第51話 お金のこと

 正式報酬の一万リルドも貰い、俺たちはアルカディア荘へと帰宅する。


 ソフィアは俺たちの話を聞いて、目を丸くする。


「へえ~、何はともあれ結果オーライってとこじゃないの?それだけの報酬もらえたのならさ」

「うん、まあな・・・・・・」

 曖昧に言葉を濁す俺。それから、単刀直入に話を切り出す。


「なあ、ここいらで一つ、金の扱いについてきちんと決めておいといと方がいいんじゃないか?」

「というと?」

 一同、首をかしげる。


「ほら、俺たちみんな、ソフィアにアルカディア荘の家事を任せっきりにしているだろ?クエストに行っている俺たち三人が、当然のごとく報酬を山分けしているけれど、ソフィアにもっと払ってもいいじゃんか、てな。ミオもクエストに参加し始めたことだし、ここで一つ、金銭のことはしっかりとしときたいよな、て」

「うーん、わたし自身は特に気にしていないわよ。食費さえ払ってくれれば、そして時々わたしの指定する食材を調達してくれれば、特に文句ないけれど」

「いやいや、そう言ったって俺たちが安心してクエストに参加できるのは、帰る家――アルカディア荘があればこそだろ?だったら、もうちょっとソフィアに分け前を、と考えたんだがな」


 俺は皆を見回す。セレスティーヌがまず始めに賛意を示してくれる。


「うん、いいんじゃない?私はレイの意見に賛成よ」

 それに続いて、ミオも首肯する。


「私も賛成だよ。そもそも入寮したばかりの私に、とやかく言う権利はないだろうけれど・・・・・・」

「いや、そんなことはないよ。もうミオちゃんも、いまや立派なアルカディア荘の住人なんだからさ」

 セレスティーヌがフォローする。


「それで、結局取り分はどうする・・・・・・」

「そうだな・・・・・・」

 俺たちは話し合いを始める。



 まあ結局、クエスト報酬を貰った後に食費等を抜いた上で、四人で山分けするという案で落ち着いた。


 アルカディア荘の住人が増えたら、また色々と変わるかもしれないが、そのときはまたそのときに考えれば良いだろう。


 今日もクエストが終わった。ミオはソフィアの買いものについて行きたいとかで、俺とセレスティーヌの二人でクエストをこなした。緊急に必要になった木材を大量に運ぶというクエストで、【瞬間移動】と【保管庫】でそつなくこなす。


「報酬五千リルドねえ・・・・・・」

 俺ははため息交じりに言う。


「不満かしら?」

「ああ、正直にいえばな」

「仕方ないわよ。最近、あまり高額クエストが発生しないのもの。気を落とさず、やっていく以外ないわよ。そのうち、高額のがどーんと出てくるかもしれないしね」


 俺たちはスラック商店の前を通る。ガゼルさんは、客と商談していた。


 セレスティーヌの歩みが一瞬だけ停止して、スラック商店を見る。その視線の先には、青のローブと木製の杖――「ザルノスのローブ&杖セット」があった。


「・・・・・・まだ売れていないのね」

 ちょっとだけ安心した声音のセレスティーヌ。


「・・・・・・セレスティーヌ、まだあれが欲しいのか?」

「ええ、まあね」

「・・・・・・すまんな」

 俺はただそう謝ることしかできなかった。


「いいのよ。レイのせいじゃないし」

「高額クエストがあればなあ・・・・・・すぐにでも稼いで、買えるのにな」

 くそ、あんなタイミングでセレスティーヌを誘拐した連中が悪いんだぞ。


「いいわよ、気にしなくて。あなたが私に“ザルノスのローブ&杖セット”をプレゼントしてくれようとしていたのは、知っているし。まあ、最終的にあなたのその魔聖大剣になってしまったのは、ちょっと残念だけれど」

 俺が背負った大剣を、羨ましそうに見てくるセレスティーヌ。


「でもまあ、こちらも命を救ってもらったからね。それ以上求めるのも、なんだしね」

 セレスティーヌはそう言うと、俺の先を進む。


「さ、レイ。次のクエストを受注しよう」

「ああ」


 俺はセレスティーヌの後ろ姿を見ながら、必ず「ザルノスのローブ&杖セット」を買ってやると心に誓った。

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