、ミオとルミナがスキュラーケンの触手に絡め取られていた。


「ちょっと、もう。なんなのよ!これっ!」

 ミオは太刀を振り回すが、残念ながら触手には届かない。


「あわわわわ~、助けてください~」

 ルミナは悲痛な声を上げる。


 哀れな二人は、なすすべもない。畜生、俺のせいだ。


 だが次の瞬間、そんな二人を見た俺の心の奥から、冷静な怒りとでも呼ぶべきものが沸き起こっていた。心が波打つ激情とは異なる、穏やかな凪のように静かで、しかし膨大なエネルギーを抱えた怒り。


 その冷たい怒りを保ったまま、俺はスキュラーケンを見据える。奴の巨体をしっかりと、俺の視界の中央にロックオンする。


「超上級魔法【暗黒神の邪砲】――」


 膨大な闇属性のエネルギーの束が、一直線にスキュラーケンへと向かう。奴は雷撃魔法で反撃しようとするが、それよりも早く闇の攻撃が命中する。


 漆黒の闇が爆発して視界を遮る。次の瞬間に目に飛び込んできたのは、音もなく爆散したスキュラーケンの橙色の肉片が舞い散る光景だった。


「ひゃあっ!」

「きゃあっ!」


 触手に絡め取られていたミオとルミナは、宙に投げ出された形になり、落下運動を開始する。


「【無重力】!」


 俺はとっさに魔法を発動させて、二人の落下を防ぐ。


 それから、ゆっくりと地上に降りてきた二人の下へと向かう。


「大丈夫だったか?」

「もう~なんなのこれ~」


 触手に絡め取られたせいで、全身がヌルヌルとした液体にまみれたミオが心底不快でたまらないといった風に、自分の全身を見る。


「うう・・・・・・めっちゃ寒いです・・・・・・」

 ルミナが震える。


 二人のヌルヌル姿には、少しばかり惹かれるものがあったが、放っておくのは可哀想だったので、【ヒール】やらなんやらで元の状態に戻す。


「わあ、ありがとレイ~」

 こざっぱりとしたミオから感謝される。


「こちらもありがとごさいます~」

 ルミナも嬉しそうだ。


 二人から感謝されて悪くない気分の俺。


「それじゃ、探すか。ルミナのお父さんの形見のペンダント」


 俺は【千里眼】を発動させて、周囲を探索する。

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