第9話 初クエスト
ほどなくして、俺たちはアリエス嬢に呼び出され、無事書類を提出する。書類を見ながらアリエス嬢は、頷く。
「なるほど。グレートパーティ、ですか」
「はい。ちょっとばかしかっこつけすぎたかもですが」
かっこつけすぎた、というよりただ単にイタいだけな感じもしなくもないが。
「同じ名前のパーティもいないみたいですし、これで登録しておきましょう。ということで、レイさん、セレスティーヌさん。あなたたちは晴れて今からギルドのメンバーの一員です。よろしくお願いしますね」
無表情だったアリエス嬢が少しだけ顔を綻ばせる。
「後、これはちょっと宣伝なのですが・・・・・・」
そう言うとアリエス嬢は、紙をもう一枚俺たちに手渡す。
「見ていただくと分かるのですが、それはまあなんというか寄付のお誘いです」
「寄付?」
「そうです。いえ、本当に気になさらなくても良いのですが・・・・・・私たちギルドの運営資金は基本、寄付でまかなわれているものですからね。ギルドに所属しているあるいはかつて所属していた人の中には、巨万の富を築いた人もいるわけです。もし、そうやってお金に余裕ができましたら、ギルドへの寄付も検討していただければ、という次第なのです」
「なるほど」
俺とセレスティーヌはそのチラシを読む。
「まあいいんじゃない?別に、強制とかでもなさそうだし」
「そうだな。つーか、寄付する余裕なんて、いつになることやら・・・・・・今無一文だし」
俺は空っぽの財布を取り出し、パタパタと振って中をアリエス嬢に見せる。アリエス嬢は苦笑して続ける。
「はい、別に無理にとは全く申しておりませんので・・・・・・」
「分かっているよ。ま、楽しみにしておいてくれ。ここで受けたミッションなんて、ガンガンこなして、たんまり儲けて、このギルドにじゃぶじゃぶ寄付して、最後はこの建物すら建て替えてみせるぜ!」
「ええ。期待していますよ」
アリエス嬢は穏やかに微笑む。
「レイ、とりあえず今日の分を稼ぐためのクエストを斡旋してもらったら?私たちギルド初心者だし、それくらいは最初、お願いできるんじゃないかしら?」
「そうだな。アリエスさん、お願いしていいですか?」
「ええ。初回特典ということで。確か、簡単な配送任務があったはずです」
アリエス嬢はそう言うや否や、ほいと新たな紙を渡してくる。
「これが依頼用紙です。そこの掲示板に貼り付けられているものですね。そこの掲示板に貼られている依頼用紙をこちらに持ってきて、依頼受注ということになります。で、これはまだそちらに貼り付ける前のものですが・・・・・・簡単な内容のものですので、あなたたちが受注したことにしましょう。あ、一応その前に内容を確認しておいてもらいましょうか」
そう言うとアリエス嬢は、依頼用紙を見せてくる。その内容は次のようなものだった。
「依頼内容 工芸品の配達をお願いします
依頼主 ドロン工房
当工房で作成した工芸品一点を、明日までに配達してもらいたいのですが、どなたか引き受けてくれる方はいないでしょうか。当工房の方が今現在どうしても人手が開いておらず、配送することができません。本当に小さな物ですので、配送するのにお手間をとらせることはいたしません。配送物はギルドに預けております。
報酬 2000リルド」
「ドロン工房さんは、当ギルドからほんの数軒先にある小さな工房です。時折、こうして配達の依頼を出してきます。どうします?引き受けますか?」
「あ、はい」
とりあえず、運ぶだけなら何とかなるだろう。セレスティーヌの方に目をやると、賛同したように頷いてくれる。
「それでは依頼受注とします。はい、こちらが配達先の住所、そしてこれがそのブツです」
アリエス嬢は、小さなメモと包装紙にくるまれた小箱を俺たちに渡してくれた。
「中に何が入っているのかな・・・・・・?」
セレスティーヌは興味津々といった面持ちで、小箱をいじる。
「あ、セレスティーヌさん。扱いは慎重に。配送物にもしものことがあったら、ペナルティは大きいですよ」
「は、は~い」
セレスティーヌはちょっとだけ声のトーンを下げる。
さて、それではこの小箱を運ばないといけないが・・・・・・なんか、収納魔法とかなかったっけ?
俺は魔法一覧をざっと見る。あったあった。【保管庫】ていう、まんまな名前の魔法が。一応、説明を見ておくか。【保管庫】に入れた荷物は基本的に取り出さない限りどんな傷もつけることもできません。また、【保管庫】内では時間が停止しているため、生鮮食品などを入れておいても腐りません。
なーるほど。これなら大丈夫だろ。
俺は【保管庫】を発動して、小箱を入れる。 セレスティーヌは眼を丸くする。
「へー・・・・・・【保管庫】使えるんだ。いいな~」
「ん?【保管庫】ってそんな珍しいのか」
「そうだよ。てかそれって一応最上級魔法だからね。普通、物の収納には【カプセル】を使うし」
「どう違うんだ?」
「【カプセル】は、内部で時間の経過はあるし、収納スペースも限られているし・・・・・・その点、【保管庫】は、時間も経たない、収納スペースは実質無限大。全然違うよ」
若干嫉妬の念の混ざった視線を俺に向けてくるセレスティーヌ。俺は慌ててフォローする。
「ま、まあさ。それなら、セレスティーヌの【カプセル】が足りなくなったら、遠慮無く俺の【保管庫】使ってくれよ。どうせ末永く付き合うことになるだろうし、好きに利用してくれ」
「え、うん。末・・・・・・永く・・・・・・?」
きょとんとした顔のセレスティーヌ。それからみるみる彼女の顔は赤くなっていく。
「・・・・・・ばか!」
え?なんで俺怒られているの?何か変なこと言ったっけ?
「もう知らない!」
セレスティーヌはぷいとそっぽを向くと、とたとたとどこかへと行く。
「あ、待ってくれ~セレスティーヌ」
俺は慌てて後を追う。
しばしギルド内でセレスティーヌと追いかけっこをして、やっと彼女に追いつく。顔の赤みは引いて、多少は落ち着きを取り戻してくれたのか、セレスティーヌは俺の方を向いて言う。
「ま、いいわよ。それでは、配送任務を始めましょうか」
「お、おう・・・・・・」
「配送先は、この住所ね。【瞬間移動】でパッパと済ませましょう」
「はい」
俺は言われるままに、【瞬間移動】を発動させる。
ものの五分ほどで配送任務は完了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます