第44話 ミオの事情

「へ~、レイさんこんな遠い距離も【瞬間移動】できるんですね」

 ミオが感心したように言う。


「まあね。レイはちょっと特殊な事情があるからね」

「なんですか、その特殊な事情って」

「ま、それはおいおい話すとして・・・・・・それでは、アルカディア荘の案内を始めます」


 俺とセレスティーヌはミオを引き連れて歩き始める。


「ところで、ミオちゃんはどうしてギルド寮に入ろうと思ったのかな?いや、話したくないのなら、無理にとは言わないけれど」

 セレスティーヌが当然と言えば当然の質問をミオにする。


「いえ、そんな人に話せないようなものじないんですが・・・・・・セレスティーヌさん、レイさん、アーセナル武芸学院ってご存じですか?」

「ご存じもなにも、パルシア魔法学院と並ぶ難関でしょう?」

 セレスティーヌは言う。


「はい、そうです」

「へー、そうなんだ」

「そうよ。分かりやすく解説すると、魔法を極めたければパルシアへ、武術を極めたければアーセナルへ、て感じかな」

「なるほどねえ・・・・・・それで、そのアーセナル学院がどうしたんだ?」

「私、そこの二年生なんです」

「えー、すごいじゃない」

 セレスティーヌはミオを見ながら感嘆する。


「あれ?でもちょっと待って。ミオちゃん、年齢はいくつなの?」

「十五才です」

「「えーーっ!?」」

 二重の意味で、俺たちは心底驚く。


「ちょっと待って。ミオちゃん、同級生だったの?というか、レイからすれば年上・・・・・・?」

「とてもじゃないが、そうは見えないな。どう見ても十才くらい・・・・・・」

 口々にそう言う俺たちを見て、ミオは苦笑する。


「驚かれるのは慣れていますよ。私、童顔だし」

「いや、でもさあ・・・・・・」

「というか、ミオちゃん何月生まれなの?」

 セレスティーヌの問いにミオは答える。


「私より一ヶ月も年上なの?」

「まあ、同級生ってことじゃないですか」

「でもなんかショック・・・・・・絶対に年下だって決め込んでいた・・・・・・」


 肩を落とすセレスティーヌ。俺もその気持ちはよく分かるぞ。


「あれ?でもじゃあ、ミオちゃん、なんでアーセナル武芸学院にいるの?年齢的にはまだ学院じゃなくって学園にいるはずよね」

「あ、飛び級です」

「色々とすごいわね・・・・・・この幼い外見で、武芸学院に飛び級入学とは・・・・・・」


 情報量が多すぎてついていけない、という感じのセレスティーヌ。


「だけれどセレスティーヌだって、パルシア魔法学院に飛び級で入っていただろ」

「えーっ!」

 今度はミオが驚く番だった。


「セレスティーヌさんもすごいじゃないですか!」

「いや、まあなんというかね・・・・・・」

「そういえば、この前のパルシア魔法学院の爆散崩壊事件は、大丈夫だったのですか」

「ええ、まあなんとかね」


 何を隠そう、この俺が犯人だからな。と心の中で密かに呟く俺。


 俺は話の流れを変えようとする。

「でもさ、ミオ。武芸学院にいたってことは、結構武器とか使うの上手いのか?」

「いえいえ、そんな。私なんて大したことないです」

 謙遜するミオ。


「でもさあ、確かアーセナルもパルシアと同様に、全寮制だったわよね?じゃ、どうしてギルドに所属して、寮探しなんかしているの」

「はい、それはですね・・・・・・」

 ミオは話し始めた。


「話は戻りますが、この前パルシア魔法学院が大爆発して崩壊しましたよね?」

 俺たちは頷く。


「あれは、一部の暴走した生徒が無茶苦茶な魔法実験を繰り返した結果とかなんとかの話ですが・・・・・・いずれにせよ、学院の学生寮も綺麗に吹き飛んでしまったとのことでしたよね」


 俺たちは黙ってミオの話に耳を傾ける。


「それで、ここからが本題なんですが・・・・・・当然、魔法学院の学生さんは、住む場所も学ぶ場所も失ったわけですね。そこで、急遽パルシア魔法学院の学生の一部を、アーセナル学院に転校させることが決定したらしいのです」

「でも、魔法学院の生徒が武芸学院に転校して大丈夫なのか?だって、魔法を学んでいる学生が、武術の学校に転校させられてもさ」


 俺は疑問を口にする。


「はい、それはまあなんとか。武芸学院といっても、魔法の授業はそれなりにありますしね。魔法科の教師陣がなんとかしているそうです。でも、そこで煽りを喰らったのが私たちみたいな飛び級組です。武芸学院の生徒数が増えすぎた。このままでは、学生の数を一時的にでも減らすしかない。だが、誰を?そうです、飛び級で入学した人たちを一時的にでも休学させればいいじゃないか。彼ら彼女らは、学院内では場違いなほど若い。一年や二年ほどカリキュラムが遅れても、なんてことはないだろ。というわけで、私は晴れて学院を休学させられ、寮の方も強制退寮という扱いになったのです。そこで、日銭を稼ぐためにギルドに入り、住むところを探していたというわけです」

「ひっどーい!」


 セレスティーヌが怒りをにじませる。俺も静かに頷いて、同意を示す。ていうかこれ全部俺の責任だろ。


「ミオちゃん、是非ここに住みなさい。私とレイは大丈夫だし、もう一人の住人のソフィアもきっとオーケーしてくれるはず。いや、ていうか反対しても、意地でも許可させるわ。だからミオちゃん、安心して」

「は、はい」

 セレスティーヌに堅く両手を握られたミオはそう答える。


「ほんと、ごめんなさいね~。私たちのせいで、ミオちゃんをそんな辛い目に遭わせて・・・・・・」

「は、はい・・・・・・私たちのせい・・・・・・?」

「ただいまー。あれー、なになにお客さん?」

 絶妙なタイミングでソフィアが帰ってきた。


「そうよ。ちょっと事情があって、アルカディア荘に住みたいのだけれど、いいわよね、ソフィア」

「え、そうなの?新規入居者は大歓迎よー」

「ソフィア、俺たちのときみたいに、なんか入寮で試練を課したりしないのか?」

「んー、そうねえ。今は食材足りているし・・・・・・じゃ、今から夕飯の仕度するから手伝ってくれないかな?」

「あ、はい」

 ミオは言う。


 俺たちのときとは大層な違いだが、まあよかろう。夕飯時に、色々と話してみようかな。


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