第72話 早朝のクエスト
リーリーリーという音で、俺は眠りから覚める。
【目覚まし魔法】が内蔵された、目覚まし時計の音だ。こんな道具もあるんだな。ちなみに、この音で目覚めなければ、次は電気ショックを喰らってたたき起こされるという、結構凶悪な仕様となっている。
流石に電気ショックは嫌なので、俺はのそのそと布団の中から這いずり出る。
時刻は午前五時だった。
俺は仕度をする。
「さて、いきますか」
自分の部屋から出る。物音ひとつしない。皆、まだ眠っている。【瞬間移動】でギルドへと向かう。
明け方だが、ギルドは相変わらずにぎやかだ。二十四時間ひっきりなしにメンバーが出たり入ったりしている。
クエスト室に入り、掲示板から依頼用紙を取って受付に行く。
「よ、今日も来たか」
受付嬢――ディオーネさんは、依頼用紙を受け取り、手続きをしてくれる。
「はい、今日もこのクエストをお願いします」
「了解。しかし、よく毎朝やってくれるねえ。ギルドとしても、ありがたいよ」
「いえ、そこそこ報酬もありますしね」
「ほい、これで手続き完了。今日も頑張ってこいよ!」
「はい!」
ディオーネさんのエールを受けて、俺はクエストの目的地――ダンジョンへと向かう。
ダンジョン到着。さて、クエスト開始だ。
「おお、今日も大量だな」
苦笑する俺。
目の前には、スカルズや自動式鎧武者の残骸、他ダンジョン内のモンスターが戦闘によってやられた後が、あちこちに散らばっている。
「では、今日も掃除を開始するか」
掃除――そう、俺の早朝からのクエストというのは、ダンジョン内の、こういった冒険者たちが暴れ回った後始末というわけだ。
発端は、一週間ほど前のことだった。
早朝から何か一人でこなせるクエストがないものかと、クエスト室内でうろうろしていたときに、ディオーネさんがこの「お掃除クエスト」を薦めてくれたのだ。
報酬は時給八千リルドという、時間制だった。それで、朝の五時半から七時まで、一時間半ほどをこのバイトのようなクエストに費やすことにした。なんでも、この時間帯が一番ダンジョン内にいる人が少ないらしい。
まずは【旋風神の小竜巻】で、極小の竜巻を沢山発生させる。俺の意思で自由自在に動く、この優れものの竜巻たちは、残骸を巻き上げ、指定した一カ所に集めてくれる。
カラカラコロン、という乾いた音と共に、残骸たちはものの五分ほどで通路の中央へと、うずたかく積み上げられる。
んで、その残骸・遺骸その他諸々の山が出来上がったところを、俺は【焔輪】で、すっぽりと囲んで火をつける。ぼう、という音と共に残骸の山は燃え上がる。
これで一丁上がり。燃え尽きた後に残された灰を、指定のゴミ袋の中に入れて回収する。稀に、灰の中から貴重な素材が入手出来るとか聞くので、それとなく慎重に注意深く灰の中は見ておく。
そして、次の掃除場所へと向かう。
なぜ俺はこんな早朝から、クエストをこなしているのか?一言で表すなら金稼ぎのためだ。
ではなぜ金が欲しいのか?セレスティーヌのために“ザルノスのローブ&杖セット”が欲しいからだ。
未だに“ザルノスのローブ&杖セット”は、スラック商店の店頭に掲げられている。
パルシア魔法学院の一件以来、高額報酬の高難易度クエストがほとんどない。 “ザルノスのローブ&杖セット”を一発で買えるようなクエストは、皆無だ。
なんでも、職場を失ったパルシア魔法学院の教師陣に仕事を与えるために、高難易度クエストを彼らに流しているという噂もあるが、真相のほどは分からない。アリエスさんによれば、単純に高難易度クエストの依頼が来なくなる時期はよくあるとのことなので、考えすぎかもしれないが。
高額クエストが無いせいか、五十万リルドという大金の“ザルノスのローブ&杖セット”もまた売れていない。
ということで、俺はセレスティーヌに“ザルノスのローブ&杖セット”をプレゼントするべく、こうして地道にクエストをこなして、金を稼いでいるというわけだ。
さて、七時になったことだしアルカディア荘に帰るとするか。そろそろみんな起きてくることだし。
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