第12話 宿探し
さて。魔法【キャンプゾーン】を発動させたいのだが、問題はどこで行うかだ。
【キャンプゾーン】とは、あくまでもキャンプセット一式を展開するだけの魔法だ。土地を創り出すような魔法は、見たところない。というわけで、キャンプの出来る場所を探さねばならない。
「どこがいいかな」
「うーん・・・・・・とりあえず、公園とか?」
そういうわけで、公園に来る俺たち。
「どこか、ちょっとした空間があればいいんだがな」
俺たちはキャンプできる場所を探す。
だが、中々よさげなスペースが見つからない。
「なあ、セレスティーヌ。今持ち金はいくらだ?」
「?七千リルドだけれど」
「その値段で、今晩だけでもどこかの宿屋に泊まれないか?」
「え、どうして?お金もったいないよ」
「いや、そうなんだけれどさ。今ちょっと考えていたんだ。今晩くらいは、屋根のある夜露をしのげるところでゆっくり寝てもいいんじゃないか、てさ」
「うーん、どうして?」
首をかしげるセレスティーヌ。
「いやさ、お前、今日は人生で一番大変な日だっただろ。朝っぱらから命狙われて、部屋を爆破されて、刺客と死闘して・・・・・・それで見ず知らずの俺と知り合って、ギルドに所属してパーティまで組んだ。自分では自覚なくても、かなり疲れているだろうな、て思うんだよ。だから、今日くらいはちょっとばかしいいところで寝ても、て思ってな」
「ふーん・・・・・・優しいんだ」
セレスティーヌは突然顔を近づけてきて、まじまじと俺を見る。慌てて身をのけぞらせる俺。
「ま、探すだけ探すのもいいかもね。でも、七千リルドで一晩泊まれるところってあるのかなあ・・・・・・」
セレスティーヌはそう言いつつも、公園の出口へと歩を向ける。
そういえば、この世界のリルド、てどれくらいの価値基準なんだろうな。前世で使っていた日本円とそこまで変わらない気もするが、まあ徐々に慣れて分かってくるだろう。
「んー、でもこの辺りどこか宿あるかな」
「あ、それなら多分この魔法で探せるかも【千里眼・大】」
【千里眼・大】を発動させ、俺は街一帯をくまなく探していく。
「へえ。【千里眼・大】いいな~。私はまだ、【千里眼・中】までしか使えないから」
「ま、いずれ使えるようになるだろ。お、いくつか宿が見つかったぞ。じゃ、最寄りのところから行ってみるか」
ということで、俺たちは一番近い宿へと向かった。
「ええー!一人一万、二人で二万リルド!」
セレスティーヌの驚いた声が、室内に響く。
そんなセレスティーヌの反応に対して、フロントのおっさんは困惑気味だ。
「そう言われてもねえ。こちらも商売だからさ、それだけいただかないと割が合わないんですよ、お嬢さん」
「そこをなんとか!なんとかお願い出来ませんか?」
「いや、俺には決定権はないんだよ・・・・・・だから、申し訳ないが他を当たってくれないか」
「そんなあ~」
肩を落とすセレスティーヌに、俺は声をかける。
「セレスティーヌ、しかたない。次行こう」
「でも・・・・・・」
「ここで道草食っても埒があかない。日が暮れるぞ」
というわけで俺たちは次の宿を目指す。
だが、二軒目も三軒目も同様の反応だった。とにかく宿代が足りない。それでは泊められない。だからうちでは無理だ。
「やっぱ七千リルドじゃ、圧倒的にお金不足なのよね・・・・・・私、キャンプ、というか野宿でいいよ」
セレスティーヌはすっかり諦めモードだ。
「いや待て。まだまだ沢山あるしさ。格安の宿だってきっとあるって。【瞬間移動】で行くから、そんなに歩かなきゃいけないわけでもないしさ」
俺は必死でセレスティーヌを励ます。そもそも宿に泊まろうと言い出したのは俺からだ。それなのに、やっぱり野宿では、俺としてもあまりにセレスティーヌに示しがつかない。
「うん、そだね・・・・・・」
セレスティーヌはそう言い、俺についてくる。
「やった!遂にあったぞ!」
俺は快哉を叫ぶ。
「見ろ、セレスティーヌ。めちゃ安いぞここ」
その宿は、あまり日当たりの良くない、薄暗い通りにあった。
宿の側の看板には、こう書かれている。
「お二人様
ご宿泊・・・・・・六千リルド
ご休憩・・・・・・二千リルド」
「ここだったら、二人で明日の朝まで大丈夫だぞ・・・・・・あれ、セレスティーヌ。どうした?嬉しくないのか」
嬉しいどころか、セレスティーヌは額にしわ寄せて大層険しい顔になっていた。
「あんた・・・・・・ここがどういう場所か分かっているわけ?」
「え?ただの格安の宿だろ?だってここにこうして値段も・・・・・・」
あっ。
俺は改めて看板の内容を確認する。「お二人様」「ご休憩」の文字が頭の中で反芻され、再構築される。
ここって連れ込み宿――つまりラブホテルだ・・・・・・。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
気まずい沈黙が流れる。
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