第8話 ギルド登録

 膳が下げられると、セレスティーヌは財布を覗きながら、ため息混じりに言う。


「はぁ・・・・・・でも、手持ちのお金これだけなのよね。これじゃ、今夜の分の食事ですっからかんになっちゃう。寝るところもないし、このままじゃルディの手先にやられる前に飢え死にしちゃう」

「大変だな・・・・・・ちょっと待て、何か良い魔法がないか探すから」

 俺は魔法のリスト一覧を目の前に展開する。【金貨ざくざく鋳造】とかの魔法はないのかな。


「あ、これなら使えそうだぞ・・・・・・【キャンプゾーン】」


 【キャンプゾーン】とは、いつでもどこでもその場にテント、焚き火、寝袋の一式を展開出来る魔法らしい。セレスティーヌにその魔法のあらましを見せながら俺は言う。


「とりあえず、この魔法なら寝る場所だけには困らないな」

 セレスティーヌは感心したような様子で俺の示した魔法を見てくる。


「へえ~、こんな魔法があるのね。知らなかったわ」

「魔法学院成績上位者でも知らないのか?」

「うん、まあね。自慢にも何にもならないけれど、私たちが学んでいる魔法ってのは、あくまで正当な格式張った魔法に限られるからね。こういう日常的な魔法は、私たちの学習対象外なの」

「ふーん、そんなものなのか」

 よくわかんねえな。


「ま、でも寝る場所確保だけでも大きな進歩よ」

 で、目下のもう一つの問題は食糧ね。セレスティーヌはそう続ける。 


「とりあえず、食糧を買うためにはお金が必要。つまり、日銭を稼ぐことが必要なわけだからやっぱりギルドで何か依頼を受けるのが一番ね。その前に登録をすませなきゃだけれど」

「じゃ、そうと決まったら早速いかねえか?」

「うん、そうね」


 そうして俺たちはギルド内のクエスト室と称される部屋へ行く。


 クエスト室とは、その名の通り、クエストを管理する場所だ。


 部屋に入ると、まず目に入ってきたのはどでかい掲示板だった。そこには無数の依頼用紙が所狭しと貼り付けられていた。


「さーて、まずは登録しないといけないのだけれど・・・・・・」

 セレスティーヌは巨大な部屋を見回す。


「あ、とりあえずあそこにいるギルド嬢に訊けばいいかな」

 ということで、俺とセレスティーヌはギルド嬢の所へと向かう。


 ギルド嬢は、この混沌とした部屋の中に咲く一輪の花のような凜々しさを漂わせていた。肩くらいまでの長さの朱色の髪に、髪の色よりもう少し濃い緋色の瞳。


 俺たちは名を名乗り、ギルドの登録を頼む。まっすぐな視線でギルド嬢は俺たちのことを見てくる。


「了解しました。では、手続きに入りましょう。あ、申し遅れました。私、ギルド嬢を務めております、アリエス・リカリスと申し上げます。以後お見知りおきを」

 アリエス嬢は優雅に頭を下げる。


「では、早速登録の方を・・・・・・あ、その前に一つおたずねしますが、あなたたちはパーティを組んでいますか?」

「あ、はい・・・・・・」

 俺たちは曖昧な返事をする。たった今組んだばかりで、パーティを名乗るのは少々ためらわれるよな。


「別に、どちらでも構わないのですが・・・・・・ただ、もしパーティを組まれるのでしたら、こちらの書類にパーティ名とメンバーのお名前だけは書いていただくことになっていますので」

 アリエス嬢は一枚の紙切れを渡してくる。


「ということで、手続きが終わるまでしばしお待ちください」

「この書類って、書いたらその、あんたに渡せばいいんだよな?」

「はい」

 俺たちは手近なイスに座り、ちと考える。


「パーティ名って何にしようか・・・・・・」

「うん、なにがいいかな・・・・・・」

 頭を突き合わせて考え込む俺とセレスティーヌ。


 ふと俺の頭のなかに、ある単語が思い浮かぶ。


「セレスティーヌ、これでいいんじゃないか?」

 手にした鉛筆で書類に書き込む俺。その文字を見て、セレスティーヌは首をかしげ、複雑そうな顔をする。


「うーん、単純というか、ちょっと名前負けしていないかな?」

「いいだろ?魔法学院優等生のお前と、魔力無限の俺。相応しいパーティ名だ。それとも、何か他に代案はあるのか?」

「まあ、私もアイデア無いし、それでいいわよ」

「おーし、そんじゃこれで決定だな」

 俺が手にした書類。そこには「グレートパーティ」という文字が、書き記されていた。


「グレート、ね・・・・・・」

 セレスティーヌは苦笑交じりの微笑を浮かべる。


「別にいいだろ?名前負けなんかしない、いや俺が絶対にさせない」

「分かったわよ。それじゃ、それで申請よろしく」

「りょーかい」

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