第18話 夜のソロクエスト

 驚くべきことに、クエスト室は昼間と少しも変わらない活況を呈していた。多種多様な種族が、忙しなく動き回っている。


 俺は掲示板へと向かい、クエストを探す。確か、昼に見たのはこの辺りにあったような・・・・・・。


 あったあった。報酬五十万リルドのクエストだ。


「魔毒竜ゴルドリア討伐

国境沿いの街ラスキルの近辺に最近、魔毒竜ゴルドリアが出現しています。このままだと住民の身が危険なので、どなたか一刻も早い討伐をお願いします

報酬 五十万リルド」


 俺はクエスト用紙を早速受け付けへと持っていく。


 受付は、アリエス嬢に代わり、ディオーネという人だった。


 彼女に手続きを頼み、無事にクエストを受注する。


「さて。それでは行きますか」

 俺は【瞬間移動】を発動して、目的の街ラスキルへと向かう。



 ラスキルは、リーティア王国とロア王国の国境沿いにあった。


 【瞬間移動】をして、真っ先に眼に入ってきたのは雪景色だった。


 月明かりに照らされて、幻想的な青さに染められている。

 その広がる景色の中にぽつりぽつりと橙色の明かりが見える。集落の光だろう。


 どれ、あまり時間はない。俺は【千里眼・大】を発動させて、魔毒竜ゴルドリアを探す。

「おー、いたいた」


 雪原をのそのそと闊歩する魔毒竜ゴルドリアを発見する俺。


 続いて【解析術】発動。どれどれ、こやつの弱点はなにかな。成る程、首の裏か。だが、そこは堅い鱗で覆われているらしい。


「さて、どうやってあの弱点部位を突くか・・・・・・て、うわ、おい!」

 俺は驚いてつい声をあげる。


 なんと、魔毒竜ゴルドリアの進行方向に、小さな女の子が二人、遊んでいたのだ。


 二人の女の子は見たところまだ幼く、五、六才といったところだろう。近づきつつあるゴルドリアに気付いた様子もなく、無邪気に雪で遊んでいる。


 いや、女の子だけではない。よく見たら、すぐ側には家々の光があった。つまりゴルドリアは、民家へと向かっている。


「くそ、まずいぞ。まずはあの子たちを助け、そして集落の人たちも助けなければ・・・・・・だが、どうするべきか」

 とにかく時間がない。ゴルドリアの方へと駆け出した俺は、とっさに魔法を発動させていた。


「【七色の閃光弾】」

 ヒュルルル~、ドンバラリラ。 ヒュルルル~、ドンバラリラ。俺の下から発射されたいくつもの閃光弾が、高く打ち上げられ、豪快な破裂音と共に夜空を鮮やかな色で染め上げていく。


「なんだ、この魔法。ただの花火じゃんかよ」

 だが、効果はあったようだ。ゴルドリアは、突然の音と花火に、意識をとられる。


 また、花火によって家々から人が出てくるのも確認出来た。女の子たちの親と思しき人影が、慌ててこどもたちを家の中に引き入れる。


「よーし、陽動作戦成功ってとこだな」

 んじゃ、攻撃開始。


 俺は【解析術】で、ゴルドリアの弱点属性を探る。

「ふむ、奴のあの堅い装甲は、光属性が弱点なのか。ならば・・・・・・」


 俺は魔法を発動させる。


「【光竜弾・改】」

 俺の手からいくつもの光の弾が、ゴルドリアへ放たれる。光の弾は、ゴルドリアの表面を穿つ。


 効果はあったようだ。突然の攻撃に、ゴルドリアはひるむ。 


 だが、依然として奴は健在だ。憤怒の様子で、攻撃者を探し始めた。


 ゴルドリアの身体から、紫と黒のガスが吹き出し始めたのに俺は気付いた。

「なんだあれは?【解析術】っと・・・・・・まずい、あれって毒ガスかよ!?」


 俺は焦り出す。一刻も早く倒さないと、あの集落の人々にも害が出るぞ。


 大急ぎで何か有効な魔法はないのか探す。

「・・・・・・あった。とりあえずこれか。超上級魔法【窮神の刃光】」


 極太のレーザーのような光が、ゴルドリアへと向かう。レーザーはゴルドリアの弱点である首の裏側をピンポイントで急襲する。バリィィィン、という音と共に堅い鱗が割れて、奴の急所が露出する。


 ゴルドリアは不意を突かれた強力な攻撃に、パニックを起こし始める。再び【解析術】で俺は奴の弱点部位を見る。表面を覆う鱗は光属性が弱点だったが、その下に隠れていた表皮の弱点は風属性らしい。


「ならば、これだな【旋風神の葬送曲】」

 幾重にも連なる風の刃が、ゴルドリアを襲う。何度も必死に回避を試みるが、その度に風の刃は執拗にゴルドリアを追い回す。


 そして遂に風の刃はゴルドリアの急所へと到達する。「グォォォォッ・・・・・・」という唸りをあげてゴルドリアのその巨体は、雪原に斃れる。

「やった!」


 俺は思わず快哉を叫ぶ。やったぞ!遂に倒したぞ!これで五十万リルドは俺のものだ!


 ゴルドリアを倒した際の地響きが辺り一帯に響き渡る。その音を聞きつけて、集落の十人たちが家からちらほらと出てくる。


 あの住民たちも、自分たちの安全を脅かす魔毒竜がいなくなり、一安心だろう。いいことをした気分だった。


「それじゃ、帰りますか」

 俺は【瞬間移動】を発動させ、帰途につく。

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