第20話 異変
キャンプに到着。だが、そこに広がる光景を目にして、俺は言葉を失う。
「何が・・・・・・あったんだ?」
俺が寝ていたテントもセレスティーヌが寝ていたテントも、共にボロボロに引き裂かれていた。
焚き火は消えて、蹴散らされていた。
「セレスティーヌ!セレスティーヌ!いたら返事をしてくれ!」
だが、俺の呼びかけもむなしく、いかなる返事も返ってこない。
頭が混乱してくる。俺がここを去ってから数時間しか経っていない。その間、何が起こったのだ?いや、それよりもセレスティーヌだ。セレスティーヌはどこにいる?
引き裂かれたテントの中を念のために調べるが、当然ながら誰もいない。
狂ったように辺りを探していくうちに、少しだけ気持ちが落ち着きを取り戻し、冷静な思考となる。
ああ、そうだ。これはルディとかいう奴の仕業に違いない。奴め、寝ている隙にセレスティーヌを連れ去ったのだ。
だが、待てよ。俺は確か【鉄壁神の結界】という強力な防御魔法をここにかけていたはずだ。なのになぜ?奴らは俺を上回るほどの魔法が使いこなせるというのか。それで【鉄壁神の結界】を破ったとでも言うのか。
疑問に思い、俺は【鉄壁神の結界】の説明を読む。そして、自分の注意力の足りなさに深く失望するのだった。
「【鉄壁神の結界】*注意事項*この魔法は、発動者が結界から五メートル以上離れた場合、一時間後に消滅します」
・・・・・・馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ。俺は底抜けの馬鹿だ。こんな簡単な注意事項も見落とすなんて。
ルディたちが襲ってくる可能性は、考慮していたのに。なのに、こんなところでミスをするなんて。
悔しさと自分に対する怒りで、俺は地団駄を踏み、地面を拳で殴りつける。
・・・・・・くそ、どこに連れ去られたんだ、セレスティーヌ。今頃どうしているんだ。ひどい目に遭わされていないかな。俺に力があれば、救出に行けるのに・・・・・・。
ん・・・・・・?待てよ。そうだ、俺には力があるじゃないか。無限に湧き出る魔力と、全属性の魔法が使用可能という、素晴らしいステータスが。
「セレスティーヌを助けなきゃ」
パニックで混沌としていた俺の頭は、急速に冷静さを取り戻してきた。そうだ、セレスティーヌを助けるのだ。この手で。
そうと決まったら、一刻も早く行動に移さねば。まずは、そう。セレスティーヌに何が起こったかを知る必要がある。
「何か使えそうな魔法はないかな」
程なくして、俺は魔法一覧から使えそうなのを発見する。早速発動する。
「これでいいんだよな。【千里眼・巻き戻し】」
この魔法は、どうやら【千里眼】シリーズの一種で、過去を見ることが出来るものらしい。
数時間前の光景が、俺の脳内に浮かび上がってくる。ちょうど俺がこっそりとキャンプから出立した際の映像が展開される。
俺が出て行ってから、一時間半後。すでに【鉄壁神の結界】は切れている。そのとき、漆黒の鎧を身にまとった三人組が、キャンプ内に潜入してきた。
こいつら、この前俺が倒したのと同じ恰好だな。だがその黒い鎧は以前見たのより強化されているようだった。
奴らは手にした剣でテントをビリビリに引き裂く。そうしてセレスティーヌを発見する。
ぐっすり眠りこけているセレスティーヌを前にして、奴らは言葉を交わす。
「こいつで間違いないな?」
「ああ。確かにそうだ」
「それにしても、運が良かったな」
「全くだ。ギルド内で偶然見かけて、もしやと思い【写映術】でこっそり顔を撮っておいたんだ。それで、ルディ様に確認をしたら見事的中。ということで後をつけて来たということだ」
「更には、先発部隊を瞬時に蹴散らしたという、あの得体の知れない用心棒がいなかったということも幸運だったと思わねばなるまい」
「しかし、よく眠っていやがるな」
「おい、てめえ起きろ!」
セレスティーヌの頬をばしばしと叩く連中。だが目を覚ます気配はない。
「まあ落ち着け。あまり乱暴に扱うなと、ルディ様からのお達しだからな」
「ったくよう。この場でさっさと始末しておけば良いものを」
「しかたあるまい。直々に手を下して、死ぬ前にたっぷりと苦しめたいというのが、ルディ様からのご意向だ」
「しゃあない。しかし、こいつよく眠っているなあ。全然起きないぜ」
「余程神経が太いのだろうな。このまま運ぶか」
そう言うと、漆黒の鎧の二人組は、セレスティーヌを抱えてその場を去る。
「・・・・・・!!」
言葉にも声にもならない叫びが、俺の中から湧き上がってくる。同時に、全身から嫌な汗が吹き出して止まらない。
怒りが心の中で臨界を迎え、マグマのごとく噴火しそうだった。
ルディ・・・・・・!卑劣なことをしやがって・・・・・・!
だが、俺の方にも落ち度はある。そもそもセレスティーヌを一人になんかするべきじゃなかった。しかし今更悔やんでいても始まらない。
俺は【千里眼】を発動させ続け、連中のその後を追跡する。
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