第52話 ダンジョンの歴史

「うわっ!?」

「おい、大丈夫か!?」

 ダンジョン内のトラップに引っかかり、巨大な網にミオの身体は捕獲されて、宙に吊された。


 ビヨンビヨンと空中に浮かぶミオの身体。

「ちょっと~助けてよ」


「ほい、【火炎弾】」

 俺の放った火の玉は、トラップの要となる器具を焼く。ネットが解除され、解放されたミオは華麗に着地する。


「ミオ、大丈夫か?ここ数日、ちょっと注意散漫な感じだぞ」

「え、そうかな?分かった気をつけるね」


 ミオはすたこらさっさと歩を進める。あー、もう。そんなんだったら、またトラップに引っかかるぞ。


 てか、わざわざダンジョンクエストなんかに出る必要はあるのか?ミオがやりたいって言うから止めはしていないのだが。


 ことの起こりは、数日前に遡る。



 ミオがパーティに参加してから一週間が経っていた。掲示板を覗きながら、俺、セレスティーヌ、ミオはいつものようにクエストを探していた。


 そのとき、アリエスさんに背後から唐突に声をかけられた。


「あのー、グレートパーティの皆さん、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう?」

 俺たち三人は、アリエスさんの方を向く。


「ちょっと宣伝というか、お知らせをと思いまして」

「へー、何ですか?」

 ミオが興味津々という雰囲気で前屈みになる。


 アリエスさんは、俺たちにチラシを配ってくれる。


 手渡された紙に目を落とす俺。


「ダンジョン・・・・・・クエスト?」

 印字された字を読みあげる。


「そうです。それはあくまでも宣伝用のチラシですので、わたくしの方から少し説明をさせてください」

 アリエスさんは、話を始める。


「ところで皆さんは、ダンジョンというものにどのようなイメージを持たれていますか?」


 アリエスさんの質問に、まずセレスティーヌが答える。


「えーと、そうですね・・・・・・地下にあって、なんか迷路みたいに入り組んでいて、そして魔物やモンスターがうようよいる、そんな感じ?あ、でもそんな悪いことばかりじゃなくって、中にはお宝とか貴重なアイテムがあちこちにゴロゴロ転がっていて・・・・・・だから、命知らずの冒険者たちが、何人も果敢に挑んでいる場所です」


 セレスティーヌの答えに、アリエスさんは頷く。


「ありがとうございます、セレスティーヌさん。大体、そのイメージであっています」


 それで、とアリエスさんは続ける。


「皆さん、ダンジョンがなぜ存在するのか分かりますか?」


 ん?なんでだろうな・・・・・・。あまり考えたこともないが。


「うーん、自然発生的にできたんじゃないですか?」

 俺は思いつくままの答えをする。


「いえ、違います」

 アリエスさんは明確に否定する。


「いいですか、皆さん。ダンジョンは決して自然に作られるものではありません。あれは人為的に生み出されたものなのです」

 アリエスさんは断言する。


「そもそも、ことの始まりは約一千年前に遡ります」

 お、おう・・・・・・。えらく話が飛躍するな。


 アリエスさんの口から語られるのは、次のような話だった。


 一千年前。偉大なる大魔導師ラ・ノーンが、驚くべき魔術を生み出した。その名もずばり【迷宮魔法】。


【迷宮魔法】は、簡単にいえば空間形成の魔法だ。この魔法を行使すれば、地面でもどこにでも、あっという間に迷宮を作ることができる。


 とはいえ、この魔法の発動には、膨大な魔力が必要とされた。上位の魔法使いでも、せいぜい小部屋一つくらい作れば、魔力はすっからかんになるのだった。


 つまり、迷宮などを作るのはとても不可能だということだった。


 ところが大魔導師ラ・ノーン自身は、凄まじいまでの量の魔力の持ち主だった。彼は、あるとき規格外の魔力を投入して【迷宮魔法】を発動、この世界全土の地下に張り巡らされる超巨大迷宮を作り上げてしまった。


 一説によると、ラ・ノーンは悪魔族と契約して、そこまでの魔力を得ることができたとか。その証拠に、超巨大迷宮には魔物やらなんやらがすぐさま沢山住み着くようになったという。


 いずれにせよ、そういうわけで【迷宮魔法】は禁止された。ラ・ノーン自身も逮捕されたというが、その後の情報はよく分からないらしい。


「・・・・・・というのが、一千年前の話です。この世界の地下全域に蜘蛛の巣のように張り巡らされた超巨大迷宮は、時の流れで大夫壊れたり、縮小したりしました。今ではその巨大迷宮から分化したものが、各国の地下にあちこちにあるというわけです。で、この迷宮をダンジョンと呼ぶわけです」


「なるほどね・・・・・・」

 大体は分かった。つまり、現在各国各地の地下に存在するダンジョンは、元を正せば人為的に作られた一つの巨大な迷宮だった。


「はい、そういうことです。ご納得していただけましたか?」

 アリエスさんの問いに、俺は頷く。


「それで、最近開催された国際会議において、そろそろ本腰を入れて各国のダンジョンを徹底的に始末しよう、という方針が決まりました。一千年間もあんな危なっかしい存在を地下に放置していたんだ、いい加減に根絶した方が良かろうとのことです」

「それが何かうちのギルドと関係があるんですか」

 ミオが問う。


「もちろんです。リーティア王国の地下にも、結構巨大なダンジョンからありますからね。ということで、当ギルドも是非ダンジョン攻略を手伝って欲しい。そういうわけで、メンバーの皆様にもこうしてお知らせしているというわけです」

「了解しました、アリエスさん。気が向いたら是非よろしくお願いしますね」

 ということで、俺たちはアリエスさんと別れる。


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