第7話 ギルド食堂にて

 昼だというのに、ギルド内は賑やかだった。人間以外の様々な種族の、ハンターや冒険者と思われる連中がうろついている。


「さて・・・・・・食堂は・・・・・・あったあった、あそこね」

 セレスティーヌが指さした先には、食堂を意味するプレートが掲げられていた。


 食堂に入り、空いた席に腰掛ける。


「さーて、命の危機から救って貰ったお礼だから、何でも好きなもの食べて」 

「何でもいいのか?」

「ええ。遠慮はいらないわ」

「それじゃあ・・・・・・」

 メニューを見ていただけで、乾ききっていた口内に唾液が溢れてくる。またしても俺の腹はぐぅぅぅ~と鳴る。


「これと、これと、これでいいかな」

「おっけー。それじゃ私はこの定食セットで・・・・・・」

 俺たちは注文を終える。


 程なくして、プレートに載った食事が運ばれてくる。食事をしながら、俺たちは会話を進める。


「ところで、あなたの経歴についてもう少し聞かせてもらえないかしら?なんか、あまり聞けなかったし」

「え?ああ・・・・・・」


 俺はしばし考え込む。異世界から転生してきたこと、その際にチートな魔法力を授けられたことを話すべきか否か・・・・・・。


「あれ?ひょっとして、話しにくいこともあるのかしら?だったら無理にとは言わないけれど」

 セレスティーヌは身を乗り出して、沈思思考している俺に顔を近づけてくる。距離が近いって・・・・・・。


 どぎまぎしつつ、俺は話を続ける。

「分かった。それじゃ、お話しようか。俺の過去を。といっても、信じてもらえるかは分かんないが」

 ここはやはり、正直に話しておこう。確信はないのだが、彼女とはこれから長い付き合いになりそうな気がするからな。



「・・・・・・というわけなんだ」

 前世のことから洗いざらいすべて話し終わった俺を、セレスティーヌはなんとも言えない表情で見つめてくる。


「つまり、あなたのその際だった魔法能力は、努力の賜物でも何でもなく、ただで女神様から授けられたもの、てこと?」

 どことなく棘のある言い方に、俺は萎縮してしまう。


「そうです・・・・・・」

「ふーん、なるほどねえ・・・・・・」


 複雑な表情をするセレスティーヌ。そりゃ、今までの自分の血のにじむような努力で習得してきた魔法を、こんなチートな方法で手にした奴を目の前にしたら、心穏やかではなかろう。


「いやでも、俺だって好きでこんな風になったわけじゃないんですよ?前世で死んでしまったのも、不本意なことだったわけだし」

 しばし思案するセレスティーヌ。いたたまれない沈黙が五分ほど続いた。


 その後、セレスティーヌは顔をあげる。晴れやかな表情をしていた。


「うん、分かった。それで、あなたこれからどうする気かしら?」

「うーん、とりあえずギルドで職探しでもしようかなー、て。何か依頼をこなしていけば、少しはお金も貯まるだろうしさ。それにさ、魔力無限だから、そこそこ難しいクエストもこなしていけそうだし」

「うんうん、当面しのいでいくには、それしかないでしょうね。で、あなたまさかクエストをソロで受けるつもりかしら?」

「ソロ?」

「そうよ。つまり、一人でやっていくつもりなのか、それともパーティを組むのかってこと」

「あー、何も考えていなかったな、そんなこと」


 うーん、どっちがいいのかね?


「確かに、ソロにはメリットもあるわよね。パーティを組んだら、基本報酬は山分けだし。その点、ソロなら報酬はすべてひとりじめ」

 あなたなら、ずば抜けた魔法の力があるからそっちの方が魅力的かもね、とセレスティーヌは付け加える。


「でもまあ、そんなあなたでも、いつでも一人でやっていけるかしら。いかに強力な魔法といえど、それを発動するのは基本的に一人。死角がないとは言えないわよね」

「え、うん、まあそりゃそうかもな・・・・・・」

「だから・・・・・・良かったら私とパーティ組んでもらえないかしら?」

「え?」

「べ、別に嫌なら構わないのよ。ただ、私の方も当分はギルドの厄介になることになりそうだし、当面は二人で協力しないかしら、てこと。報酬の配分はあなたの好きにしていいわよ。あ、でも少しはちょうだいね。せめて食べていけるくらいにはね」

「いや、別に折半で構わんが・・・・・・」

「ホント?なら嬉しいな~」

 セレスティーヌは喜ぶ。


「でもさ、その前に今お前の置かれている状況を何とかしなきゃいけねえだろ?間違いなく、これからも次々と刺客が派遣されてお前を襲うぞ」

「う、うん、そうね・・・・・・」

 肩を落とし落ち込むセレスティーヌ。そんな彼女に励ましの言葉をかける俺。


「まあまあ、そう落ち込むなよ。安心しろ、俺の魔法の力でお前を守ってやる」

 女の子に「守ってやる」なんて台詞、少し恰好つけすぎたかな。


 だがセレスティーヌは、俺のそんな胸中を察することもなく、顔をくしゃくしゃにして俺に言う。

「ありがとう・・・・・・!正直、ひとりじゃ不安いっぱいだったの。一人でも味方がいてくれる方が心強い」

 その声は、涙声になっていた。


 ガバッと俺のことを抱きしめてくるセレスティーヌ。


「本当に本当にありがとう・・・・・・!」

 流石にこういきなり女子に抱きつかれることは、想定していなかった・・・・・・。細くも柔らかな身体が俺の全身を包み込む。その弾力と暖かさに、身体の芯が熱くなり、くらくらしてしまう。


 まあ思えば、前世では女の子と付き合ったことなんてなかったしな。こんな感覚なのか。しかし、それにしてはあまり胸部にあるべき膨らみがないような・・・・・・いや、この際それは考えないでおこう。


 しばしの抱擁の後、「あっ・・・・・・」とセレスティーヌは俺から離れる。その顔はほんのりと赤くなっていた。


「ご、ごめんなさいね。わたし、ついつい興奮してしまったみたいね」

「いや、構わんよ」

 正直、嬉しかったしな。


 その後俺たちは、四方山話をしながら食事を終えた。

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