第17話 初めてのキャンプ

「で、今日はキャンプにするのよね」

「ああ。別に資金的には、この前の宿に泊まることも出来るけれど」

「いやよ。やっぱああいう所に行くのは目立つし・・・・・・」

 セレスティーヌはにべもなく断る。


「で、あなたちゃんと【キャンプゾーン】は発動出来るのよね?」

「うん、多分な」

 よくよく考えたら、【キャンプゾーン】発動ってこれが初めてだな。


 それで、結局俺たちが今いるここ――王都スレミア――の中の比較的安全と思われるそこそこ大きな公園をキャンプ場所として選んだ。


 茂みに囲まれた空間に向かう俺たち。

「ここで良さそうだな。それじゃ【キャンプゾーン】」


 【キャンプゾーン】を発動させると、ぽわぽわとした暖かな光と共に、そこにテントを始めキャンプ用具一式が出現した。


 セレスティーヌは感心したように、その用具を見る。


「へえ、すごいわね。キャンプってこんな感じなんだ」

「まあこんなもんだろ。といっても俺もキャンプとか初めてなんだが」

「え、そうなの?」

「そうだよ。ていうか、この魔法だってなんかの手違いで入手したものだしな」


 俺は肩を落とす。よく考えたら、自分の努力じゃないんだよな、この今の魔法って。ちょっと情けなくならないこともない。


 そんな俺に、セレスティーヌは優しく声をかけてくれる。

「ま、細かいことは気にしなくていいんじゃない?いずれにせよ、あなたのその能力のおかげで私は助かったわけだしさ」


 セレスティーヌは、キャンプ用具をごそごそといじる。


「さーて、お互い初心者だし、ぼちぼち頑張っていきましょうか。えーと、これがご飯をつくる道具なのかな・・・・・・」


 セレスティーヌは楽しそうに、キャンプの仕度を始める。

 

 ぼおっという音と共に火がつく。


 小さなキャンプファイヤーを囲み、俺たちは座る。


 テントは最初から設置されていたので、俺たちがするべきことと言えば火をおこすことくらいだった。


 セレスティーヌが簡単な火の魔法で、火をつけてくれた。


 ゆらゆらと夜の闇に揺蕩う火を見ながら、俺たちは何も話さない。でも、不思議と心地よい静寂だった。


 口を開いたのは、俺の方からだった。


「・・・・・・今日はご苦労だったな」

 うん?何か変な感じの言葉だな。ちょっと偉そうなのかな? 


 だが、セレスティーヌは気にした様子もない。

「うん。そちらこそお疲れ様」


 地面に落ちていた小枝を広い、焚き火に投じるセレスティーヌ。ごおっと少しだけ炎の勢いが増す。話の接ぎ穂を失い、またしばしの静寂。次にそれを破ったのは、セレスティーヌだった。


「それでさ、明日はどんなクエストを受けたいかな?」

「そうだなあ。採集クエストとかまだやっていないよな?」

「まあ、そうね。でもあれ、かなり地味だっていうけれど」

「いいじゃん。てかセレスティーヌ、地味で目立たないのが良かったんじゃないのか」

「それもそうだけれど・・・・・・」

 セレスティーヌはもう一つ、小枝を火に投じる。


「でも、やっぱもやもやするなあ・・・・・・あなたの魔力無限・全魔法使用のスキルで、もっといろいろなクエストを受けたいよ。ま、私のせいなんだけれどさ」

「そんなこと言うなって。大丈夫、予想以上に早く解決するかもよ?それこそ、朝起きたら何もかも解決していた、みたいな」

「うん、そうね。そこまで上手くいかなくても、やっていくしかないわよね」


 ぱちん、と焚き火が小さく爆ぜる。


 夜の闇の中を揺らめく炎を眺めていたら、俺はいつの間にかうつらうつらとしていた。見てみると、セレスティーヌも同様に船を漕いでいる。


「そろそろ、寝るか?」

「うん、そうね。じゃ、おやすみなさい」

 セレスティーヌは言うが早いか、自分のテントの中へと入っていく。


「そんじゃ、俺も休むか」

 俺もまた、自分のテントの中へと入っていく。


 それから三十分ほどが経った。テントの中で、俺は眠らないようにしていた。

 

 もう、いいかな。俺は起き上がり、テントの外へと出る。


 セレスティーヌの寝ている隣のテントをこっそりと覗く。寝袋にくるまったセレスティーヌは、すやすやと寝息をたてている。


 その寝顔に、不覚にも胸が高鳴ってしまう。セレスティーヌ、可愛い顔してるんだな。今更ながらそう思う。


「さて、どうするか」

 五分ほどセレスティーヌの寝顔を眺めながら逡巡したのち、俺は決める。


「超上級魔法【太古の雪の眠り】」

 俺はセレスティーヌへ魔法を発動させる。眠っているセレスティーヌの様子に変化は見られない。


 これでセレスティーヌは、明日の朝までは起きない。


 正直、この魔法をかけなくてもいいかな、と思った。だけれど、途中でもし目覚めてしまい、俺がいなくなっていたら心配させるかしれないし、念には念を入れて保険をかけておいたのだ。


「では、行きますか」

 俺はひとりギルドへと向かう。


 今日、ギルドのスラック商店でセレスティーヌが「ザルノスのローブ&杖セット」を欲しがっていたのを見たとき、ふと俺の頭に閃いた。セレスティーヌが目立つような行動をとれずとも、俺ひとりだけなら多分、大丈夫だろう。


 簡単な話だ。セレスティーヌが高難易度・高報酬のクエストが出来なければ、俺だけがすればいいこと。魔力無限のスキルさえ使えば、いくら高難易度だろうと、俺には造作もないことだ。 というわけで、俺は報酬五十万リルドのクエストをひとりで受けることにしたのだ。


 どうしてセレスティーヌに黙って来たのかって?それはつまり、こういうことだ。今晩中に五十万リルドを稼いで「ザルノスのローブ&杖セット」を購入。それからキャンプに戻り「ザルノスのローブ&杖セット」をセレスティーヌの枕元にこっそりと置いておく。セレスティーヌは目が覚めたら、欲しかったのに諦めていた物が枕元に出現しているという“魔法”を目にするというわけだ。


 ちょっとロマンチック過ぎるかな?サンタクロース的な発想で考えたのだけれど。まあいいや。セレスティーヌのためなら大した苦労ではない。


 そういうわけで、俺はクエスト室へと入る。



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