第33話 アルカディア荘入居

 アルカディア荘に到着。辺りはすでに早朝だった。


 ソフィアさんは、すでに起きていて、外で洗濯物を干していた。 

「ソフィアさーん、ただいま帰りました」

 俺は声をあげて、報告する。


 ソフィアさんも俺たちに気付いたみたいで、手を振ってくる。

「お、お二人さん。思ったより早かったね~」


 のんびりとした口調のソフィアさん。

「それで、わたしの頼んだものはちゃんと入手できたかしら?」

「もちろんよ」


 セレスティーヌは堂々と言う。それを受けてソフィアさんは、

「それじゃ、キッチンまで来てくれるかな?ちゃんと頼まれた食材を持ってきてくれているか、チェックするね」



「おー、すご~い」

 アルカディア荘の共同キッチンの大きなテーブルの上に並べられた爆裂キノコ、白銀涼魚ドノス、果実「星空のしずく」を見て、ソフィアさんは目を丸くする。


「いや、わたしもちょっと無理難題過ぎたかな~なんて思ったんだけれどね。いや、まさかこうも短時間できちんと採集してくるとはね。うん、見直した」

 ソフィアさんは頷く。


「うん、いいでしょう。あなたたちのアルカディア荘の入居を許可しましょう」

「「やったー!」」

 セレスティーヌと俺は、手を取りあい喜ぶ。


 そんな俺たちの様子を見ながら、ソフィアさんは言う。


「ま、どうせ部屋は空いているしね。正直わたしも、ここで一人で生活するのには飽きていたところだったし、丁度いいや。よろしくね、セレスティーヌさん、レイさん」

「こちらこそ、よろしくです」

 俺たちは挨拶を交わす。


 ソフィアさんは食材たちに顔を近づけて続ける。

「それにしても、どれもすごく新鮮な状態だね。いや~、この白銀涼魚ドノスなんて、いま釣ったばかりみたいだよ。中々どうして、ここまで新鮮なのは持ってこれないもんだよ」

「そうですかね?【保管庫】に入れておけば、なんてことないですが」

「へ?」

 ソフィアさんが、気の抜けたような声を出す。


「君、【保管庫】使えるの?」

「あ、はい、まあ・・・・・・」

 ソフィアさんがまじまじと俺の顔を見つめてくる。俺、なにか変なこと言ったかなあ・・・・・・。


「すご~い。【保管庫】なんて、プロの運送屋さんとかが使う魔法でしょ?それを普通に使いこなしているなんて、ただ者じゃないわねえ。もしかして、運送業に就きたいとか思った感じ?それで、猛勉強して【保管庫】を習得したとか?尊敬する~」

 突然、俺をベタ褒めし始めるソフィアさん。その賛辞を聞いていて、いたたまれなくなり顔をそらす俺。


 俺はセレスティーヌに顔を近づけて、こそこそと小声で会話をする。

「なあ、セレスティーヌ・・・・・・」

「ん、どうしたの?」

「なんか、いたたまれないな。自分の努力でもないのにここまで褒められると」

「んー、まあいいんじゃない?実際【保管庫】なんてあんまり使える人はいないしさ」

「だけれど、ここまで言われるとね・・・・・・ちょっと考えたんだが、ソフィアさんには俺の生い立ちについて話しておいてもいいんじゃないかな?」

「うーん、どうだろ?」

「なんとなくだけれど、ソフィアさんとは長い付き合いになる気がするんだ」

「レイがそう思うなら、好きにすればいいんじゃない?」

「おーし、分かった・・・・・・」


「二人でなんの内緒話をしているの?」とでも言いそうな風に首をかしげているソフィアさんに、俺は向き合う。

「ソフィアさん、実はですね、俺が【保管庫】を使えるのは・・・・・・」

 俺はこれまでの経緯を、出来るだけ手短に話す。


 話を聞き終わったソフィアさんは、不思議そうな表情で俺を見てくる。

「なるほどね~。異世界転生ね」

「なんか、すんません。ズルして【保管庫】の能力手に入れたみたいで・・・・・・」

「いや、別にそんなこと構わないわよ。そうねえ・・・・・・」

 ソフィアさんは気にする風でもない。


「あ、そうだ。レイくんとセレスティーヌってさ、ひょっとしたら今パーティとか組んでいる?」

「ん?はい、組んでいますけれど」

「良かったらさ、わたしもそのパーティに入れてくれない?」

「え?」

「いやいや、もちろん疑問に思うのは当然だと思うよ。会ったばかりの人間に、いきなりパーティ入れろなんて言われても、変に思われても仕方ないよね」

「いや、そこまでは思いませんが・・・・・・」


 ソフィアさんは続ける。 

「でもさ、折角レイくんがそんなすごい魔法能力を手にしているなら、わたしもそのおこぼれに与りたいな、て思ったんだけれど・・・・・・駄目かしら?自分で言うのもなんだけれど、わたし料理結構上手いからさ。アルカディア荘に住んでいる間は、食事の世話は基本的に面倒みるよ。それがパーティ加入条件でどうかな?」

「うーん・・・・・・俺はそれでいいけれど。セレスティーヌはどうだ?」

 横のセレスティーヌを見る。

「いいと思うわよ。私もパーティメンバーはもちょっと欲しいなあ、て思っていたし」


 一も二もなく賛同された。

「じゃ、そういうことでソフィアさん、三人目のパーティメンバーとして加入を認めます」

「やった~。それじゃこれからもよろしくね、セレスティーヌ、レイくん」

「こちらこそです」

 俺たち三人は握手を交わす。


「ところで、パーティ名はなんていうの?」

 ソフィアさんが質問をしてくる。


「グレートパーティ、です」

 俺は答える。


「グレート・・・・・・うん、いいんじゃない?ビッグになろう、て感じでさ」


 そういうことで、俺たちのアルカディア荘入居とソフィアさんのグレートパーティ加入が決まった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る