第49話 作戦成功

 ドラゴンは、相変わらず荒涼とした大地を我が物顔で闊歩している。


 その姿を確認したのち、俺たちは行動に出る。


 まずは俺からだ。


 もう逃げも隠れもしない。俺はドラゴンの視界に入るようにして、【拡声術】で強化した大声で、奴を挑発する。


「やーい、くそ雑魚ドラゴン、こっちおいでー」


 もちろん、ドラゴンは即座に気付く。そして再び巨大レーザーを放つ。


「ふん、来やがったな。【守護神の防壁・真】」

 防御魔法の最上位に位置すると言われる術を発動する俺。レーザーは俺の眼前で、盛大な光と共に爆ぜて四散した。


 俺の身体には傷一つない。


「あれー、そんなものですか~」


 なおも挑発を続ける俺。ドラゴンに人間の言葉がどれほど通じているかは心許ないが。


「喰らえい、【レインボー・ビーム】!」


 隣にいたセレスティーヌは、杖を掲げ魔法を発動する。キラキラとした七色の光の束が、ドラゴンの表皮に当たる。


 だが【レインボー・ビーム】は、ドラゴンに大したダメージを与えない。奴の表面を覆う鱗は、無傷の状態で鈍く輝いている。


 だが、それでいい。


「ブォォォォォッ!」

 ドラゴンは【レインボー・ビーム】の鮮やかな光に、怒り狂ったような雄叫びをあげる。全身から熱波を放ちながら、先ほどから挑発を繰り返す俺たちめがけて突進を始める。


 どっしん、どっしん、どっしん。


 こちらめがけて突っ走ってくるドラゴンの足音は、大地を揺るがす地響きとなって俺たちの身体を揺らす。


 どっしん、どっしん、どっしーん。どっしん、どっしん、どっしーん。


ドラゴンと俺たちの距離は着実に詰められてくる。だが、俺たちは逃げずにその姿をじっと見つめる。


 互いの距離が十メートルくらいにまでなった。


 どっしん。どっしん。どんがらがっしゃーん!


 猪突猛進で俺たちに向かってきたドラゴンは轟音と共に、唐突にその姿を消した。


「よっしゃ、かかったぞ!」

「やったー!」

「わーい!」


 俺たちは快哉を叫び、ドラゴンの消えた方へと駆け出す。


 そこには、深い穴が穿たれていた。その奥底には、ドラゴンの巨体がのたうち回っていた。


「ここまで上手くいくとは思わなかったわね」

「ああ、まったくだ。すげえ効果だな、この上級魔法【落とし穴】は」


 偶然見つけた魔法【落とし穴】。その名の通り、地面に落とし穴を即席で作るという単純だが中々強力な魔法だ。


 【透明化】でも発見されるというなら、いっそのこと発見されること前提で罠を張れば良い。それが俺たちの出した結論だった。


 ということで、落とし穴を作りドラゴンを見事その中に誘い込んだというわけだ。


 落とし穴の中を覗き込む。中では、ドラゴンが「グルルルル・・・・・・」とぐったりとなり唸っている。


「やったわね、レイ」

「ああ。それじゃ、早速【解析術】で奴の弱点を発見して・・・・・・」


 俺は【解析術】を発動する。ドラゴンのステータスが視界に展開される。


「名前 マロン

年齢 十才

性別 雌 

種類 猛岩魔竜属火炎竜科アッシュドラゴン」


「え?」

 一瞬わけが分からず、頭が混乱する俺。


「レイ、どうしたの?」

 ミオが尋ねる。


 俺は無言で解析したステータスを、二人の前に展開する。


「ほえ?」

「はひ?」

 間の抜けた声を出す二人。


 しばしの間ののち、

「「「えーー!?」」」

 と三人そろって驚く俺たち。


「これがマロンちゃんなの?」

「うっそー!」

「信じられんな・・・・・・」

 いや、マジでこれはどうなんだ。まさか、こんな凶暴なのがマロンちゃんだなんて。


「どうする、レイ?」

「そうだな・・・・・・【ヒール】そして【太古の雪の眠り】」

 落とし穴に落下した際のマロンちゃんの怪我を【ヒール】で癒やす。そして、【太古の雪の眠り】で眠らせる。


 マロンちゃんは瞬く間に眠りにつく。


 すやすやと眠るその岩のようなゴツゴツとした巨体を眺めながら、俺は言う。

「それじゃ、クエスト完了、てことでいいな」

「うん、そうね」

「生き物って【保管庫】に入れることはできるのか?」

「いや、ちょっと待って・・・・・・【生命のゆりかご】とかないかな」

「えーと・・・・・・あ、あった」

「生き物系は基本的にそれで運送するのよ」

「へえ、そうなんだな」

「それじゃ、帰りましょうか」

「ああ、まったくだな」


 こうしてマロンちゃんを無事に捕獲した俺たちは、帰路に就く。

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