第36話 ソフィアの事情

「ふう、終わった終わった」

 空き部屋にたまっていたガラクタ類を【瞬間移動】ですべてゴミ捨て場へと運び終わった俺は、庭の方へと行く。


 庭にいたソフィアに声をかける。


「ソフィア、無事片付いたぞ」

「え、本当?ありがとう~」

 ソフィアは感謝の念を示す。


「ところで、さっきからセレスティーヌと二人、庭で何をしているんだ?」

「ああ、これはね・・・・・・」


 ソフィアは手にした黒い金属の物体を俺に見せる。


「歓迎会パート2の準備、てところかな」

 それから金属製の物体をどしん、と庭に真ん中に置く。


「ま、早い話が夕ご飯はバーベキューでもしようか、てことよ」

「おお、バーベキューか」

 ということは、今置いたこれは、そのセットか。


「お待たせ~結構人が多くて大変だったよ」


 背後からセレスティーヌの声がするので、振り向くと彼女は両手にいっぱいの荷物を抱えていた。


「なにしてんだ?」

「買い出しをソフィアに頼まれちゃってさ。やっぱレイに手伝って貰えばよかったかな~。それだったら【瞬間移動】でひとっ飛びだしね」

「別にいいっていったのはセレスティーヌでしょ」

 ソフィアは言う。


「うん。まあ、たまには空を飛びながら移動する、てのもいいもんだけれどね」

「空を飛んで買いものにいったのか?」

「そういうこと。これでも私、結構得意なんだからね、飛行魔法は。魔法なんでも使い放題のレイには分かんないかもだけれど・・・・・・あ、これここに置いておくね」

 庭の中央に設置された木製のテーブルに、買いもの袋をどさりと置くセレスティーヌ。


「それで、掃除の方は終わったの?」

「ええ、おかげさまでね。レイくんのおかげよ」

「なんの、これくらいお安い御用よ」


 とかまあなんとかで、俺たちはバーベキューの準備を始める。


 それから二十分ほどして、バーベキューの準備は完了した。


「じゃ、レイくん火をつけてもらっていいかな」

「あ、りょーかい。マッチか何かありますか」

 素で尋ねた俺を見て、セレスティーヌは呆れた様に苦笑する。


「あんた、マッチって・・・・・・その底抜けの魔法の能力は何のためにあるわけ?」

「あ、そうだな・・・・・・」

 ということで、俺は【火炎・極小】を発動させる。


 手の先から小さな火柱が放たれ、バーベキューコンロを明るくする。


 俺たちは食材をその上に置いて、焼く。


 こうして夕餉は始まった。


「もしかして俺が寝ている間、二人ともずっとこの準備していたわけ?だったら何だか申し訳ないな」

「うーん、そういうわけでもないかな」

 セレスティーヌは曖昧な返事をよこす。


「そうね」

「じゃ、なにしてたんだ?」

「うーん、レクリエーションみたいなもの?かな。ま、それは秘密ってことで」

 なんだよ。ちょっと気になるじゃんかよ。ま、そこまで言うなら詮索しないけれど。


 他愛もない会話をしながら、俺たちは箸を進める。素材がいいのか、肉も野菜もやたらとおいしかった。


 しばらくしてから、セレスティーヌがふと思い出したように言った。


「あのさ。ちょっと考えたんだけれど、ソフィアは大丈夫なわけ」

「大丈夫って、何が?」

 首をかしげるソフィア。


「ソフィアを追放したパーティのことだよ。そんなひどいことされて、黙っていられるわけ?」

「うーん・・・・・・でも、どうしようもないんじゃない?あいつらだって、そこそこギルド内では上のランクにいるメンバーだしさ。下手に敵対したら、こっちの立場が悪くなるっていうか・・・・・・」

 肩を落とすソフィア。


「でもさ、悪いことばっかりってわけでもなかったしね。パシリ生活のおかげで、料理は上達したし、いい面もあったんだよ」


 ソフィアは弱々しく笑い、たどたどしく言葉をつないでいく。


 その表情からは、理不尽さに対する諦念がにじみ出ていた。


「だとしても、やっぱりおかしいよ。ソフィアとは同い年だから、余計思うよ。なんで、年齢が下だからって、そんな目に遭わないといけないわけ?ソフィアだって必死に頑張ってきたわけじゃん?剣術だって、きっと人知れず鍛錬してきて腕を上げてきたんだよね?なのに、それも認められず、多額のお金を請求された末に追放だなんて、あんまりじゃん・・・・・・」

 セレスティーヌの口調が熱を帯びてきた。


 ああ、そうだろうな。セレスティーヌこそ、今まで若すぎるという理由で、理不尽な目に遭い、ずっと苦しめられてきたんだ。だから、ソフィアの話を聞いていて、他人事だとは思えないのだろうな。


「ねえ、レイもそう思うでしょ?」

 セレスティーヌは俺に賛意を求めてくる。無言で頷く俺。


「そうだよ、レイもそう言っている。だからさ、私考えたんだけれど・・・・・・そのパーティに復讐しない?」

「え?」

 ソフィアは理解に苦しむという風に首を振る。


「セレスティーヌ、それはあんまりよ。確かに、わたしは散々な目に遭った。でも、だからといってあのパーティメンバーに復讐なんてしても、どうしようもないでしょ。別に、命を奪われたわけでも、何か肉体的に傷つけられたわけでもない。精神的にはちょっと傷付いたけれど・・・・・・」

「むう・・・・・・ソフィアってホント人格者だよね」


 セレスティーヌは涙目でソフィアを見る。それはソフィアの心の広さに感動した涙なのか、はたまた単なる悔し涙なのか。


 そんな二人の間に、俺は割って入る。


「まあまあ、お二人とも・・・・・・確かに、パーティに復讐する、てのはちとやり過ぎかもしれない。だがさ、実際ソフィアは金銭的にも被害を被っているわけだしさ。ちょっとそいつらを懲らしめるくらいなら、罰は当たらないんじゃないか、て俺は思うのだが、どうだろうか?」

「というと?」

 セレスティーヌもソフィアも疑問に満ちた視線を俺に向けてくる。


「ま、とりあえず食事が終わってから、具体的なことは考えようぜ。ほら、肉も野菜も焦げちゃうぞ」


 俺はそう言うと、ジュウジュウと焼けている肉に箸を伸ばす。

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