第19話 購入
そういうわけで、俺は念願の五十万リルドをギルドの受付にて受け取る。
「ほい。依頼主も住民もみんなきっと喜んでいるだろうね」
受付のディオーネさんは、一万リルド金貨五十枚が入った袋を手渡しながら言う。
「ところで依頼主って誰だったんですか?」
俺はふと気になったことを訊く。
「ん?確か、ラスキル村の村長さんだったけれど・・・・・・あ、ごめん。用紙に依頼主の情報書くの忘れていたみたいね」
軽く頭を下げるディオーネさん。
「いえ、別に構いませんよ。こうして無事、報酬もいただいたことですし」
「そだね。君、見ない顔だけれどひょっとして新入り?」
「あ、はい。数日前からギルドのクエストをこなしています」
「へ~。まだ数日なのに、もうそんなに稼いでいるんだね。偉い偉い」
「あの・・・・・・まだ新人の俺がどうしてそんな大金のかかっているクエストをこなしているんだ、とか思わないんですか?」
「え?そんなの別に珍しいことじゃないよ。結構、熟練のハンターとか傭兵とかが、登録してくることもあるしさ。そういう人たちは、登録したての新人でもいきなり高難易度のクエストをこなしていくよ。君もどんな事情があるのかは知らないけれど、大方そんな感じなんだろ?」
「あ、はい」
俺は曖昧に返事をする。
ディオーネさんが手を差し伸べて握手を求めてきたので、俺もそれに応ずる。
「あらためまして、よろしく。さっきも言ったけれど、うちはディオーネっていう名前です。夜が活動的になるヴィクス族なので、基本的に夕方から明け方あたりの受付をしています」
「こちらこそ、よろしくです。レイって言います。昼に活動するから、あまり絡みはないかもですけれど、なんかあったときはよろしくお願いします」
こうして俺はディオーネさんと挨拶を交わした後、クエスト室を出る。
さて、と。急がないとな。俺は次の目的地へと向かう。
数分後、俺はその目的地――スラック商店へとたどり着いていた。
「お目当ての商品は・・・・・・あ、あった!」
売れていなくて良かった。俺は安堵の息を吐く。
俺の視線の先には目当ての品「ザルノスのローブ&杖セット」があった。
「これ、ひとつください」
スラック商店の店主は、俺の言葉を聞くと「ザルノスのローブ&杖セット」を手に取り、言う。
「坊主、これでいいんだな?」
「はい」
スラック商店の店主は頷く。
スラック商店の店主は、灰色狼の頭をした獣人族だった。鋭い目つき、頬にある傷跡から昔は戦士か何かの職業だったのではないかと推測された。
「金はあるんだろうな?」
「あ、はいここに」
俺は先ほど受け取った金貨の入った袋を差し出す。
狼頭の店主は、袋から金貨の束を取り出して確認する。
「よし、一万リルド金貨五十枚。確かに受け取った。ほら、これが品物だ」
店主は「ザルノスのローブ&杖セット」を俺に渡してくれる。
「ザルノスのローブ&杖セット」は、思ったよりずっと重く、手にしたらずっしりとした感触があった。やっと手に入った・・・・・・!俺の心は感慨深い思いでいっぱいになった。
俺は店主に頭を下げて礼を言う。
「ありがとうございます。これ、大切な仲間が欲しがっていたもので・・・・・・だから、どうしても手に入れたくて、頑張ってクエストこなしていたんです。あ、俺はレイっていいます。まだ新人なので、どうかこれからもよろしくお願いします」
そうやって挨拶を終えた俺は、顔を上げて店主の方を見る。店主は唐突に口を開く。
「ガゼル」
「え?」
突然放たれた謎の言葉に、首をかしげる俺。
「ガゼル。俺の名だ」
成る程。そういうことか。
「分かりました」
「こちらこそ。装備品探しの際は、是非うちをごひいきに」
そうして、俺はスラック商店を後にする。
ぶっきらぼうだけれど、いい人そうだな。それが俺の、ガゼル店主に対する第一印象だった。
「おっと、いけないいけない。誰かから盗られでもしたら大変だもんな」
手にした「ザルノスのローブ&杖セット」を見て、俺は【保管庫】を発動させる。瞬く間に「ザルノスのローブ&杖セット」は、【保管庫】へと収納される。
これでセレスティーヌへのプレゼントは準備万端。後はこれをこっそりと枕元に置くだけだ。
俺は【瞬間移動】を発動させて、キャンプへと向かう。
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