第63話 ダンジョン・モンスター
「さて、次はどんなトラップが待っているのかしらね?」
なぜだか楽しげなミオ。
「てか、トラップもいいが、モンスターも出るんだろ」
「そうよね。むしろ、そっちがメインというか」
とセレスティーヌ。
「でもさ、やっぱりお宝も見つけて一攫千金は狙いたいわよね。最近、ミオちゃんが住み始めてから、ちょっと食費が圧迫気味なのよ・・・・・・」
そう言うソフィアに、ミオが申し訳なさそうにする。
「うう・・・・・・ごめんなさい。私が来たばっかりに・・・・・・」
肩を落とすミオに、ソフィアが慌ててフォローをいれる。
「あ、ミオちゃんを批判しているとか、そういうことじゃ全然ないからね!気にしないで!」
てんで勝手にしゃべりながら、俺たちグレートパーティは先を進む。
敵モンスターとの遭遇は、それからすぐだった。
【千里眼・小】を随時発動させながら魔神水を探していたとき。唐突に敵モンスター「スカルズ」が出現した。
スカルズは、一言で言い表すならば骸骨の騎士団、といったところか。鎧を身にまとい、剣や槍で武装した無数の骸骨たちが、俺たちの前に立ちはだかる。
「レイ・・・・・・ “ダンジョンガイドブック”に書いてあったけれど、こいつらダンジョン内に最も多く出現するモンスターらしいわよ」
とセレスティーヌが解説してくれる。さすが優等生のセレスティーヌ、いちいちガイドブックとか目を通しているらしい。俺なんかロクに読む気すら起こらなかったのにな。
「で、どうするの?」
ソフィアが俺に聞いてくるが、ミオが横槍を入れてくる。
「あ、レイちょっと待って。魔法でぶっ飛ばすのもいいけれど、ちょっと私に活躍させてくれないかな?」
「ん?いいけれど」
てか、スカルズがすでに猛スピードでこっちに向かっているぞ。
だが、ミオは余裕の笑みを浮かべ骸骨の騎士団に対峙する。
優雅な身振りで、背中から“雷凰の太刀”を引き抜くミオ。
俺はその背に一言だけ声をかける。
「ミオ、危険だと判断したらすぐに援護するからな」
「りょーかい。ありがとね」
ミオは一呼吸置くと、己の身長より長い刀を構える。
「【灼熱波・一閃】」
ミオの小柄な身体が、軽やかに宙を舞い、刀を振るう。かと思うも間もなく、集団の前列にいたスカルズが、目映い閃光を放つ。
「おお・・・・・・!」
俺は思わず感嘆する。
スカルズたちの骨で構成されたその身体は、鉄製の鎧ごと切り捨てられ、燃えていた。
「ふう・・・・・・まだ結構残っているみたいね」
一息つくミオ。それから彼女は、スカルズの群れに、単騎突入する。
「じゃ、こちらも――【真雷斬】」
先ほどの技とは違い、今度は何度も太刀を振るう動作をするミオ。光属性の魔力を帯び、黄金色に輝くその刀身が振るわれるたびに、スカルズの身体は切断され蹴散らされ、白き骨の身体から放たれる禍々しいオーラが浄化されていく。
ものの五分ほどで、百体はいたかと思われるスカルズは、骨とドクロの残骸の山となっていた。
「すごーい・・・・・・」
ミオの勇姿を初めて目にしたソフィアは、パチパチと拍手をする。
「へえ・・・・・・やるわね、ミオちゃん」
セレスティーヌも感心している。
ミオは、はにかみ笑いをする。
「えへへ・・・・・・ちょっと本気出しすぎたかな?」
「ああ。だが大したものだよ、その剣術」
「え?あ、ありがと・・・・・・」
ミオは小さな声でお礼を述べてくる。
「でもミオちゃん、そんなに暴れて、魔力量は大丈夫なの?」
「ん?ちょっと待ってね・・・・・・ああ、結構減っちゃっているね・・・・・・」
ミオは少しだけ残念そうにする。
「あまり見境なく魔力は使うものじゃないわよ。レイみたいに、無限じゃないんだから」
セレスティーヌが注意をする。
「そうだよな・・・・・・あれ?ちょっと待てよ」
己の魔力一覧表を確認する俺。確か、俺の記憶に間違いがなければ・・・・・・。
「あ、あった」
「ん?何があったの」
セレスティーヌの問いに、俺は
「これだよ。ほい、【ディミディア】」
と言いながら魔法を発動する。
「うーん・・・・・・あれ?魔力が全回復している・・・・・・!?」
「そう。ちょっとした裏技なんだけれどな」
俺が発動した【ディミディア】は、自分の魔力を半分だけ、仲間に分け与える魔法だ。通常、魔力をあまり消費しない剣士がサポートメンバーの魔法使いに対して使用したりするらしい。
だが、魔力無限の俺がその【ディミディア】を発動させたらどうなるか?簡単だ。俺の魔力は一ミリも減少しないまま、パーティ仲間の魔力は全部回復するというわけだ。
「すっごーい!!これで魔力消費を気にしなくていいわけね!」
ミオが歓喜する。
一方で、セレスティーヌは冷静に突っ込む。
「ミオちゃん、あくまでレイがパーティ内にいるときだからね。あまりレイに頼りっきりで、魔力無限の状態に慣れていると痛い目見るかもよ?」
「えー、いいじゃん。てか、セレスティーヌちゃんの方こそもっと喜びなよ~仮にも魔法使いなんだからさ~」
ミオの言葉に、セレスティーヌはぷいとそっぽを向く。
「剣士のミオちゃんはそれでいいかもしれないけれどさ・・・・・魔法使いの私としては、、正直ちょっと面白くない気持ちがあるのよ。魔力の供給すら、全部レイに頼りっきりだなんてさ・・・・・・」
「はいはい、お二人さんともそこまで。ダンジョン探索続けるわよ」
ソフィアが割って入り、半ば強引に会話を終了させる。
こうして俺たちのダンジョン探索がまた始まる。
歩きながら俺はセレスティーヌに小声で話しかける。
「セレスティーヌ・・・・・・なんかすまんな。【ディミディア】でパーティメンバーみんなが魔力無限になれば、クエストでも何でもやりやすいって思っただけなんだけれどな」
それが、セレスティーヌの気持ちを幾ばくか傷つけることになるとはな。
「むう・・・・・・別にいいわよ。気にしていないから」
「そうか?」
「ええ。言ってもなにも始まらないのは分かっているし・・・・・・」
セレスティーヌは立ち止まり、俺と向き合う。そして人差し指をびしりと向けてくる。
「存分に利用させてもらうからね!あなたの魔力無限供給」
「おう、是非そうしてくれ」
俺は胸を張ってセレスティーヌに返答する。
「二人ともー、なにやってるのー?」
ソフィアが遠くから話しかけてくる。
「なんでもない、今行くからー」
そう言うと、俺たちはソフィアとミオの所へと向かう。
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