第34話 歓迎会

 ソフィアさんはテーブルの上に並べられた食材を台所へと持っていく。

「さて、それじゃ早速料理しますか。あなたたちのアルカディア荘入居の歓迎パーティってことで、持ってきてくれた食材はありがたく使わせていただくわ」

 ソフィアさんは、慣れた手つきで包丁を扱い、魚をさばき始めた。

 

 あっという間に、俺たちが運んできた食材は、美味そうな料理へと変身してテーブルの上に並べられた。


「では、セレスティーヌとレイくんの入居を祝って」

 ソフィアさんは俺たちの分までしっかり盛り付けをしてくれる。


「それでは、いただきます」

 こうして三人での食事が始まった。


 恐る恐る、爆裂キノコのソテーに手を伸ばす俺。あの凶暴な爆発性のキノコ、どんな過激な味がするのやら・・・・・・しばし躊躇したのち、えいやっと口に放り込む。


 もぐもぐと咀嚼する・・・・・・あれ、普通に美味いぞ。


「うまい・・・・・・!」

 思わず唸ってしまう。採取前の姿とのギャップからか、余計に美味しく感じてしまう。


 セレスティーヌも白銀涼魚ドノスの刺身を一口食べて、感心したように言う。 

「これ・・・・・・ほんとおいしいですね」


 ソフィアさんは、そんな俺たちの姿を満足げに眺めていた。

「ふふ、どう?わたし、料理には自信があるのよ」

「その自信に違わぬ腕ですな・・・・・・」

 ゆっくりと料理を味わいながら返す俺。


 俺、セレスティーヌ、ソフィアの三人はこれまでのことを話題にして、食事を進める。


「へえ~、セレスティーヌってパルシア魔法学院にいたんだ。あそこ、結構入るの難しいでしょ?」

「まあね」

「そういえば、この間巨大な爆発事件があそこであったでしょ。大丈夫だったの?」

「ああ、あれね・・・・・・」


 俺とセレスティーヌは包み隠さず、ことの顛末を語る。

 話を聞いたソフィアは目を丸くして驚く。


「うーん・・・・・・なんか色々とごちゃごちゃしているけれど・・・・・・とにかく二人が無事で良かった、かな」

 ソフィアは安堵したように言う。


「それでさ、ソフィアの方はどういう経緯でここに住むようになったの」

「ああ、それはね・・・・・・」

 ソフィアは自分の生い立ちを語り始めた。



 ソフィアはセレスティーヌより二ヶ月ばかり年下、つまりほぼ同級生とのことだった。つまり俺より少しばかり年上ということらしい。まあ、俺たち三人とも同学年ということで良いだろう。


 ソフィアはリーティア王国の隣の小国、ルドルフ国の出身だ。


 ソフィアが地属性魔法剣士だというのは、アリエスさんに聞いた通り。


 地属性魔法剣士になったきっかけは、ルドルフ国で行われた武神コンテストだった。


 武神コンテスト、というのは魔法から武術、知力まで様々な能力を競い合うイベントのようなものらしい。


 それで、その武神コンテストにソフィアはなんとなく参加した。それで、なぜか地属性の魔法だけが突出して成績が良かったらしい。ちなみにそれ以外に光属性魔法が平均を超えるほどだったが、他の魔法は軒並み駄目だったとのこと。


 また、ソフィアはそのコンテストの剣術部門にも出場したが、そこでは親友に惜しくも敗れた。そのことが悔しくて、剣の練習をしていくうちに、剣士になっていた。得意魔法の地属性も兼ねた、地属性魔法剣士の誕生というわけだ。


 そういうわけで、齢十三才ほどでギルドに加入、パーティを組んだとのことだったが、ここで問題が発生した。ソフィアの年齢が若すぎたのだ。


 パーティの平均年齢は二十台前半くらい。パーティ内に明確な年功序列があるわけではないが、それでもソフィアはちと若すぎた。


 そうはいっても、能力はある彼女をパーティから無下に追放することも出来ない。ソフィアの扱いは結局パーティ内のパシリのごときものとなり、料理や洗濯といった雑用を押しつけられてばかりいたという。


 ソフィアは必死でそれらの雑用を毎日頑張った。料理自体は元々好きだったので、苦にはならなかった。ソフィアとて自分が場違いなほど若いことは重々承知していたので、パーティ内の雑用は断らずにこなしていた。いつか、自分ももう少し大人になれば、メンバーたちも認めてくれるだろう、そう信じながら。


 だが、現実は残酷だった。


 ある日のこと、パーティは失態を犯した。運送クエスト中、山賊に襲われて撃退した際、運送物を壊してしまった。


 当然、弁償することになった。通常、ギルドの規定ではこういう場合、連帯責任として、パーティメンバー全員で弁償することになる。しかし、あろうことかパーティメンバーはソフィアにその責任をすべて押しつけた。さらには、厄介払いとばかりにソフィアをパーティから追放した。


 追放されたソフィアは紆余曲折の末、ここアルカディア荘にたどり着いた。仲間は誰もいない状態では、大した稼ぎもない。この格安家賃のギルド寮はソフィアにとって渡りに船だった。


 実はソフィアが入居した時点で、アルカディア荘取り壊しが決まっていたのだそうだが、何かの手違いでギルドが紹介してしまったという。そのため、住人は当然ソフィア一人だけだった。


 ギルドからは退去勧告が通達されたのだが、ソフィアからしてみれば家賃がタダ同然のここから動きたくはない。そもそも、他のギルド寮はここと比べればどこもやたら家賃が高く、動こうにも動けない。


 そういうことで、ソフィアとギルド側の話し合いは、双方一歩も退かずに膠着状態のまま一年近くが経ち、今のままに至るという。


「だから嬉しいんだよね、わたし・・・・・・こうしてアルカディア荘に住人が来てくれたのがさ」

 こどもの様にワクワクとした表情のソフィア。


「正直なところ、そろそろギルドから強制退去させられるかなー、て思っていたんだよね。こっちの言い分が筋が通っていないことも、自覚していたしね。でも、まさかのまさか、ギルドから新しい住人を紹介してくれるとはね・・・・・・それもこれも、あのパルシア魔法学院爆破事件のおかげね・・・・・・あ、その犯人ってあなたたちだったわね」 

 たはは、と笑うソフィア。


 少しだけ訂正する俺。

「いや、ソフィアさんそれは違います。正しくは、犯人は俺一人です。セレスティーヌはただ寝ていただけですので」

「より正確に言うなら、私は眠らされていたんだけれどね」

 隣のセレスティーヌがさらなる修正をしてくる。


「なんにせよ、わたしはあなたたちを歓迎するわ。食事が終わったら早速お部屋に案内するけれどいい?」

「もちろんよ」

 セレスティーヌも俺も賛同する。


 こうしてささやかな歓迎会はつつがなく行われる。

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