第37話 会議と偵察
バーベキューの後片付けをして、俺たち三人はキッチンのテーブルを囲む。
ソフィアが温かいお茶を入れてくれた。
セレスティーヌが真っ先に切り出す。
「で、ソフィアのパーティを懲らしめるとかいうのはどういうことかしら?」
興味津々といった様子でソフィアも俺を
見てくる。
「いや、大したことじゃないんだけれどさ。まず第一に確認しておくが、もうソフィアはかつてのパーティを必要以上に恐れなくてもいいってことだ」
「えーと、どういうことかな?」
ソフィアはよく理解出来ないご様子。
「つまりさ、なぜ恐れるのか、ていうとそれはすなわち奴らがこちらより強いからだろ。だけれど考えてみろ、ソフィアの今のパーティにはもうすでに超強力、というか最強の仲間がいるだろ?」
俺はこれ見よがしに自分を指さす。うん、やっていて結構恥ずかしいな。
「なるほど。レイの力を使え、てことね」
セレスティーヌが首肯しながら言う。
「えー、でもいいの?レイくんやセレスティーヌに協力させてさ。だってわたし個人の問題だよ」
「いいってことよ。仲間なんだからな」
俺は格好つけて、ソフィアの肩に手を置く。セレスティーヌもそれに習い、もう片方の側の肩に手を置く。
俺とセレスティーヌを交互に見て、ソフィアは顔をくしゃくしゃにさせる。
「ううっ・・・・・・二人ともありがとう・・・・・・!こんなわたしのために力を貸してくれるなんて」
「何言ってんのソフィア。もう私たち、仲間でしょ」
ソフィアは何も言わずに肩を震わせる。
「それで。気が早いようだが具体策を考えようぜ。まず始めに、ソフィアは結局どれくらいの金額を弁償させられたんだ?」
「えーと・・・・・・二十万リルドだったかな」
「ひどい・・・・・・そんな大金を一人に背負わせるなんて」
「ということは、一人あたり二十万リルドくらいに値する復讐をするかな」
「そうねえ。どんなのがいいかしら・・・・・・」
俺たちは話を進める。
それから数日が経った。
俺とセレスティーヌは、相変わらず二人でクエスト活動にいそしんでいる。
本来だったらソフィアも参加して三人でクエストをこなすはずなのだが、正直ソフィアはしばらくギルドのクエスト活動には参加したくないらしい。
パーティに裏切られたことがまだ尾を引いていて、頭では俺たちのことを信用していても、どうしてもまた裏切られるかもしれないという気持ちが離れないのだろう。
俺もセレスティーヌも、そんなソフィアの気持ちを受け止め、クエスト参加を無理強いすることはなかった。
「ソフィア、気が向いたらいつでも気軽に加わっていいからね。私たちは同じ“グレートパーティ”の仲間なんだから」
セレスティーヌのその暖かい言葉に、ソフィアは黙って頷いた。
その代わり、ソフィアはこのアルカディア荘という拠点を軸にして、全力で俺たちをサポートしてくれると約束してくれた。
つまり、アルカディア荘内の家事(主に料理)をすべて担当する、ということだった。
俺たちがいつ帰ってきてもくつろげるように、アルカディア荘を居心地の良い空間にしてみせるとソフィアは言った。
セレスティーヌも俺も、それはそれで不服は無かった。確かに、ソフィアとクエスト活動が出来ればそれはそれで楽しいだろう。だが、アルカディア荘に帰れば毎日あの美味い手料理が食べられるのかと考えれば、それはそれで贅沢な気がする。
クエストが終わった。【瞬間移動】ですぐにギルドには帰らず、俺たちはちょっとだけ寄り道をする。
場所はゲンデート王国とリーティア王国の国境沿い。
目標地点である小高い丘に、俺たちは到着する。
時刻は夕方。夕陽が大地を照らしていた。
「それで、本当にいるのかしら?」
セレスティーヌは広がる大地を見渡しながら言う。
「ああ。【千里眼・無限】で探した結果、今はこの辺りを通っているはずだ」
俺はしばらく【千里眼・中】を発動させっぱなしで辺りを見回す。
「あ、いたぞ!」
丘から見下ろせる位置に伸びている、舗装された道路を俺は指し示す。
示した先には、一台の馬車が猛烈なスピードで走っていた。
「あの速さ、馬を魔力で強化しているわね」
セレスティーヌはその馬車を見ながら、こともなげに言う。
「そうなのか?」
「ええ。【解析術】を使えばより詳しく分かるのでしょうけれど、結構魔力を消耗しているはずよ」
「へえ。でもどうしてまたそんなことを?」
「恐らくだけれど、野盗を警戒しているんでしょうね。あのスピードならちょっとやそっとの山賊は手出しが出来ないだろうから」
「ちょっとやそっとは、ね」
俺は改めて驀進する馬車を見る。馬車の上部には、護衛と思しきボウガン使いと魔法使いがそれぞれ一名ずつ。
「で、どうするの?まさか今すぐ襲うとかじゃないでしょうね?」
「ああ、もちろんだ。俺もそこまで浅はかじゃない。今日はただの偵察だ」
「そうよね。で、これくらいでいいのかしら?」
「ああ、それじゃ帰るか」
俺たちは【瞬間移動】でその場を離れ、ギルドへと戻る。
俺たちが偵察した馬車は、パーティ「フォックスドロン」が荷物の護送任務として現在使っているものだ。
「フォックスドロン」、それは他ならぬソフィアを不当に追放したパーティに他ならない。
俺が考えた復讐は、実にシンプルなものだ。 目には目を、歯には歯を、運送任務の恨みは運送任務で。
ま、簡単な話が奴らが運送任務をこなしている最中に、それを妨害してやろうという話だ。
夜の闇に乗じて、俺たちが奴らを襲撃する。それから、奴らの運送物を奪うか、あるいはソフィアが払わされた二十万リルドという金額を、奴ら一人一人に払わせる。
とまあ、計画の大枠はこんな感じ。
ただ、パーティメンバーを誰も傷つけてはいけないとソフィアから釘を刺されているので、そこには気をつけないといけない。
ま、なんにせよあと数日はある。その間に、じっくり作戦を練るとしよう。
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