第40話 フォックスドロンの後悔

 俺たち三人を目にしたアスラは、反応予想外の反応をした。


「貴様ら、誰から頼まれた?」 

「ん?いや、誰からの依頼でもないが。我々はただのしがない盗賊団に過ぎないのでね」

 だが、アスラは俺の言葉を一笑に付する。


「は、余程いいたくないようだな。そんな最上級魔法を使っている人間が、ただの盗賊だと?誤魔化すのも大概にしろ」

 アスラは自嘲気味に言う。


「どうせ、俺たちの依頼主の政治家の、ライバル議員からの差し金とかだろう。どうせ今回のブツだって、何かの汚い金なんだろうしな。ふん、俺のことならどうなっても構わない。煮るなり焼くなり好きにしろ。だが、最初に一つだけいっておくぞ。いくら拷問したって、俺たちは何も知らないから、お前たちの望む情報を得ることは出来ないぞ」

 どうも話がかみ合わないな。アスラは一体何の話をしているんだ?


「ゴホッ、ゴホッ・・・・・・アスラさん、もうやめましょう。おとなしくこの人たちに、ブツを渡しましょうよ」


 背後から声がしたので、俺たちは振り向く。見るとそこには、眼鏡をかけた青年が足を引きずりながらのろのろとこちらにやってきた。先ほどの攻撃の余波を喰らった御者の青年だ。


「馬鹿野郎、なにいいやがるオーウェン・・・・・・これが俺たちの生きる道だろうが」


 オーウェンと呼ばれた青年は、言葉を紡ぐ。


「いい加減、もう虚勢を張るのはやめましょうよ・・・・・・認めましょうよ、ソフィアを追放したのは間違いだったって・・・・・・」


 突然ソフィアの名前が出てきたので、俺は少々驚き、ソフィアの方を見る。だが、不格好な仮面を被った彼女の様子に、目立った変化は見られなかった。


 アスラは続ける。


「ふん、あんな奴がなんだ。もういなくなった奴のことなんか考えるんじゃねえ」

「だけれど、結局ソフィアがいたときが、俺たちのパーティが一番まともだったでしょう?そのことは、アスラさんが一番分かっているばす・・・・・・」 

「うるさい!」

 怒りというより、どこか悲痛さを漂わせた声音でアスラは一喝する。


「オーウェン、もう過ぎたことだ。ソフィアが今頃どうしているかなんて、知るよしもない」

 今、お前の目の前にいるけれどな。


「そもそも、俺たちなんて所詮そんなものだったのさ・・・・・・汚れ仕事がお似合いの、どうしようもないパーティさ」

「でも、未成年のソフィアをメンバーに入れていた期間は、その手の汚れ仕事はしなかった、そうでしょう?」

 オーウェンの言葉を受けて、アスラは静かに頷く。 


「ああ、そうだとも。流石にあんな年端もいかない少女に危ないことをさせるのは、忍びなかったからな。だが、おかげで俺たちのパーティの稼ぎは著しく落ちた」

「雑用ばかり押しつけていたのも、その腹いせだった?」

「まあ、そうだ」

「でもですね、アスラさん。結局あのときが、俺たちがまともなパーティになれる最後のチャンスだったんじゃないんですか?ソフィアを追放した後、俺たちはまたもとに戻りました・・・・・・」 

「くどいぞ、オーウェン」

 アスラはギロリとオーウェンをにらむ。


「・・・・・・二人とも、そのくらいにしておいてもらえないかな」

 俺は強引に二人の話に割って入る。


「ああ、そうだったな。正直、お前らがどこの誰なのか興味はない。そこの馬車の中からとっととブツを持っていきな」

 諦めたように肩を落とすアスラ。


 俺たちは馬車の中を覗く。


 鋼鉄でできた頑丈な箱がひとつ、転がっていた。


「【解錠】」

 どんな鍵でも開けられるという神級魔法で箱を難なく開ける。


 無数の一万リルド金貨が袋の中に収められていた。


 俺の後ろから、セレスティーヌとソフィアも覗く。


「 “真紅”と“群青”よ、これどうする?」

「おお・・・・・・」

 目映いばかりに光り輝く金貨の山。 


 “真紅”=セレスティーヌは言う。


「さっきの話を聞いているとさ・・・・・・いうほど悪い人じゃないかなー、て気がするのよ。いや、 “群青”の気持ちを優先するけれど・・・・・・」


 “群青”=ソフィアは腕を組んでしばし考え込む。


「そうね・・・・・・あいつらのした仕打ちを許す気はさらさらないけれど・・・・・・」

 彼女は袋に手を伸ばす。

 

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