第62話 ダンジョン・トラップ
薄暗い空間を満たす空気は、湿気を含んでいた。
果てしない奥へと広がる石造りの床も壁面も、幾星霜を経て年季が入っている。所々、木々の根っこなどが顔を覗かせていて、ここが地下だということを改めて感じさせる。
そして、石壁には等間隔にたいまつが掲げられていて、この空間を照らしている。
ダンジョンの概要はこんな感じだ。
ミオとも一度訪ねているが、あのときはすぐに帰還したので、今日が本格的なダンジョンクエストだ。
「さーて、魔神水を見つけましょうかね」
張り切るミオは俺に命令してくる。
「レイ、ということで【千里眼】お願いね」
「了解」
俺は【千里眼・大】を発動させて、魔神水と思しきものを探す。
「どう?何か見つかった?」
「うーん、今のところはそこまでかな」
というか、魔神水ってどんな風に存在しているんだ?湧き水みたいになっているのかな。
「ミオちゃん、早とちりしたら駄目よ。ダンジョンクエストは、目標が見つかったからといって、そこに【瞬間移動】で行ってハイおしまい、じゃないでしょ」
セレスティーヌが諭すような口調で言う。
「えー、そう?」
「そうだよ。ダンジョンクエストの究極的な目標は、ここにいるモンスターたちをすべて討伐して、ダンジョンを解体、後世に残さないようにすることでしょ。だから、道中でモンスターとかを倒していくのも立派なクエストの一部なのよ。」
「んー、分かりました」
やや不服そうにミオが返事をする。
「それじゃ、レッツゴー」
セレスティーヌのかけ声と共に、俺たちは一歩を踏み出す。
床を指さし、俺は言う。
「この前は、この辺りでミオがトラップに引っかかったんだよな」
「もう、やめてよ~」
ミオがちょっとだけ気恥ずかしそうに俺の言葉を制してくる。
「あれ?それじゃ、またここにトラップがあるってこと?気をつけなきゃ」
「いや、そうでもないみたいでな」
俺は【火炎弾】を床や壁に適当にぶっ放す。炎の塊が石壁に衝突して、弾けて空中に散る。
だが、石で構成された床も壁も、ピクリとも反応を示さない。
「どういう仕組みかは分からないんだが、ダンジョン内に仕掛けられているトラップは、随時移動しているらしいんだ」
「えー、ということは前回来た経験は、全く活かされないってこと?」
残念そうなソフィア。
「まあ、そういうことになるな」
そう言って、俺が一歩を踏み出したとき。
ガチャリ。という何かの仕掛けが作動する音がした。
セレスティーヌが、やや狼狽した顔で俺を見てくる。
「ねえ、レイ。まさかトラップ踏んじゃった・・・・・・?」
俺は周囲を見回す。
「ああ。だが不思議だな。特に何も変化が・・・・・・」
そのとき、遠くからゴゴゴ、という何かが転がる音が聞こえてきた。
音は徐々に大きくなってくる。ゴゴゴゴゴ、ゴゴゴゴゴ。
ミオが真っ先に声をあげた。
「まずい!あれ見て!」
ミオの示した先。廊下の奥から、巨大な石球が転がってくるのが見えた。
「ヤバっ、あのままじゃ私たち押しつぶされちゃう・・・・・・!」
くそ、典型的だが効果的なトラップじゃないか。
どうするか?【瞬間移動】で逃げるか?いや、それよりも――。
「セレスティーヌ、ソフィア、ミオ。ちょっと下がっておけ」
俺は三人の前に出て、巨大石球と対峙する。
「レイ、どうするつもりなの?」
「まあ、見といてくれ。上級魔法【爆煌焔】――」
手をかざし魔法を発動する。
ゴロゴロと転がってきた巨大な石球は、内部からの熱で、オレンジに光り始める。次の瞬間、ドッゴォォォンという轟音と共に、石球は閃光を発して爆散する。
爆散した拍子にたちこめた、もうもうたる煙が俺たちの視界を覆う。それから、四散した岩石の無数の破片が、カランカランと音をたて、床に落ちる。
「ごほっごほっ・・・・・・レイ、良くやったわ・・・・・・」
煙で咳き込みながら、ミオが労ってくれる。
「本当ね・・・・・・ごほっ、でもこの煙の中からは、早く出て行きたいわね」
セレスティーヌも同様に咳き込みながら、俺に言う。
「おっけー。それ、【瞬間移動】」
俺たち四人は、煙の影響のないところまで、短距離だけ【瞬間移動】で移動する。
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