第98話 待望の報酬は手に入ったが


「お金入ったるんるん♪」

 語尾に音符記号がつくくらいの喜びのセレスティーヌは、その足取りもまた軽やかなものだった。


「はしゃぎすぎじゃないか」

「んー、いいじゃん。だって百五十万リルドだよ?」

 一万リルド金貨百五十枚が入った布袋を

見せびらかすセレスティーヌ。


 本日正午、俺とセレスティーヌはクエスト室に行き、パグラスダンジョン攻略の報酬を要求した。アリエスさんは約束通り報酬を支払ってくれた。それも百五十万だ、百五十万。


「アリエスさん、気前いいわよねー」

 セレスティーヌは喜び一杯だ。まあ、仕方あるまい。グレートパーティ結成以来、最大の報酬だもんな。


 だが、よく考えたら俺、セレスティーヌ、ソフィア、ミオ、アリスの五人で山分けだから一人あたりは三十万リルドってところか。だとしたら、俺がかつて一度のクエストで手に入れた五十万リルドは下回るのかな。まあ、あのときは一人だったしなあ。


「百五十万だったら何が買えるかなー?」


 期待に満ちた声のセレスティーヌ。頭の中で、欲しい物が浮かび上がっては消えているようだ。


「普通に貯金、でよくねえか?」

「もー、何でよ。夢が無いわねえ。少しくらい贅沢したってバチはあたらないでしょ?」

「でもここは堅実にだな・・・・・・」

「うるさーい。私はこれで新しい魔法薬を買うのよ」

「ま、それくらいならいいかもな」


 でも待てよ。魔法薬って確か百万リルド以上のも確か存在したよな?


「セレスティーヌ、独り占めはよくないぞ」

「んー、そんなこと考えていないし」

 普段は大人っぽい印象のセレスティーヌが、いつになくこどもっぽい。


「とりあえず、ソフィアとミオ、アリスに使い途は相談した方がいいだろ?今回のクエストは、あいつらも強力してくれたわけだし」

「うん、まあもちろんそれは分かっているわよ」


 俺たちは街中を通り、徒歩でアルカディア荘を目指す。


【瞬間移動】でひとっ飛びに移動しても良かったのだが、あまり使いすぎても節操がないというか、せっかくだからたまには街並みをゆっくり眺めたい気分だった。あと、セレスティーヌと少しばかり長く一緒に過ごしたいという気持ちもあった。


 今日は人の賑わいが一段と激しい。何かの催し物が開催されているのかもしれない。


 中央広場にさしかかったとき、一際大きな人だかりが出来ていることに気付く。何だ、あれは。


 野次馬根性で俺たちはその人だかりに近づく。だが、近づいて人だかりの声が聞こえてくるにつれてセレスティーヌの表情が曇ってきた。


「レイ、放っておきましょう。あんなのには関わらないのが一番よ」

「どういうことだ?」

「いいから、早く行きましょう」


 セレスティーヌは俺の裾を引っ張り、人だかりから離れようとする。


 何がなにやら分からない俺はちょっと抵抗して、その人だかりの方へと歩く。耳に飛び込んできたのは、こんな声だった。


「さあ、お次は今回二番目に目玉の奴隷だよ。今回出品した中では最も力持ちだ。さ、まずは一万から始めようか」

「二万!」

「四万!」

「十万!」

「二十万!」


 ・・・・・・なるほど。つまりは奴隷のオークション市ってわけか。


 セレスティーヌは汚物を見る目になる。


「レイ。とっとと行くわよ。奴隷市なんて最低最悪なものよ。関わるだけ、時間の無駄」

「ああ、そうだな・・・・・・」


 セレスティーヌの言われるがままに、その場を立ち去ろうとする。だが、次に飛び込んできた言葉に俺たちの動きは止まる。

「さあ、お次はいよいよ最後だ。とびきりの商品、今回唯一の女奴隷、それも年齢は十三だよ。ほら、見てごらんなさい。この白く美しい肌を!」


 思わず動く俺たち。


 人混みをかき分け、奴隷が見える場所まで行く。壇上には、首輪につながれていた小柄な女の子がうつむいて立っていた。


「ひどい・・・・・・まだ私たちとそんなに歳も違わないじゃない」

 セレスティーヌは、怒りで肩を震わせていた。目には悔しさと怒りの涙をにじませていた。


 そんな俺たちのことなど知るよしもなく、オークションは始まっていた。


 十万、二十万、となりあっという間に値段は百万にまで達していた。


「・・・・・・百十万!」

「百二十万!」

「・・・・・・百二十五万!」

「・・・・・・百三十万!」

「・・・・・・百四十万!」

「・・・・・・」

「百四十万。他に買い手はいらっしゃいませんか?いらっしゃらないのなら、それで決定します」


 俺はとっさの行動に出ていた。思考も熟考も一切ない、ただ衝動に突き動かされて、気がつけば手を挙げて、声を枯らすほど叫んでいた。


「百五十万!百五十万でどうだ!ここに百五十万リルドあるぞ!」

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