第80話 早朝のクエスト・その2


 朝。時刻は午前五時。いつものように目覚まし時計に起こされる。


 顔を洗い、身支度を整える。五時五分、俺の部屋をトントンとノックする音が聞こえてくる。


「入っていいぞ」

 ガラッと戸を開けて俺の部屋に入ってくるのはセレスティーヌ。服装はすでにクエストモードだ。


「レイ、準備は出来たかしら?」

「ああ。それじゃ行くか」

 セレスティーヌと俺は、ギルドへ向かう。

 

 クエスト室に入り、いつものようにダンジョン清掃の依頼用紙を受付に持っていく。


「おー、おはよレイ。て今日はひとりじゃないんだな」

 受付嬢のディオーネさんは、俺の隣にいるセレスティーヌを見て、ちょっとだけ驚く。


「セレスティーヌは初めて会うよな。こちら、ディオーネさん。アリエスさんがいない夜から早朝の時間帯の受付をしてくれているんだ」

 俺はセレスティーヌにディオーネさんを紹介する。


 セレスティーヌはぺこりと頭を下げて自己紹介をする。


「よろしくお願いします。私、セレスティーヌっていいます」


「こちらこそよろしく。それにしても、レイとはどういう関係なんだい?」 

 依頼用紙の諸々の手続きをこなしながら、ディオーネさんは尋ねてくる。


「パーティの仲間ですね」

「そっか・・・・・・あたしからしたら、いつも一人でクエスト受けているイメージがあったからさ。あんたに仲間がいるのは意外だね」

「失礼だなー、ディオーネさん。俺にだって仲間くらいはいますよ」

 つーか、話していなかったんだな。


「ほれ、これで完了だ。それじゃ、今日もいってらっしゃい!」

 そういうわけで、俺たちはクエストを開始する。



 俺たちはダンジョンに到着する。


「それでさー、朝から結局どういうクエストをやっているの?」

 セレスティーヌが訊いてくる。


「これだよ」

 俺は依頼用紙をセレスティーヌに見せる。


「なるほど・・・・・・お掃除クエスト、てわけね」

「報酬は時給八千リルドだ。折半することになるから、セレスティーヌには四千リルドだけれどいいか?」

「うん、別に構わないわよ。そもそもお金のためじゃないし・・・・・・レイと二人っきりで過ごせたらそれでいいっていうか・・・・・・」

「え?」

「ううん、なんでもない。さ、早くクエスト始めよ」

 俺たちは、汚れたダンジョンの清掃を始める。


 単純に、こういう作業は二人いればはかどるな。それこそ、一人でしているときの倍以上の効率な気がする。


 風魔法で、二人でモンスターたちの遺骸やらなんやらを一カ所にまとめる。それから高温の火炎魔法で盛大に焼却する。後には灰の山が残るのみ。


 それから続いて水魔法の時間。飛び散ったモンスターたちの血液や体液、その他様々な液体でダンジョンは床も壁も天井も汚されている。それらを凄まじい勢いの水で洗い流していく。


 俺が汚れを水で飛ばす傍らで、セレスティーヌがモップやたわしでゴシゴシと壁面・床面・天井を拭いてくれる。いつもはこれを一人でやっているので、随分と効率がいい。


 ものの三十分ほどで、いつものノルマの分量が片付いた。


「とりあえず、これで終わりかな。セレスティーヌがいてくれたおかげで助かったよ」

 俺はピカピカに綺麗になったダンジョンを見回しながらセレスティーヌに言う。


「ふふん、どう?私が協力すれば、こんなものよ」

 セレスティーヌは得意げに胸をはる。


「さてと。時刻は午前六時。まだ一時間ほど残っているな。セレスティーヌ、ちょっとダンジョン探索でもするか?ついでだし」

「え?別にいいけれど・・・・・・さっさとギルドに帰って報酬貰わなくてもいいの?」

「一応このクエストは時給制だからな。こんな早く終わったことないから分かんないけれど、報酬が安くなる可能性もあるんじゃないかな?」

「うーん、そうかな?とりあえず与えられた仕事はこなしたわけだし、そんなことないと思うけれど」


 どうせダンジョンにはすぐまた来るのだから、セレスティーヌはあまり探索には乗り気ではないようだ。


 結局セレスティーヌに説得される形で、ギルドへと帰ることになった。


 報酬を減額されるのではないかという俺の心配は杞憂だった。


「おー、レイにセレスティーヌ。今日は早かったな。指定されたところの掃除は全部終わった?そりゃすごい。ほら、これが今日の報酬だ」


 ディオーネさんは、愛想良く報酬袋を渡してくれた。時給八千リルドの一時間半分、一万二千リルドがその中にしかと入っていた。


 俺たちはクエスト室を出る。


「ね?私の言った通りでしょ。ちゃんと払ってくれたじゃない」

「そうだな・・・・・・」

 そんなものなのかな。


「で、これからどうする?アルカディア荘に帰って一休みするかしら?」

「いや、どうもそういう気にはならないな」


 セレスティーヌがいてくれたおかげで、早朝クエストがいつもよりだいぶ早く終わり、まだ余力が残っているのが感じられた。


「んー・・・・・・それじゃあさ。ちょっと私に付き合ってよ。行きたいところがあるの」

「へえ、どこだ?」

「それは着いてからのお楽しみよ。あ、だから【瞬間移動】は使わなくていいからね」


 セレスティーヌは意味ありげな笑みを浮かべる。


 ま、ここはセレスティーヌの言う通りにしておくか。たまには【瞬間移動】なしの移動も良かろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る