第16話 もっと稼ぎたいのだけれど

「はい、お疲れ様でした」

 アリエス嬢は、百リルド銅貨二百枚を袋に詰めて、俺たちに渡す。


「依頼主も喜んでいましたよ」

 アリエス嬢は、穏やかに微笑み労ってくれる。


「やったー。二万リルドゲットね」

 セレスティーヌは袋の中身を確認しながら、快哉を上げる。


「ふふん、ざっとこんなもんよね。さて、もちょっと高難易度のクエストでも受けてみましょうか」

 得意げになるセレスティーヌ。


「うーん。あ、その前に俺に分け前よこしてくれよ。一万リルド」


 俺は一万リルドをセレスティーヌからいただく。それから食事をして、また午後からのクエストを探す。


 掲示板に張られた無数の張り紙を見ていく俺たち。


「さて、どれにしようかしら」

「お、五十万リルドのクエストがあるぞ。一攫千金狙いと行くか?」

 俺が示したクエスト用紙に、セレスティーヌは難色を示す。


「うーん。それ、もっと上のランクのメンバー向けじゃないかしら」

「なーに、俺はどんな魔法でも使えるんだ。これくらいたいしたことないさ」

 俺は胸を張る。


「そうねえ。でも、今はやめておきましょ」

「なんでだよ?俺が超上級魔法でも何でも使えるって、セレスティーヌも知っているだろ?」

「もちろんよ。別にあなたのことを疑っているわけじゃない。実際に超上級魔法を使用しているところも目撃しているし」

「じゃあ、なんでだよ」

 セレスティーヌは少しだけ声のトーンを落とす。


「ちょっと考えてみてよ。私たち、まだ昨日ギルドに登録したばかりの新参者よ。そんな私たちがいきなり、上級メンバーしかこなさないような一発五十万リルドのクエストなんかをこなしたらどうなる?みんなの注目の的よ」

「注目されたっていいじゃん」

「ばか・・・・・・!私は追われている身なのよ・・・・・・!」

 あ、しまった・・・・・・。すっかり忘れていた。


「すまん、セレスティーヌ。そのことを完全に失念していたよ」

「もうっ!私だけじゃなくて、あんたも危ないのよ」

 必死に熱弁を振るうセレスティーヌの眼は潤んでいた。 俺はセレスティーヌに謝る。


「悪かったよ、セレスティーヌ。そうだな、当分は新規メンバーらしく、手堅く稼いでいこう。目立ったら駄目だもんな」

「そうよ。分かってくれたのならいいけれど・・・・・・」

 セレスティーヌは機嫌を直してくれる。


 しかし、こりゃ困ったな。とっととセレスティーヌの抱える問題をなんとかしないといけない。でないと、おちおち安心して表も歩けやしない。


「ということで、次はこれにしましょ」

「どれどれ・・・・・・えー、ちょっと地味過ぎやしないか。公園のゴミ掃除って」

「いいの。それにさ、私たちも毎日宿に泊まることは出来ないでしょ。となると、当然の如く公園でキャンプして寝泊まりすることになるわけだし、公園は綺麗にしておいていいでしょ」

「うーん。別に公園でキャンプする必要ってないんだよな。今気付いたんだけれど」

「どうして?」

「だって、その気になれば【瞬間移動】で、どこにでも行けるし」

「あ、それもそうね。でもまあ、それはそれとして、清掃クエストっていいんじゃない?」

「はいはい」

 とかなんとかで、その日もクエストをこなしていく。



 ということで、今日もクエストが終わった。 俺たちはギルド食堂で夕食をとる。

「二人併せて三万リルド弱といったところね」

 もぐもぐと咀嚼しながらセレスティーヌは確認するように言う。

「だな。二日間の稼ぎとしては悪くないんじゃないか?」

「そうねえ。ま、気長に稼いでいきましょ」


 食事を終えた俺たちは、ギルド内をうろつく。


 途中、ギルド内の武器防備屋・スラック商店を通ったとき、セレスティーヌの歩みがふと止まった。 五秒ほど、商店をじっと見つめた後、慌てて立ち去るセレスティーヌ。


「どうした?セレスティーヌ」

「ううん、なんでもない」

「いや、なんか今見ていただろ」

「いいの、分不相応な望みだから。気にしないで」

 そう言って、すたこらさっさと先へ進むセレスティーヌ。


「なんだよ、たくもう」

 俺はスラック商店の方へと目をやる。そしてあることに気付く。

「なるほどね。あれが欲しいってわけか」

 そこにはシンプルな青の色合いのローブと、高級そうな木製の魔法杖のセットがあった。

「ザルノスのローブ&杖セット お値段五十万リルド」


 ・・・・・・確かに、今の俺たちには高くて買えそうにはないな。


 まったく。なんでこうなるのかな。せっかく魔法使い放題なんだから、これくらいポーンと稼ぎたいもんだよ。


 ま、セレスティーヌが目立ちすぎて危険にさらされるリスクを犯すわけにはいかないからやむを得ないか。


 ・・・・・・ん?待てよ。じゃ、セレスティーヌが目立たなければ大丈夫なんだよな。


 俺の頭の中に、あるアイデアが湧いてきた。始めは小さくもやもやとしていたそのアイデアは、瞬く間に具体的な形をなしてくる。


「・・・・・・これしかないな」

 そう呟いたところで、意識を現実に戻す。いけないいけない、早くセレスティーヌを追いかけなきゃ。


 俺はセレスティーヌの方へと向かう。

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