第70話 怪しい商人たち
「ん?なんだ、あれは」
「どうしたの?」
「いや、何かダンジョン内で店を出しているのがいるんだが」
【幻映術】でその場所を映す。ここから割と近いところで、男が二人、品物を陳列して売っている。
「ダンジョン内での商売って、何か問題はないのか?」
「多分、大丈夫でしょうね。禁止されているわけではないから。とはいえ、危険の伴うダンジョン、なにか起こっても自己責任、てことになるだろうけれど」
セレスティーヌがつれなく言う。
「とりあえず、この人たちの所に行ってみるか?」
「そうね。何か面白そうなのを売ってくれるかもしれないしね」
とミオ。
「ダンジョンでしか入手出来ない食材とか、売ってないかな」
とソフィア。いや、お金が無かったら、そもそも手に入らないぞ。
とはいえ、なにがあるのか興味はそそられる。行ってみる価値はあるかもしれない。
歩いてものの五分ほどで、目的地には着いた。
粗末な机の上に、何やら怪しげな商品が陳列されている。
よくよく見てみると、二人の男もかなり怪しい風貌だ。インチキくさい、という表現がぴったりとくる。片方はちょびひげをはやしており、もう一人はスキンヘッドがトレードマークだ。
男の内の一人、ちょびひげの方が、俺たちに気づく。
「おや、お客様だねえ。君たちも、さしずめギルドの冒険者といったところだろう」
「はい、まあ・・・・・・」
曖昧な返事をする俺。
「何か欲しいものはあるかい?色々とそろっているがね」
ちょびひげ男が、陳列されている品物を指さす。
俺も改めてその商品を眺めるが、大したものはなさそうだ。
「実は私たち、魔神水っていうのを探しているんです。おじさんたち、何か知りませんか?」
ミオの質問に、スキンヘッド男がポンと手を叩く。
「お?魔神水ですか。お客様、これは運がいい。丁度先ほど、とある冒険者と取引して、入荷したばかりなんですよ」
背後にあったデカい袋から、スキンヘッドは水の入った小瓶を出す。
「これが・・・・・・魔神水?」
「そうです、お客様。いや~、ラッキーですね~」
「それで、おいくらですの?」
セレスティーヌが訊く。
「はい、一本十万リルドでございます」
「た、高い・・・・・・」
二の句が告げられなくなる俺たち。それ、今回の報酬とぴったりじゃん。
俺たちは顔を付き合わせて相談する。
「どうする?十万リルドといえば、今回の報酬と完全に一致するわよ」
「うーん、仮に今ここで買えば、報酬は差し引きゼロになるのよね」
「でも、ここまで来て何の埒も上がらない状態だし、買ってもいいかもよ」
「というか、そもそも私たちの持ち金、今いくらなの?」
俺たちは、財布を取り出して各々の所持金を確認する。
大体一人あたり四万、合計で十二万リルドとちょっとだった。
「十万リルドは、ちょっと高すぎない?」
「所持金ほとんど飛んじゃうね・・・・・・」
そうしてひそひそと相談する俺たちに、ちょびひげ男が声をかけてくる。
「お客さんたち、何を相談しているのですか。値段なら、半額とまではいきませんが、三割ほどなら値引きして差し上げますよ」
その言葉を受けて、セレスティーヌが話す。
「ねえ、もう買っていいんじゃない?三割引きなら、七万リルド。差額三万リルドの儲けだから、悪いことないじゃない」
「そうだな。もう買っておく方がいいか」
ここで逃したら、次はいつ手に入るか分からないものな。
俺たちは、スキンヘッドの所へ行って財布から七万リルド出す。
「それにしても、こんな小瓶がたった一本で七万リルドとはねえ」
ミオが残念そうにぼやく。
「そうよ。どんな味か、知りたかったなあ」
ソフィアも肩を落とす。
「魔力の上限がアップするとかいうのにねえ」
セレスティーヌも物欲しそうな目で魔神水の入った小瓶を見る。
そんな俺たちの様子を見て、スキンヘッドは不自然なほどの笑みで言う。
「君たち、もっと魔神水が欲しいのかい?なら特別に、後四本追加して、二十万リルドで売るけれど、どうする?」
「え、本当ですか?」
「ああ、特別サービスだ」
だったら欲しい、と言わんばかりの様子のセレスティーヌたちに、俺は冷静に突っ込む。
「おいみんな、ちょっと待て。持ち金は十二万リルドしかないんだぞ。買うことはできないからな」
「「「えー」」」
一斉に不満を漏らすパーティメンバー。
そんな俺たちに、今度はちょびひげ男が介入してくる。
「だったら今回は特別に、十二万リルドで提供しましょうか?」
「えー、いいんですか?」
「いいってことです。ギルドの人たちには、いつもお世話になっていますからな」
「じゃあ、それでお願いしまーす」
こうして、魔神水を一も二もなく買うことになった。
俺たちの全財産十二万リルドを差し出す俺。うう、今日の晩ご飯、どうするの・・・・・・?
お金を受け取りながら、ちょびひげは頷く。
「それにしても、お客様は実に幸運です。魔神水をたった一本納品すれば、後は全部自分たちのものなのですからね。こうして、自分たちの分も手に入って、十万リルドの報酬も手に入る。良いことづくめですね」
「そうだな・・・・・・」
ん?
「ちょっと待て。俺たち、あなた方にクエストの具体的な内容、報酬とか納品数とか話したっけ」
セレスティーヌもソフィアもミオも、不審げにちょびひげとスキンヘッドの方を見る。
二人の男の表情が、みるみるうちに狼狽したものになった。
「え?ええまあ、お話になったんじゃないですかね・・・・・・? あ、じゃあ我々は他の仕事があるので、このへんで」
男たち二人は逃げるように走り出す。
「なんか怪しいわね・・・・・・」
セレスティーヌが呟く。
俺は、手にした魔神水の小瓶に【解析術】を使う。
「名称 飲料水
効果 喉の渇きを癒やす等、様々な用途で使用可能
値段 三十リルド程度」
「おい、これ魔神水でもなんでもないぞ!!ただの水だ!」
「ギクッ!!!」
ダンジョンの奥へとそそくさと走っていた男二人の背中が、悪いことがバレたように縮こまる。男たちは、さらなるスピードで逃げようとする。
「おい、こら待て。逃がすか、【麻痺雷】!」
俺の指先から放たれた小さな雷が、ちょびひげとスキンヘッドを襲う。
「「ぎゃあっ!!」」
雷が直撃した二人の身体は、電撃ショックを受けて痙攣して、ダンジョンの床に転がる。
「こら、待ちなさい!」
ミオが怒り心頭で、雷凰の太刀を振りかざし、連中の元へと向かう。おい、こら。手荒な真似はするなよ。
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