第13話 宿泊
「あ、あのさ。なんつーか、ごめん。安さにしか目がいってなかったっていうかさ」
俺は慌てて取り繕う。といっても、なに言ってもどんどんおかしくなるだけだと薄々分かってはいるが。
セレスティーヌはしばらく沈黙する。
「・・・・・・いいよ」
「へ?」
俺は聞き間違いではないかと耳を疑う。
意を決したようにセレスティーヌは宣言する。
「泊まろうよ、ここに」
「え、でもいいのか。お前・・・・・・」
「うん・・・・・・私たち、男と女だから、何も言われず泊めてくれるだろうし。それに、あなたなら変なことしない、て信じてよさそうだし」
「いいのかよ、本当に・・・・・・俺、お前と今日初めて会ったばかりだぞ?」
「うん。それに、私たちはグレートパーティの仲間でしょ?つまり、男と女である以前に、仲間なの。いきなり仲間を裏切るようなことはしないよね?そんなことしたら、もう誰もあなたの仲間になってくれる人はいないでしょうね」
「む・・・・・・」
俺はセレスティーヌに論破される形になる。
「さ、そんじゃさっさと泊まろ。私、いい加減疲れちゃった~」
セレスティーヌはさっさと宿へと行く。
「いいのかよ・・・・・・」
俺は何か腑に落ちない気持ちで、セレスティーヌについていく。
いかがわしい宿とはいえ、別に部屋の内部は至って普通だ。
ソファがあって、そこそこ大きなダブルベッドがある。それだけの作りの簡素な部屋。
「はあ~」
セレスティーヌは部屋に入ると同時に、ベッドに倒れ込む。
俺はそんなセレスティーヌを見ながら、ソファに腰掛ける。
今日という長い一日を振り返る。転生、セレスティーヌとの出会い、ギルド登録・・・・・・色々ありすぎたな。
それで、なんの因果かこうして二人で泊まることになったし。
しばらくぼーっと過ごす。セレスティーヌがベッドから身を起こして、室内を見回し気付いたように言う。
「あー、どうしよう・・・・・・」
「ん?どうかしたか」
「いや、君にはあんま関係ないから・・・・・・」
「関係ないことはないだろう?これでもグレートパーティの仲間だろ。今現在二人しかいないパーティだが」
「うーん・・・・・・」
しばらく考えた後、セレスティーヌはためらいがちに恥ずかしそうに言う。
「お風呂、ないんだよね。ここさ・・・・・・」
あー、なるほどね。
ま、安いんだからしかたないだろうが、女の子のセレスティーヌとしては、やっぱり風呂に入ってさっぱりしたいのだろう。
「まあ、確かにな。我慢出来ないのか」
「うん・・・・・・やっぱ今日は疲労困憊だからさ。一日の最後にお風呂くらい入りたいわね・・・・・・」
「そうかー。あ、ちょっと待って」
俺はそう言うと、魔法一覧を確認する。
「えーと、なんかいいのないかな・・・・・・あ、これは多分いいかも」
「ん?」
不思議そうに俺の方を見てくるセレスティーヌに、俺は魔法を発動する。
「【清浄化】」
セレスティーヌは不思議そうな様子だが、やがて自分の体に起きた変化に気付く。
「あれ?なんか、すごく身体がすっきりしたというか・・・・・・なんだろ、この感覚」
「魔法で身体の汚れを蒸発させたんだよ」
俺は説明する。
「へえ~。そんな魔法もあるんだね」
「らしいな」
俺は言う。
「ありがと。おかげで今日最後はゆっくり眠れそう。いや、ゆっくりってほどでもないか。あなたがいるわけだしね」
「そんな言うなら、俺だけここから出て行って野宿でもいいぞ?」
だがセレスティーヌは首を振る。
「ううん。側にいてよ。やっぱり、信頼出来そうなあなたより、いつまた来るかもしれないルディの手下たちの方がよっぽど恐いもの」
「ああ。必ず俺が守ってやるよ」
我ながら、随分とキザな台詞を口にしているものだ。
そういうわけで、俺たちはダブルベッドの端と端をとる形で、眠ることになる。
あまりにも色々ありすぎた一日で、たまりにたまった疲労感が一挙に噴出してきて、俺たちはたちまち眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます