第79話 ノーンチップ

「これは・・・・・・ノーンチップですね」

 俺たちが拾った謎のかけらを手に取ったアリエスさんは、目を丸くする。


「ノーンチップ?なんですかそれは?」

 聞き慣れない単語だな。


「はい。ノーンとは、ラ・ノーン――ダンジョンの創設者である偉大なる大魔導師――に由来しています」


 アリエスさんの語るところによれば、次のようなことだった。


 大魔導師ラ・ノーンが現在のダンジョンにつながる超巨大地下迷宮を作り上げたのは、周知の通り。


 大魔導師ラ・ノーンは、魔法に関する優れた著書を数多く世に送り出していたが、現在その著作のほとんどは失われている。迷宮誕生後、ラ・ノーンの本は発禁処分となり、残っていた本も多くが燃やされた。ラ・ノーンの知識も、いつしか世間からは忘れられていった。


 だが、あるときダンジョンにて、ラ・ノーンの言行を記録したメモリチップのごとき物が発見された。これがノーンチップである。


 ノーンチップに記されているのは、ラ・ノーンの失われた著作から、ノーンの講演録まで様々である。


 恐らく、己の著書が失われることを悟ったラ・ノーン自身が、ダンジョン内に密かに自分の言葉を隠したのだと思われる。それが今現在ノーンチップとして発掘されているのだろう。


 ノーンチップは、現在までに100個ほどダンジョン内から見つかっているという。


「中々お目にかかれない、レアアイテムですからね」

「え、じゃあ高額で買い取ってくれたりするんですか?」

 期待に満ちた俺の視線を、アリエスさんはやんわりと払いのける。


「グレートパーティのみなさん。残念ながら、ノーンチップは非換金アイテムとして国際的に取り決められています」

「えー、そんなレアなのに一文も入らないの?」

「そうなんです。あ、でもその代わりといってはなんですが・・・・・・」

 アリエスさんが袋を取り出し、俺たちに渡してくる。


「こちらはちょっとした装身具ですけれど、よかったら差し上げます。丁度五人分あったはずです。魔力をはじめ、色々と効果があるみたいですよ?」

 俺たちはあまり腑に落ちないまま、装身具が入っているという袋を受け取った。


 アリエスさんは話を元に戻す。


「それで、今回あなたたちが発見したノーンチップですが、一旦しかるべき機関に送って詳しい解析をお願いします」


 ひょっとしたらラ・ノーンやダンジョンについての、新たな情報が見つかるかもしれませんからね、とアリエスさんは付け加える。


「情報が追加され次第、お伝えしますね」

 そういうわけで、その日のダンジョンクエストは終了となった。

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