第60話 大義名分のための決闘
「なるほどねえ・・・・・・」
ガイウス青年は、爽やかな笑みを崩すことなく、俺たちに耳を傾けてくれた。
「僕としては、まあいいかな、て感じかな。そういうことに関しては、理解できなくもないし寛大な心で受け止めたいと思うよ」
「ありがとうございます・・・・・・!」
「ま、僕も人のことを言えたぎりじゃないしね・・・・・・そうそう、あれは十才のときだったっけ・・・・・・」
以後十分間、俺たちはガイウス青年のモテ自慢に付き合わされることになった。
「ふう・・・・・・ということなので、今回のことは特に気にしていない、てことでいいよ」
長話には少々うんざりさせられたが、ミオのためと思えばしかたあるまい。
「感謝いたします、それではこの辺で・・・・・・」
俺は立ち上がり、退室しようとする。しかし、
「ちょっと待ってよ~」
とガイウス青年は止めてくる。
「ん?どうかしましたか?」
「いや、確かに僕個人としてはなんとも思っていないんだれどさ。ただ、うちの実家からすると、はいそうですかとは済まないんだよね」
「は、はあ・・・・・・」
また家柄か。ったくもう、面倒くさいなあ・・・・・・。
「スローディン家としても、今回の縁談がなくなった大義名分が欲しい、てとこなんだよね」
「というと?」
ガイウスは、あくまでもすがすがしい笑みを崩さず、俺を指さしてくる。
「レイ君、僕と勝負しないかい?」
「勝負?」
「そう。剣術で一つ、勝負はどうかな?それで君が僕に勝つことができれば、スローディン家のみんなも納得してくれるよ」
「そ、それは・・・・・・」
言いよどむ俺の横から、ミオが高らかに言い放つ。
「ガイウスさん、その提案、受けて立ちましょう!」
「え、おい・・・・・・」
ミオはキッとにらみつけ俺を黙らせる。
「大丈夫です、こちらのレイは、剣術において私なんかより圧倒的に優れています。ガイウスさんもきっとご満足頂けるでしょう」
「ははは、そりゃすごいや。期待しているよ」
「ミオー・・・・・・」
ということで、俺とガイウスの決闘が決まった。
グランスタッド家にある闘技場において、決闘は行われることになった。
使用武器は先方の要望により片手剣と決まった。
ルールは簡単。互いに剣で戦い合い、どちらかが相手の身体に剣で一太刀浴びせるか、あるいはそうせずともどちらかが降参した時点で勝負は決まる。一本勝負だ。
細身の片手剣を装着して、闘技場に繰り出す。
ガイウスは、すでに待機していた。
爽やかな笑みを顔に貼り付けたまま、ガイウスは挑発してくる。
「ふふふ、レイ君。怪我をせずに降参するなら今のうちだよ」
「いえ、大丈夫です」
素っ気なく返す俺。
審判役を買って出てくれたメイドさんが、中央に立つ。俺たちの姿を視認して言う。
「それでは、はじめ」
ひゅんっ、という音がした。
「え?」
気がついたら、ガイウスが目の前に来ていて、俺の懐にいきなり攻撃を繰り出していた。俺の右に装備されている片手剣は、その攻撃を優雅に受け止めている。
ガイウスは感心したように声をあげる。
「へえ、すごいじゃん・・・・・・まさか僕のこの高速剣を阻止するなんてね・・・・・・」
・・・・・・いや、こいつ無茶苦茶強くない!?
今の攻撃、全く見えなかったんですけれど・・・・・・【武器全種の達人】スキルなかったら、一切反応できていないぞ。
いや、だが俺には【武器全種の達人】があるのだ。気を取り直さないと。
俺は務めて冷静に振る舞う。
「ふん、そんなものかいガイウスさん?君の剣術は」
「ふうん、言うじゃん・・・・・・よし、それじゃ遠慮はいらないね」
ひゅんっ、カキン。ひゅんっ、カキン。ひゅんっ、カキン。ガイウスの剣さばきに対処していく。
「ははっ、僕のスピードについてこれるなんてね。君、相当な猛者だね?」
いや、てめえもだろ。これだけの動きをしていて、息切れ一つしていないし。
だが、俺としても後には引けない。そして、なるべく早く終わらせたい。ということで、ひとつ本気を出してみる。
「剣術スキル【神速の閃刃】」
途端、世界がスローモーションの動きになる。ガイウスの動作も百倍くらいのろくなる。
俺はじっと目をこらして、その動作の隙を見極める。
よし、ここだな。俺は素早く片手剣をガイウスの手元に打ち込む。
ガッキィィーン。
世界がまた元通りの速度を取り戻す。
金属が激しくぶつかり合う甲高い音と共に、ガイウスの片手剣は宙高く舞い上がり、どさりと地面に落ちる。
ガイウスは何が起こったのか理解できずに、目を丸くしている。
「あれ・・・・・・?僕の剣が・・・・・・はじき飛ばされた?」
その姿を目にした審判役のメイドさんが、ばっと手を上げる。
「勝負あり!武器を使用不能にしたことにより、レイ殿の勝利!」
ガイウスは、唖然として俺を見る。
「そ、そんな・・・・・・この僕の認識速度すら越える技なんて・・・・・・!?」
余程自分に自信があったのだろう、ガイウスは落ち込む。
「まあ、そういうことだ」
俺は慰めにもならないような言葉をかける。
少しして、ガイウスは俺の前に来て手を差し出す。その顔には、爽やかスマイルがまた戻っていた。
「負けだよ、レイくん。僕の負けだ。ミオさんは、君に相応しいよ」
俺は差し出された手を握り返し、握手を交わす。
「だけれど、僕もいつか必ず、君を越えてみせるからね!?いいかな、覚悟しておいてよ」
「ああ、分かったよ」
俺は返す。
「では、また」
「ああ、それでは」
そうして、俺たちは別れる。
「レイ、ありがとう~!」
アルカディア荘に帰還してすぐさま、ミオは喜びに溢れんばかりの様子で俺にお礼をしてきた。
決闘が終わったのち、ミオの父上・バリアン・グランスタッド氏が挨拶にやってきた。まあ、もしグランスタッド家を継ぐことになったら、そのときはよろしく、とかなんとか。
「でもさ、今回は何とかなったけれど、結局ミオちゃんもいつかはこの問題にきちんと向き合わないといけないのよ」
【透明化】を解除したセレスティーヌは、ミオに言う。
「うん、もちろんよ。でもまあ、レイでもいいかもしれないけれどね・・・・・・」
ミオが横目で俺のことを見てくる。
「ちょっとなに言ってるのよ、ミオちゃん」
「はいはい、ふたりともそこまで。夕ご飯にするわよ~」
ソフィアが皆をダイニングに連れて行く。
何はともあれ、一件落着、てことでいいのかな。
ミオの心配事も取り除いたことだし、明日からいよいよ本格的にダンジョンクエストに取り組むか。
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