第99話 奴隷を購入する
帰り。俺とセレスティーヌはとぼとぼと帰宅する。すぐ後ろから先ほど購入した奴隷少女がついてきている。
「・・・・・・ホント、見境がないんだから」
「いやだってあの場合はああするしか無かっただろ?」
「・・・・・・別に責めているわけじゃないのよ」
セレスティーヌは優しくいたわるような口調で、つぶやくように言う。
「でも確かに、攻撃魔法であの奴隷商人を始末して、この子を奪うのもありだったかもな」
「ないわよ。よく考えてごらんなさい。そんなことしたら、リーティア王国警察とか出動して、大騒ぎよ。レイ、いくら魔力無限の最強の魔法使いだからといって、国家権力と戦い続ける覚悟はある?」
うーん・・・・・・確かに、そこまではないな。
「だから、これでいいのよ。百五十万リルドという大金が消えちゃったのは悲しいけれど・・・・・・この子が奴隷として虐げられることを防げたと考えれば、安いものよ」
後ろの少女を見ながら言うセレスティーヌ。
「だけれど、この子どうする?」
「とりあえず、アルカディア荘に連れていきましょう。今後のことは、皆と話し合うということで」
俺たちはアルカディア荘への帰り道を急ぐ。
「なるほどね・・・・・・」
アルカディア荘に帰った俺とセレスティーヌの話を、ソフィア、ミオ、アリスの三人は神妙な面持ちで聞いていた。
ソフィアはテーブルの端っこで小さくなって座っている奴隷少女を見る。
「わたしは仕方ないと思うけれどな。百五十万リルドという報酬に未練はないかといえば嘘になるけれど・・・・・・レイくんのやったことを支持します。二人はどうかしら?」
ミオがまずはじめに返す。
「私も賛成。奴隷市場のことは知識としては知っていたけれど・・・・・・だってさ、こんな年端もいかない女の子を売り買いするなんてひどいじゃない」
アリスもそれに続く。
「今まで旅してきた中で、結構いろんな国で奴隷オークションとかなんとか目撃してきたけれどさ・・・・・・ホント、買い手次第では地獄みたいな目に遭わされる場合もしばしばあるからね。レイ君のしたことは正しかったと思うよ」
「皆、そう言ってくれてありがとう。いつか必ず百五十万リルドの埋め合わせはする」
頭を下げる俺に、セレスティーヌが軽い口調で励ましてくれる。
「なーに、レイの力があればいずれすぐまた取り返せるでしょ」
「ええ。わたしも期待しているわよ~」
ソフィアもそう言う。
それから、彼女は奴隷少女に向き合い、優しく問いかける。
「それで・・・・・・あなた、お名前は何かしら?」
話しかけられた奴隷少女は、驚いたようにびくりと身体を震わせる。あまり見知らぬ他人に話しかけられるのには慣れていないだけなのか、それとも何かトラウマでもあるのか。
「あ、まずはわたしの方から名乗るべきかな。わたしはソフィアっていいます」
ソフィアが最初に自己紹介したのを皮切りに、セレスティーヌ、ミオ、アリス、俺と順に続く。
奴隷少女はゆっくりと口を開く。
「ルミナ、です。ルミナ・レーヴェ」
「ふーん、良い名前ね」
ソフィアは変わらず柔らかな雰囲気で接する。
このアルカディア荘の大家という立場だからか、単純に皆の料理を日頃から世話しているからか、ソフィアにはどうも母性のようなものを感じてしまう。
それからソフィアはいくつかやりとりをして、ルミナの生い立ちについての情報を聞き出す。
ルミナは、大陸から離れた小さな島国、アシード国の出身だという。
母一人子一人で育っていたルミナは、ある日突然、国からの命令で奴隷として売り飛ばされたという。
アシード国は、なんでも国家財政の立て直しとか何とかでここ数年、国ぐるみで奴隷貿易に力を入れているという。簡単に言えば、国民を他国に売り飛ばして荒稼ぎしているのだ。
ルミナの家は、決して豊かとはいえないものだった。なんでも、先祖の代にこしらえた借金があり、未だに返済ができていなかったという。ルミナは己が奴隷になることによって、国から母に支給される金額が、家の借金を返済してもおつりがくるほどだと気付いた。そういうわけで、母親の猛反対を押し切って、ルミナは自ら奴隷になることを受け入れた。
そして、今日リーティア王国で奴隷競売にかけられて、いまここにこうしているということだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます