第41話 決着

「おい、お前ら」

 俺は精一杯の威厳を出して声を出す。


 未だに身動きがとれないアスラの前に、俺は手にした袋を無造作に投げ出す。


 地面に転がった袋から、金貨がこぼれ落ちる。


「先ほど話し合った結果、我々の特別の慈悲深い決断により、頂いたこの金貨は、貴様らに贈与することとなった。ありがたく思え」

「なん・・・・・・だと?」

 アスラもオーウェンも、意味が分からないといった表情だ。


「聞こえなかったか?一旦は手にいれたこの金貨は、貴様らへと進呈するのだ。この金を使い、足を洗うなりギャンブルに蕩尽するなり好きにしろ」

 目を丸くするアスラとオーウェン。背後から“真紅”=セレスティーヌも言う。


「安心しろ。あそこで伸びているお前たちの仲間――スタンとディールだったか?――も無事だ。少々けがをしていたが、【ヒール】で回復させておいた。ほどなく目を覚ますだろう。ありがたく思え」

 アスラとオーウェンは、信じられないといった風。


「なぜだ・・・・・・なぜ、こんなことをするんだ?」

「さあな。我々が討議した結果、そうなったのだ。分かったら、とっととその金を持って消え失せろ」

「ですが、これでは横領になってしまいます・・・・・・」

 オーウェンは不安げだ。だが俺はにべもなく返す。


「なんだ、そんなことか。【黒神竜の息吹】」


 魔聖大剣ディアボロスを一振りして、魔法を発動する俺。次の瞬間、壊れた馬車は漆黒の爆炎を盛大に噴き上げる。馬車は跡形もなく黒い炎と煙に呑み込まれ、その形を崩す。


 もうもうと燃え盛る黒い炎を前に、アスラとオーウェンは呆気にとられる。


「ほら、ここまで徹底的に破壊しておけば、お前らは皆、賊にでも襲われて全滅したと、ギルド側にも依頼者側にも思われるだろう。あとは、隣国にでも逃げておけばよい」


 俺はアスラたちに背を向ける。


「 “真紅”に“群青”、帰るぞ」

 俺は両サイドのセレスティーヌとソフィアに声をかける。


 そして俺たちは帰還する。 



 アルカディア荘に着いた俺たちは、ダイニングで古びたテーブルを囲む。

「ソフィア、本当にあれで良かったの?」

 セレスティーヌが訊く。


「うん、もう大丈夫だよ。気がすっきりしたっていうか・・・・・・わたしを追い出したパーティにも、それなりの事情があったっていうのは充分に分かったし・・・・・・」 

「あんたも随分お人好しねえ」

 セレスティーヌが感心とも呆れともつかない声音で答える。


「いいのいいの。それに、二十万リルドはしっかりと取り返したしね」

 ソフィアは両手を開く。そこには、一万リルド金貨がかっきり二十枚、のっていた。


「たくさんあったんだからさ、もっと取っておけばよかったのに」

「んー、ま、いいじゃん」

「欲がないのねえ」

 二人のそんなやりとりを眺めていたら、俺の心の中が安堵の念で満たされた。


 まあ、結果オーライということでよかろう。セレスティーヌのときと違って、壮絶な戦いを繰り広げることもなかったし。


「二十万リルド、なんに使おうかな~」

「ソフィア、というか私にも山分けしなさいよ。私たちだって協力してあげたでしょ」

「えー、これはわたしのものだよー」


 なにはともあれ、ソフィアの抱える問題も解決した。そのうち俺たちのクエストにも参加してくれることだろう。


 

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